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天才・江口寿史が提示した「美人画」の新たな“基準” 革新は「誰の画風にもない“鼻の穴”のある女の子」
"刹那の切なさ"を捉えておきたいというのは絵を描くモチベーションの1つ
江口寿史そうなんですよ。僕がイラストの仕事をするようになったのは、レコードからCDへの移行期。レコード屋さんからLPが消えつつあった時代ですね。だから(LPジャケットの基本サイズである)31.5cm×31.5cmに描くことにはずっと憧れていて。CDもいいけど、やっぱりLPは、サイズの分だけ見る側に訴えてくるものが強いんですよね。ジャケットの仕事がたまってくるごとに、「いつかこれをLPサイズにしてまとめたい」という気持ちが大きくなっていって。前作の画集『step』を作ってるときに「これが売れたら次はLPサイズの画集を」と担当編集者にアピールしてました。そういう意味で40年くらい仕事してきた中でも、「ついにひとつの夢が実現できた!」という1冊です。
──CDジャケットを手掛けられる際は、どのようにインスピレーションを広げられるのですか?
江口基本はその音楽を聴いてイメージを膨らませる感じですけど、先方から明確なオーダーがある場合もありますよ。最新の仕事だと、SEKAI NO OWARIのシングル「umbrella / Dropout」のジャケットはFukaseさんから「水玉のワンピースを着ている女の子が振り向いている絵を」というオファーがありました。傘を差してるのは僕の付け足しで、それは曲名が「umbrella」だったからなんだけど、傘を差した絵はあまり描いたことなかったからいい機会だな、と。こういう仕事は職人に徹することができてけっこう楽しかったりしますね。
江口 今回のジャケットアートワーク集の表紙にもなっている、銀杏BOYZのアルバム『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』は、峯田(和伸)くんから「『ストップ!!ひばりくん!』連載時の表紙をそのまま使いたい」というオーダーでした。ただ昔のアナログの原稿をデジタルに変換する際に、細かいゴミを処理するのがめちゃくちゃ大変で。結局、ポーズや構図はそのままに新しく描き直したんです。でも今考えるとパンクバンドだしね、むしろ汚いままでもよかったのかなって。まあ、峯田くんはやさしいからキレイになった絵を喜んでくれましたけどね。
──大きな瞳でこちらを見つめてくるひばりくんのなんとも言えない表情が印象的です。
江口今の言葉だと「エモい」って言うのかな。うれしいんだか悲しいんだか、はっきりしない微妙な表情。若い子たちが楽しそうに盛り上がってる中で、ふとそういう表情をする瞬間ってあるじゃないですか。あれってたぶん「今この時間は二度と戻ってこない」ということを、意識的なのか無意識的なのか、でもどこかで気づいてるんだと思う。そのはかなさというか、"刹那の切なさ"みたいなものを捉えておきたいというのは絵を描くモチベーションとして1つあるかもしれないです。