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「日本酒に賞味期限」はない?おいしく飲める期間や古いお酒の活用方法を解説
日本酒は牛乳や清涼飲料水と比べれば傷みにくいが、それでも時間が経過すれば劣化する可能性は十分にある。
開封前も開封後も含めて、日本酒を安全に美味しく飲める期間についてぜひ知ってもらいたい。
本記事では日本酒の賞味期限や古いお酒の特徴などをわかりやすく解説する。
日本酒の種類による違いや常温保存についても紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
日本酒に賞味期限はない?ある?
消費期限との違いやラベルに記載されている年月の意味についても解説していく。
日本酒に賞味期限がない理由
なぜなら法的な義務がないからだ。
賞味期限は食品衛生法という法律の基準によって定められているもので、製造後に変質や腐敗の可能性がある食品については表示が義務付けられている。
たとえば、傷みやすい牛乳には必ず賞味期限が記載されているのがわかりやすい例だろう。
しかし、日本酒は十分に高い濃度のアルコールを含むので腐敗を招く微生物が繁殖できず、人体に有害な変質につながる恐れがない。
その理由から、日本酒は賞味期限の表示義務を課されていないのだ。
賞味期限ではなく消費期限は?
それも答えは同じく「法的な義務はないので記載はない」といえる。
製造された時点の品質を維持して美味しく味わえる期限が賞味期限であるのに対して、腐敗などの観点から安全に摂取できる期限として設定されるのが消費期限だ。
どちらも食品衛生法に依拠しており、日本酒は例外という扱いになっている。
先述した通り、アルコール濃度が十分に高い日本酒では雑菌が繁殖できず、腐敗の恐れがないからだ。
まずは、どの日本酒のラベルを見ても賞味期限や消費期限の記載はないことを知っておいてほしい。
ただし、製造後の保存状況によっては味や香りが劣化する可能性は十分にある。
味や香りの劣化については後述するので、ぜひ最後まで読み進めてほしい。
日本酒のラベルにある年月は何?
「ラベルに何年何月って書いているけど、あれは何なの?」という疑問だ。
その答えはずばり製造年月である。
その数字の年月まで美味しく飲めるという意味ではなく、その年月にその日本酒は製造されたという意味なのだ。
ただし、製造年月は必ずしもその日本酒をしぼった年月ではないので注意してほしい。
その日本酒を「容器に詰めた日」か「出荷用にラベルを貼った日」のどちらかなのだ。
まず、容器に詰めた日という定義は国税庁の「清酒の製法品質表示基準を定める件」に依拠しており、以下のように示されている。
容器に詰めた後ですぐに出荷せずに酒蔵で貯蔵する場合、適切に貯蔵したならば出荷のタイミングを製造年月としてよいのだ。
それは同じく国税庁の「第86条の6 酒類の表示の基準」に以下のように示されている。
製造時期については、清酒を販売する目的をもって容器に充?し密封した時期をいうのであるが、冷蔵等適切な貯蔵をした上で販売するものについては、その貯蔵を終了し販売する目的をもって製品化した日を製造時期として取り扱う。
【出典】第86条の6 酒類の表示の基準/国税庁(外部サイト)
【出典】第86条の6 酒類の表示の基準/国税庁(外部サイト)
たとえば手に取った日本酒の瓶のラベルに「2023.12」と書かれていたとしよう。
その場合は2023年12月に瓶詰めされてすぐ出荷されたか、それ以前に瓶詰めされて貯蔵されてから2023年12月にラベルを貼って出荷されたかのどちらかというわけだ。
決して2023年12月が賞味期限や消費期限というわけではないので、ぜひ覚えておいてほしい。
未開封の日本酒を飲める期限
ここでは開栓していない日本酒を飲める期限について解説していく。
日本酒の種類による違いや常温保存についても紹介しているので、ぜひ参考にしてほしい。
未開封なら10年後でも飲める?
そもそも日本酒は15度前後という十分に高いアルコール濃度なので、腐敗を招く多くの微生物は生存できない環境だ。
したがって、日本酒は未開封であれば5年後でも10年後でも飲める場合が多い。
それは日本酒を長期間貯蔵して熟成させた「古酒」の存在がその証明となる。
もちろん長期間ずっと放置すれば熟成が進んで、必ず古酒になるというわけではない。
適切に保管しなければ逆に品質が低下する場合が多いが、味や香りが劣化しても「飲んだらすぐにお腹を壊す」ような腐敗した状態になることは基本的にはない。
明確な定義はないが、製造年月から約1年を「美味しく飲める期限」としている酒造・メーカーが多い。
日本酒の実質的な賞味期限のガイドラインとして覚えておこう。
日本酒の種類による違いはある?
種類によって「美味しく飲める期限」に違いがあるのかは気になるところだろう。
数ある日本酒の種類の中で、大きく期限の違いが表れるのは生酒と甘酒だ。
まず、生酒は製造過程で加熱による殺菌処理である「火入れ」をしていない日本酒を指す。
フレッシュな味わいが魅力なのだが、殺菌処理をしていないために品質の低下を招きやすい。
生酒を美味しく飲めるのは約半年〜9か月の期限を推奨している酒造・メーカーが多いので覚えておこう。生貯蔵や生詰めなど「生」と名のつく日本酒は同じだと考えてほしい。
そして、甘酒はさらに期限が短い。
アルコール濃度が1%以下である甘酒は一般的な食品・飲料と同じく傷みやすいので注意が必要だ。
そもそも甘酒は製品としての分類上はお酒ではなく「清涼飲料水」なので、賞味期限の表示が義務付けられている。
ラベルや容器の底などに必ず賞味期限があるので確認してみてほしい。
生酒と甘酒以外は、どの日本酒でも「美味しく飲める期限」に差はないと考えて差し支えない。
純米酒や大吟醸などいろいろあるが、未開封であればどれも製造年月から約1年が「美味しく飲める期限」だと理解しておこう。
未開封なら常温保存でも大丈夫?
そうやって常温保存で長期間放置した場合でも、基本的には腐敗して飲めなくなるということはない。
繰り返しになるが、アルコール濃度が十分に高い日本酒では腐敗を引き起こす雑菌は繁殖できないからだ。
それでも常温保存では、冷蔵保存よりは品質の低下を招きやすい。
味や香りの変質を防ぎたいのであれば、たとえ未開封でも冷蔵保存が推奨される。
もし常温で保存する場合でも、光や高温は避けてほしい。新聞紙などで包んで涼しいところで保存したほうが、日本酒本来の品質を維持しやすいので覚えておいてほしい。
開封後の日本酒を飲める期限
開栓した日本酒を問題なく飲める期限や開栓後の適切な保存方法について解説していく。
開封後は何日くらい飲める?
しかし、開封した瞬間から日本酒の品質の低下は始まってしまう。空気に触れることで酸化が進んでいくからである。
美味しく飲むという点においては、開封後の日本酒には期限があると思っておいてほしい。
その期限に明確な定義はないが、開封したら約1週間〜2週間で飲み切ることを推奨している酒造・メーカーや酒屋が多い。
開封したらなるべく早く飲み切る・食べ切るというのは、賞味期限の記載がある日本酒以外の飲料・食品も同じだ。
たとえ賞味期限まであと3か月ある甘酒でも、開封してしまえばその期限までは持たないので注意しよう。
開封後は冷蔵庫に入れるべき?
結論からいえば、開封後は冷蔵庫に入れるべきだ。
いったん開封したならば、それ以降は品質の低下が進んでいく場合がほとんどであり、温度が高いほどより顕著に劣化が進むからだ。
それは加熱処理をしていない生酒はもちろん、加熱処理をしてある日本酒でも同じである。
開封後は常温保存ではなく冷蔵保存にして、なるべく早く飲み切るようにしよう。
なお、冷蔵庫に入れる際は冷蔵庫の中にある他の食品からのにおいが移らないように気をつけてほしい。
新聞紙で包んだり、日本酒を買ったときについていた外箱に入れたりして対策するのがおすすめだ。
賞味期限切れのようになった日本酒の特徴
古くなった日本酒がどんな見た目・香り・味になるのかを知っておこう。
まず、見た目に関しては茶色っぽくなることが多い。日本酒に含まれるアミノ酸や糖の反応による影響でそのように変化するといわれている。
未開封で黒や青などの色つきの瓶に入っていると判別できないが、透明な瓶ならば無色透明ではなくなっている場合は劣化している可能性があると見てよい。
また、香りは他の食品と同じく「イヤなにおい」がするのでわかりやすいだろう。
特に高温で保存されていた場合は老香(ひねか)という悪臭が発生しやすい。人によっては「古い漬物の変なにおい」と表現する独特のにおいだ。
フルーティな香りが特徴である吟醸酒や大吟醸酒ならば、その香りは失われてしまう。
そして、味は酸っぱくなったり苦味を感じるようになったりする場合が多い。
もちろん熟成されて古酒になっていく場合はコクや旨みが増していくが、ただ劣化している場合は口に含むだけで「なんか美味しくない」と感じるはずだ。
古い日本酒のおすすめの活用法
ここでは、そのまま飲むのには適さなくなった日本酒の活用方法を紹介しよう。
もっともおすすめなのは料理に使うことだ。
調味料として「料理酒」が数多く販売されているので、ご存じの方も多いだろう。
みりんと同じく、日本酒には食材を柔らかくしたり、食材の臭みを取ったりする効果が期待できる。
日本酒はみりんと違って甘みが足されることがないので、甘みを加えずに旨みやコクを加えたいときはぜひ使ってみてほしい。
調理する前の肉や魚を漬け込んだり、煮物のタレに加える使い方が一般的だ。
料理以外では、お風呂に入浴剤として入れる活用法もよく知られている。
血行の促進や発汗作用が期待できるといわれており、実際に入浴剤として製品化した日本酒を売っている酒造・メーカーもある。
料理に使うにせよお風呂に入れるにせよ、劣化が進みすぎて悪臭がするような日本酒の利用は避けてもらいたい。
傷みすぎた日本酒は廃棄するのが賢明だ。
まとめ
大まかに「ビール・チューハイ以外は賞味期限がない」と思ってもらえるとわかりやすい。
主なお酒では、ビールとチューハイには賞味期限が設定されているので、ぜひチェックしてみてほしい。
ビールであれば、クラフトビールは1か月〜3か月程度、一般的なビールは9か月〜1年程度に設定されていることが多い。
それ以外の主なアルコール飲料では、ワイン・焼酎・ウィスキーには賞味期限の記載はない。
日本酒と同じく、法律で賞味期限の表示が義務づけられていないからだ。
もちろん賞味期限が記載されていなくても、どのお酒も時間の経過と共に品質は変化することは心得ておこう。
保存環境によっても異なるが、実際の「美味しく飲める期限」についてはアルコール濃度が低いお酒ほどデリケートだ。
蒸留酒でアルコール濃度が30度や40度を超える焼酎・ウィスキーと比べると、アルコール濃度が15度程度の醸造酒である日本酒・ワインのほうが品質の劣化は進みやすい傾向にある。
また、どのお酒も未開封であっても直射日光や高温には弱いし、開封後は必ず酸化が進むことは間違いない。
たとえ腐っていなくても美味しく飲めなければ意味はない。開封前は冷暗所で保存して、いったん開封したら早く飲みきることを心がけよう。
著者プロフィール
中村サッシ
元・蔵人の利き酒師。信州で100年以上続く蔵で日本酒を造っていました。飲み比べが趣味で、全国各地のお酒を試したり、同じ酒蔵の何種類かのお酒を試したりして違いを言語化するのをライフワークにしています。夜はビール・ワイン・ウイスキーなども嗜みつつ、昼間はコーヒーのテイスティングも実践中。
中村サッシ
元・蔵人の利き酒師。信州で100年以上続く蔵で日本酒を造っていました。飲み比べが趣味で、全国各地のお酒を試したり、同じ酒蔵の何種類かのお酒を試したりして違いを言語化するのをライフワークにしています。夜はビール・ワイン・ウイスキーなども嗜みつつ、昼間はコーヒーのテイスティングも実践中。
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