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(更新: ORICON NEWS

「冷や酒」の飲み方とおすすめの日本酒【きき酒師が教える日本酒】

冷や酒の飲み方、おすすめの日本酒【プロが教える日本酒】

【文・監修者プロフィール】
  • きき酒師の漫才師 「にほんしゅ」<あさやん(左)・北井一彰(右)>

きき酒師の漫才師
にほんしゅ(あさやん・北井一彰)
あさやん(左)
・きき酒師・国際きき酒師
北井一彰(右)
・きき酒師・国際きき酒師・日本酒学講師・焼酎きき酒師
【プロフィール詳細】
コンビ揃って「きき酒師」の資格を取得している世界で唯一の漫才師。
《食卓には呑む日本酒。話題には漫才師にほんしゅ。》を目標に、オンラインも含めて全国各地の日本酒イベントや蔵開きに出演している他、初心者向けの日本酒講座「日本酒ナビゲーター認定講座」を定期的に開催しており、2021年5月現在では800名以上の生徒を誕生させ、きき酒師や日本酒ナビゲーターの資格認定団体、NPO法人FBO(料飲専門家団体連合会)から特別功労賞を与えられた。

■HP にほんしゅ公式WEBサイト(外部サイト)
日本酒はキリッと冷えた冷酒から熱々の燗酒まで幅広い温度帯で楽しめるという世界のお酒の中でも極めて珍しい特徴を持っています。これは素晴らしい魅力ですが、その分「この日本酒は冷酒向きなの?温めた方がいいの?」など頭を悩ませる方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は冷酒と混同されることも多い「冷や酒(常温)」について解説していきたいと思います!
■この記事を読む前に知っていると良い日本酒の豆知識
その前に、日本酒の温度帯についてざっくりと触れておこうと思います。

日本酒の温度帯は大きく分けて、温めて飲む「燗」、冷やしも温めもしない「常温(冷や)」、冷やして飲む「冷酒」の3種類です。

「燗酒」は肌寒い秋冬に飲みたくなる方が多いと思いますが、クーラーが効いている部屋で1日中仕事をして身体が冷えたあとなどは夏にも燗酒がおすすめです!香りはふくよかに、飲み口はまろやかに感じられることが多いです。陶器のお猪口なんかで飲むとより味わい深く、まろやかに感じますね!

「冷や酒(常温)」は季節でいうと春や秋など暑すぎず寒すぎずという気温の季節が美味しく感じられるのではないでしょうか。日本酒は冷やすと香りや味わいが引き締まったり、清涼に感じられますが、そのお酒自体の旨味や甘味をより感じたければ冷や酒(常温)がおすすめです。日本酒の冷や酒(常温)の温度は概ね20〜25℃あたりです。

「冷酒」はやはり暑い夏におすすめしたくなります!しかし、冬に出てくる「その年の新作」と言える「しぼりたて」の日本酒なんかはフレッシュな味わいなので冬でも冷酒がおすすめです!冷やすと香りが清涼に感じられ、味わいは引き締まって感じます。

冷や酒の楽しみかた

「冷や酒(常温)」に適した日本酒ってどんなタイプなのかお話したいと思います。

テーマは「旨味とコク

米と米麹のみで醸された「純米酒」
乳酸菌の力を借りて手間暇かけて仕込む伝統的製法の「生もと仕込み」や「山廃(やまはい)仕込み」の日本酒
熟成期間を経て香り味わいともに濃醇、複雑になった「熟成酒」

などなど、旨味がしっかりとあったり、コクのある味わいのものが向いていることが多いですね。
純米酒や生もと仕込みなどでも繊細な味わいで冷酒向きのものも結構ありますので冷やした状態から少し温度が上がった状態への変化を楽しみながら美味しい温度を探してみてください!

冷や酒(常温)に特化した楽しみ方やアレンジした飲み方というのはそれほどありませんが、冷や酒(常温)ならではの魅力について、語弊を恐れずに言うと「そのお酒の本性」がわかる温度帯なのではないでしょうか。ですので「きき酒」をするときにとてもいい温度帯と言えるでしょう。
■冷や酒(常温)は日本酒の素顔の温度帯
全国の酒蔵さんがブースを構えて自社のお酒を数種類用意し、酒販店さんや居酒屋さんなどのプロ向けの日本酒試飲会のお手伝いをさせてもらった時の話です。

昨今は酒販店さんも居酒屋さんも日本酒を冷蔵保存して、冷酒で提供することが増えたこともあり、そういった試飲会でもお酒を氷につけて冷やし、冷酒の状態できき酒をしてもらう酒蔵さんが多いのですが、いくつかの酒蔵さんはあえてお酒を冷やさず、冷や酒(常温)の状態で試飲をしてもらっていました。それについて蔵元さんに質問してみると「お酒の味のチェックをしてもらうなら冷やさずに常温できき酒してもらった方が味が分かっていいんだよ」とおっしゃられました。

日本酒の勉強をし始めたばかりだった数年前の僕は「現代の日本酒は冷蔵保存が絶対!飲むときは冷酒が基本!」みたいな頭で鼻息荒くきき酒をしていたので目から鱗でした。確かにお酒自体が持っている旨味や甘味といった味わいの軸になる部分は冷や酒(常温)の方がよくわかるのです。「ごまかしがきかない素顔の温度帯」とも言えるでしょう。

それ以降、味わいの特徴を捉えることが目的できき酒をする時は冷や酒(常温)できき酒をしてみて「あ、この旨味のしっかりさなら燗酒も良さそうだな」とか「これは味わいがライトだから冷酒向きっぽいな」などなど自然と出てくる感想を活かして人に勧めるようにしています。

ある程度日本酒に飲み慣れてきた方は「味の見極め」を目的に冷や酒(常温)でのきき酒をやってみてはいかがでしょうか?

ただ、吟醸酒などのフルーティな香りが特徴のものは10〜15℃ぐらいの冷酒が一番香りがわかりやすいです。「フルーティな香り」の要素を重視してきき酒をしたいときは冷酒、「味わい」の要素を重視してきき酒をしたいときは冷や酒(常温)と使い分けられるとかなり上級者ですね!

冷や酒のうんちく

うんちくと言えるほどではありませんが、「冷や酒(常温)」の保管方法については気をつけていただきたいです。

日本酒は高温と光(紫外線)が大敵です。特に「生酒」などは非常に品質変化がしやすいので常温保存は難しいですね。室温が25℃を超えるような夏場以外は冷暗所での常温保存でも大丈夫なお酒も多くありますが、基本的には冷蔵保存が無難でしょう。冷蔵庫で保管して、飲むときに冷蔵庫から出して少し置いてから飲むというのが安全な冷や酒(常温)の楽しみ方ではないでしょうか。

余談ですが、僕は短冊で書かれたメニューが壁にずらっと貼られているような老舗の焼き鳥屋さんが大好きなのですが、そういったお店の日本酒メニューって「日本酒(冷や・燗)」のみだったりして、思わず心の中で「潔い!!その心意気や、よし!」みたいなパターンがあります。

老齢の大将が「はい、日本酒ね!冷や?燗?」といった感じで注文を受けてくれる。そういうの大好きです。そこで飲む冷や酒(常温)がなんと美味いことか。お酒はやっぱりシチュエーションに合わせた飲み方が肝だと感じます。

しっかりと冷蔵保存されている上に様々な日本酒銘柄が楽しめる居酒屋が増えた近年ですが、ちょっとタイムスリップした気分になって、「お酒を飲むならビールか日本酒か」といった「男はつらいよ」の寅さんが楽しそうに飲んでいそうな、おおらかな時代から営業している老舗酒場の雰囲気を楽しむのもいいですよね。

あと一点、「冷や酒(常温)」は現代では冷酒と同意で使われることもあって、「常温で飲みたかったのに冷酒が出てきた」なんてこともあります。無用なトラブルを避けるには「冷や」ではなく「常温」という呼び方をするといいかと思います

冷や酒を飲むのに最適な酒器(グラス・お猪口)

「冷や酒(常温)」をより楽しむには酒器も重要!ということで、おすすめの酒器のタイプを紹介します。

テーマは「安心感」

冷や酒(常温)で飲む時の酒器は安心感を大切にしたいですね。キリッと冷えた冷酒なら清涼感のある細長いグラスやワイングラスなんかがおすすめですが、「日本酒本来の旨味・甘味・コク」を楽しめる冷や酒(常温)は、「日本酒の器といえば?」で頭に浮かぶ、青色の二重丸が底に描かれた定番の蛇の目のお猪口や、備前焼や常滑焼などの陶器の素朴なお猪口など「日本酒っぽいなぁ」とイメージしやすい酒器で飲むのが良いかと思います。

口当たりがまろやかに感じ、旨味や甘味が口中に広がり、一日の疲れが癒され、なんともいえない安心感に包まれることでしょう。

あとは雰囲気も良いのが木製の酒器です。木枡なんかで冷や酒(常温)を飲むと香りが良く、お酒の味わいもより柔らかく感じられて良いですよ!

冷や酒に合う料理

お酒と料理を合わせるときは「同調」を基本に考えるといいと思います。例えば吟醸酒などのフルーティな日本酒には、果実を搾る味付けをして「風味」を似せたり、料理の温度とお酒の温度を合わせたり。味付けや温度などをとにかく似せると口の中で一体感が生まれますね。

総じて冷や酒(常温)には「旨味やコクのしっかりした料理」が合わせやすいでしょう。お出汁の効いた料理も良いですね。

焼き鳥(タレ)や、おでん、ぶり大根などの日本酒の相方とも呼べるような和食も最高ですし、中華だと酢豚青椒肉絲(チンジャオロース)油淋鶏(ユーリンチー)などの濃いめの味わいの料理などが良いですね。チーズを使ったグラタンなどクリーミーな味わいの料理も良いと思います。チーズの柔らかな旨味や酸味が冷や酒(常温)と良い相性を見せます。

書いてる内に飲みたくも食べたくもなってきました・・・!!よし、それでは冷や酒(常温)で飲んでいただきたい(僕がこのあと飲みたい)日本酒の紹介に参ります!

■冷や酒で飲むならおすすめの日本酒5選

「五橋 純米」(山口県)

■特徴・おすすめポイント
地酒ファンにはお馴染みの味わいのバランスの良い銘柄。

日本三名橋のひとつ、錦川にかかる五連の反り橋「錦帯橋」が「五橋」という酒銘の由来。地元の米・水・人にこだわり、基本に忠実に醸される「山口の地酒」

「五橋 純米酒」は柔らかで軽快な口当たりをきれいな酸が引き締める、バランスよくクリアな味わいが魅力。幅広い料理と合わせてお互いを引き立て合います。冷や酒で非常にスムーズに飲み進められるでしょう。

地元の名物料理、甘く柔らかな味わいの「鮎の甘露煮」にぴったりのお酒です。

・価格(720ml)
1,430円前後(税込)


・蔵元、酒蔵 公式サイト
酒井酒造株式会社(外部サイト)

「夜の帝王 特別純米」(広島県)

■特徴・おすすめポイント
どのようなお料理でも合わせやすい万能タイプのお酒です。

広島県の酒造好適米である八反錦をメインに使用し、軟水仕込みの特性を活かした口当たりまろやかな食中酒です。しっかりと麹と米の味わいを残しながら、アルコール度数は低めに抑えられているため非常にバランスが良く、日常の晩酌に寄り添う味わいです。

フルーティでジューシーなタイプの冷酒で美味しい日本酒とはまた違った魅力があり、飲みやすくもありながら気骨を感じる一本です。

このお酒は冷酒でも冷や酒でも熱燗でもよし!幅広い温度帯でお楽しみ頂けます。

・価格(720ml)
1,320円前後(税込)

・蔵元、酒蔵 公式サイト
藤井酒造株式会社(外部サイト)

「菊正宗 純米樽酒」(兵庫県)

■特徴・おすすめポイント
生?造りで醸した辛口の純米酒を吉野杉の酒樽に貯蔵し、一番香りの良い飲み頃を取り出し、瓶詰めした本格樽酒。
純米酒らしい余韻のある旨味に吉野杉の爽やかな香りをまとった芳醇な味わいとキリッとした喉越しが特長です。

乳酸菌の力を借りて仕込む「生?造り」と「吉野杉の樽貯蔵」は江戸時代から続く兵庫県・灘の酒(菊正宗は灘の酒の代表的なお酒)の個性です。それを存分に詰め込んだ一本。

こうした製法のお酒が江戸でも人気となり、灘は現代に至るまで日本酒の最大の産地となっています。しっかりとした旨味と後味のキレの良さを楽しみながら歴史にも思いをはせてみてください。

これほど手間暇のかかる製法なのに、4合瓶で1000円前後というコストパフォーマンスの良さも驚きです。

木枡で飲むとより雰囲気が出ると思いますよ!

・価格(720ml)
1,000円前後(税込)

・蔵元、酒蔵 公式サイト
菊正宗酒造株式会社(外部サイト)

「富士高砂 山廃仕込純米辛口」(静岡県)

■特徴・おすすめポイント
山廃仕込み純米酒の辛口です。蔵内の乳酸菌を利用する昔ながらの手間暇がかかる作業から生まれました。山廃仕込みは生?仕込みの兄弟のような製法で、幅のある味わいとさわやかな香りが特徴。

「山廃仕込み」の日本酒と聞くと、がっつりと酸の効いた濃醇な味わいをイメージされる方はかなりの日本酒通かと思いますが、富士高砂酒造の山廃仕込みの風味は大人しく優しい口当たりで少し甘さを感じる酒質となっています。

「これほど柔らかい味わいの山廃仕込みのお酒もあるのか!」と驚かれることでしょう。

その秘密の源は仕込み水に使われる富士山の恵(超軟水の伏流水)です。軟水仕込みの日本酒は口当たりがソフトになります。まさに静岡ならではの地酒の味わいです。

柔らかな旨味と酸味で心がホッとする一杯。日本酒が持つリラックス効果を実感できるでしょう。トマトやチーズをたっぷり使ったピザや、蔵がある富士宮市の名物「富士宮やきそば」などと合わせるのがおすすめです!

・価格(720ml)
1,300円前後(税込)

・蔵元、酒蔵 公式サイト
富士高砂酒造株式会社(外部サイト)

「多満自慢 純米無濾過」(東京都)

■特徴・おすすめポイント
東京都福生市で東京の地で地下天然水を使用して日本酒を仕込む東京地酒の雄。そうです。酒蔵の数は多くはないですが、多摩地方を中心に東京にも美味しい地酒があるのです!

「多満自慢」は、「多摩の心をうたいつつ、多摩の自慢となるよう、多くの人達の心を満たすことができたら」という願いをこめて命名されました。

調和のとれた、米の旨さと甘味を最高に引き出した純米酒。冷や酒や燗酒にぴったりの味わい。

蛇の目のお猪口や陶器のお猪口でゆったりと楽しみたい1本です。東京都内のスーパーでもよく見かける銘柄で、4合瓶で1000円前後という価格も魅力的。

クラフトビールも製造しており、蔵の敷地内にはレストランもあるという、まさに「酒飲みのテーマパーク」です。見学情報やレストラン情報は石川酒造のウェブサイトよりご確認ください。

・小売価格(720ml)
1,000円前後(税込)

・蔵元、酒蔵 公式サイト
石川酒造株式会社(外部サイト)

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は「冷や酒(常温)」について解説させていただきました。

近年は冷やして飲む「冷酒」の人気も高まっていましたが、日本酒の味わいの核である「旨味」「甘味」がしっかりと感じられる「冷や酒(常温)」も非常に魅力的な飲み方です。

「冷酒」は勢いがついてついつい飲みすぎてしまうことも多いですが、その点「冷や酒(常温)」はお酒の味わいの素顔が見られる分、お酒とじっくり対話しながら飲めるような飲み方と言えるのではないでしょうか。

冷や酒と蛇の目のお猪口や陶器のお猪口を用意して、忙しい日々で疲れている自分にホッと一息つかせてあげてください。日本酒が優しく癒してくれるでしょう!今夜も日本酒で乾杯!
(文/にほんしゅ 北井一彰)
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