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SDGsのその先は? “義務”や“ファッション”では続かない、「未利用資源ハンター」が冷凍食品最大手と手を組んだ理由
「ここ1〜2年で空気が変わった」、理解得られなかった未利用資源の活用
SDGsへの参画は、企業のイメージ向上に繋がるなどメリットが大きい。しかしイメージをアピールする以上に、その活動が消費者に喜ばれ、ひいては企業に利益をもたらすものにならなければ、それこそ“持続可能な”企業活動にはなり得ない。
「“事業性”と“社会性”を両立したビジネスは実現可能」と語るのは、株式会社ファーメンステーション代表取締役の酒井里奈さん。独自の発酵技術で数々の企業の未利用資源(廃棄物、副産物など)をアップサイクルし、注目を集めている研究開発型のスタートアップ企業だ。
「アップサイクル」とは従来は捨てられてきたモノを、さまざまなアイデアや手法によって新しい製品にアップグレードすること。リサイクル(再循環)やリユース(再利用)とは異なり、元の状態よりも価値の高いプロダクトに転換されることから昨今の世界的な潮流となっている。
同社は、JR東日本グループが作るお酒シードルの製造過程で出る「りんごの絞りかす」をルームスプレーなどのアロマグッズや除菌ウエットティッシュに生まれ変わらせたほか、ANAグループが輸入するバナナの「規格外品」や、象印の炊飯ジャー開発過程で出る「試食ご飯」など、これまでは企業にとって「コストをかけて処分してきたゴミ」を次々と「価値あるプロダクト」にアップサイクルしてきた。
「ここ1〜2年で一気に世の中の空気が変わったのを感じます。弊社は2009年設立。休耕田を再生し栽培したお米をバイオエタノールに転換する技術から始まった会社ですが、当初は未利用資源を提供していただこうと企業にアプローチしても、なかなか理解していただけなかった。今は多くの企業が『SDGs推進室』といった部署を設置しているため、やりとりもだいぶスムーズになりました」(酒井さん)
あの『焼おにぎり』がウエットティッシュに? 冷凍食品最大手が“食”から発想の転換
今回のアップサイクルの提案は、2011年から同社が取り組んできた「ハミダス」活動から上がったものだったという。
「ハミダス」活動とは、ニチレイフーズの全社員が自分の担当領域を超えて、自発的に取り組む活動のこと。もともとは社内風土改革の一環だったが、「もっと思いやりを持って」「もっとチャレンジして」「もっと楽しく」のキーワードに当てはまればどんな企画でも声を上げられるように活動領域が拡大しているそうだ。
そんな「ハミダス」活動の推進と社内浸透を図る、その名も「ハミダス推進部」で部長をつとめる吉野達也さんによると、「もともと食品工場から出る規格外品や残渣(ざんさ)は、『転売リスクがある』『リサイクルにも手間やお金がかかる』などの理由から、以前は廃棄していました。ですが、『フードロスがこれだけ問題になっているのに、それでいいの?』という声が、『ハミダス』活動で上がるようになったんです」とのこと。
「ハミダス」活動が起点となり、すでに食べられるものはフードバンクなどに寄付、食べられないものは飼料や肥料に活用と、規格外品や残渣をほぼ100%有効活用できる仕組みが確立されている。
「そうした社会貢献活動を超えて、経済的価値と社会的価値を共存させるアイデアとして上がったのが、アップサイクルでした。とはいえ、私たちは食品メーカーなので“食”というアウトプットのイメージしかありませんでした。ファーメンステーションさんの活動を知り、初めて『食じゃなくてもいいんじゃないか』という発想が生まれたんです」(吉野さん)
一方の酒井さんも、「実は私もニチレイさんにはずっと注目していたんです」とニヤリ。
「もともと私は、ゴミとなっていても実は価値があるものに興味があったので、“未利用資源ハンター”ではないですが(笑)、どこにどんなお宝が眠っているか、常に目を光らせていました。私たちは循環型社会の構築を目指す会社ですが、世の中にインパクトを与えるには企業としては小さすぎる。多くの生活者にリーチするためにも、大手の食品メーカーさんとはぜひご一緒したいと考えていました」(酒井さん)