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「触っちゃダメ」では解決しない…障害のある息子のクセをどう防ぐ? 母が作った“自然に過ごせる服”に込めた願い
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「ないのなら、私が作る!」使命感が原動力に…学校や地域の中で自然に過ごせる服を
「染色体異常を持つ息子が思春期を迎える頃から、登校時や外出時に下半身をいじる様子が目立つようになりました。そんな時、特別支援学校の個人面談で担任の先生から、『下半身が気になって授業や作業に集中できていません。つなぎ服で物理的に触れないようにすることで、その時間をもっと有意義に使えるのではないでしょうか。ジャンプスーツを前後逆に着る方法もあります』と提案を受けたことがきっかけです」
――その時、市販で代用できるつなぎ服はなかったのですか?
「当時は、赤ちゃん風のサイズが大きいロンパースやパジャマしかなく、息子が学校や外出先で自然に着られるものはありませんでした。さらに先生から『作業所ではジャンプスーツを前後逆に着て働いている方もいますよ』と言われ、そのお兄さんたちの姿に将来の息子の姿が重なりました」
――そのお話を聞いて、どんな思いが込み上げてきたのでしょう。
「選択肢のないまま着心地の悪い服を着て過ごすことを強いられている現実に、悔しさと怒りが一気に込み上げました。『そんなことってある? ないのなら、私が作る!』と。その使命感が原動力となり、学校や地域の中で自然に過ごせて、いわゆる『介護の服』に見えない、普通だけれど少しだけかわいいつなぎ服の開発を始めました」
――ここで少しお話を戻しますが、中学3年生になる息子さんの「染色体異常」とは、具体的にどのような状態なのでしょうか。
「染色体異常とは、生まれつき体の設計図の一部である『染色体』の数や構造に違いがある状態をいいます。息子の場合は7番染色体の一部が欠損している珍しいタイプです。その影響により、運動・知的遅滞、排便機能の障害、生まれつき仙骨部に腫瘍があること、成長ホルモンの分泌不足など、さまざまな症状があります」
洋服で問題解決し、安心して外出も…「これを食べたい」と息子の自由な発言が増えた
「生まれてすぐ、哺乳障害のためNICU(新生児集中治療室)に入院しました。私は3人目の子育てだったこともあり、皮膚や筋肉の張りの弱さなどに得体のしれない違和感を覚え、検索して見つけた論文からおおよその見当をつけました。それまでの私にとって染色体異常は遠い世界の話でしたが、すぐに遺伝学的検査をお願いし、生後1ヵ月健診の際に確定しました」
――確定診断が出た時、受け止めるのは大変でしたよね。
「ある程度の覚悟はできていたので、『やっぱりそうだったか』と腹をくくることができました。それでも、頭では現実を受け止めていても心が追いつくまでには時間必要で、生まれてからの1年間は、家族を送り出して1人になると毎日のように泣いていました」
――そんな大変な時期を乗り越えて、今はどんな毎日を過ごされていますか? 息子さんの好きなことや、ご家族での様子を教えてください。
「息子は人と電車が大好きです。電車の中で目が合った人には必ず手を振り、振り返してもらえると満面の笑みで何度も手を振ります。また、1日に何度も兄弟に会いたがります。夜、兄弟に挟まれてベッドの上でじゃれ合いながら過ごす時間が何より幸せな様子です。そんな息子の姿を見ていると、家族みんなが健康で一緒に過ごせる何気ない普通の日こそが幸せなのだと、毎日教えてくれている気がします」
――お母さんが作った洋服を着るようになって、お出かけの様子は変わりましたか?
「以前は多動な息子の動きを追いながら、ズボンに手を入れたら即座に注意しなければならず、まさに『ダブル視神経使い』の状態で常に気を張っていました。『お外では触りません! お家でね』という声を1時間に10〜20回は繰り返し、親子で疲弊していました。しかし、自分で下半身を触れない洋服『サワレン』を着るようになってからは、安心して外出できるようになりました」
――息子さんご自身の表情や行動にも変化はありましたか?
「注意される回数が大幅に減ったため、息子も『この駅で降りたい』『これを食べたい』など、ずいぶん自由にリクエストするようになりました。『1つでも楽しいことが増えるといいな』と思い、できる範囲で付き合っています」
――これまで何度も声をかけ続けてきたからこそ、感じるものがありますね。
「振り返れば、『何度も言い聞かせれば、いつか変わってくれるかもしれない』と声をかけ続けた回数は、1万回を優に超えています。それでも大きく変わらない息子の姿を前にして、相手を変えようとするのではなく、自分の考え方や環境を変えることも大切なのだと気づかされました」
――ちなみに、工夫が詰まった洋服ですが、息子さんはすんなり着てくれましたか?
「最初の数日こそ着用を嫌がりましたが、家族で『かわいい!』『かっこいい!』と褒めたところ、思いのほかすんなり着てくれました。学校でも先生方から褒められて、ドヤ顔でポーズをとっていたそうです。わが家の場合は以前からの言い聞かせもあったため、比較的自然に受け入れてくれました」
息子から教えられた、大変な毎日を少しでも楽しい方向へ変換して生きていくこと
「『普通で少しかわいい』と『ストレスフリー』の2点を両立させることです。いわゆる『福祉の服』『介護の服』に見えないデザインにすること。そして、ずっとそばで暮らすお母さんが先にダウンしてしまわないよう、持続可能でいられる『注意し続けなくても済む服』を目指しています。もちろん、繰り返し言い聞かせることで学習できることもあります。でも14年間息子と向き合う中で、学習することもあれば、なかなか変わらないこともあるのだと受け入れられるようになりました」
――1人ひとり違う「小さな困りごと」にも対応されているそうですね。
「はい。首元から服を脱いでしまう子には首回りを伸びにくくしたり、片方の袖だけを噛んでしまう子には片袖を短くしたりと、個別のニーズにも工夫して応えています。大量生産では拾いきれない小さな困りごとに寄り添いたいという思いから、ブランド名も『にっちな』と名付けました」
――具体的にどんなお悩みやリクエストが寄せられていますか?
「『服を噛んで破いてしまう』という母のリクエストから『ヤブレン』という服を作りました。お話を伺ううち、子どもはシャツを噛むことで感覚刺激を取り入れ、不安やイライラを軽減して頑張っているのだと分かりました。そこで『破れないでほしい』という母の願いと、『たくさん噛んで安定したい』という子どもの願いの双方が重なる形にしました。その他にも、オムツ替えがしやすい服や、自分で脱げない服など、たくさんの要望が寄せられています」
――日々さまざまなことが起きるなかで、イライラせずに前を向くコツはありますか?
「息子の特性や行動を少しでも面白がりながら、大変な毎日を少しでも楽しい方向へ変換して生きていくことです。息子には、水遊びを延々と続けるといった、こちらが困ってしまう一面もあります。でも、障害児のママたちと話すとよく耳にする『毎日が修行みたい』という言葉の通り、ストレスばかり抱えて過ごすのはもったいないですよね。困り事は、人生を面白くする『ネタ』である。そこから繋がる縁や人、広がる世界、新しく見える景色を、いかに楽しで生きていくか。そうした視点を持つようにしています。それは上の兄弟2人を育てていた頃には思いもよらなかった、私なりの障害児子育ての答えです。そして、そんな風に視点を変えて前を向く大切さを教えてくれたのもまた、息子自身だったと感じています」
――年齢や障がいの有無などあらゆる違いを越え、すべての人が自分らしく表現できるファッションショー『インクルーシブ・ランウェイ2026』(8月26日開催)への洋服提供も決まったそうですね。息子さんのための服作りが、さまざまな場へと広がっていますね。
「息子の“困り事”をきっかけに、私たち親子の世界はぐっと広がっていきました。また、息子がモデルとして参加することになり、当時の“困り事”は私たちにとって素晴らしい『ギフト』だったのだと、深く実感しています」
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