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オートバックス“2000万円キャンピングカー”「高すぎる」の声に開発者の回答は?「正直『ごめんなさい』という思いがある」

 今年1月、オートバックスセブンが展開するガレージライフスタイルブランド「GORDON MILLER」(ゴードンミラー)が、約1年半ぶりの新車『GMLVAN G-01』(以下/G-01)を発表。日産『キャラバン4WD』をベースに細部にいたるまでこだわり抜いた独創的な1台に、「カッコイイ」という声が上がる一方で、1870万円という車両価格について「キャラバンに(コミコミ)2000万円は高すぎる」「売れない」といったマイナスな意見も聞こえてくる。なぜ、この金額になったのか? 「この車で実現してほしい」という新たなカーライフ体験とは? 開発者に話を聞いた。

海外のブティックホテルをイメージ「ゆっくりくつろげるリビングのような空間を作りたい」

 3月6日に新車として発売を開始した『GMLVAN G-01』。これまで同ブランドで発売されてきた3車種よりも車格が大きく、文字通りフラッグシップになる1台は、約5年前から開発がスタート。開発を任されたディレクターのひとり、石川康宏氏は、普段「GORDON MILLER」の雑貨全般のディレクションを手掛けるブランドのブレーン。一方で、これまで車両開発にはほぼかかわってこなかったという点を逆に生かして、当初から「世の中にすでにあるキャンピングカーと変わり映えしないものにはしたくない」という思いがあったと振り返る。

「外装は『GORDON MILLER』の世界観を表現した3台を踏襲する形でしたが、内装はこれまでとは異なる方向に舵を切りました。僕の中で既存のキャンピングカーは、割と高めの天板があって、そこを囲んでみんなが食事をしている『ダイニングキッチン』を車の中に搭載しているイメージ。しかし、今回は大型バッテリーを搭載し、コーヒーサーバーで沸かしたコーヒーを飲みながら映画鑑賞をしたり、お酒を飲みながらチルアウトするなど、ソファでゆったりくつろぐリビングような空間を作りたいと思っていました」

 そのイメージの元となったのは、海外のおしゃれなブティックホテル(部屋数が多くない独創的でスタイリッシュなホテル)のラウンジだった。

「海外に出張に行く機会が多いのですが、そういったホテルでは、クリエイターたちがそのホテルのラウンジでくつろいだり、仕事をしたり、仲間と談笑したりしているのをよく見かけていたんです。そんな雰囲気を車内空間に作れたらと考えました」

海外のキャンピングカー文化に“日本らしさ”を融合「日本の“アメージング”を日本人に体験してほしい」

 海外のブティックホテルのラウンジの雰囲気を持たせながらも、外せないこだわりとなったのが「日本らしさ」だった。

「僕は洋風のダイニングテーブルで椅子に座って過ごすより、地面もしくは低いソファーに座ったほうが落ち着くんです。なぜだろうと考えたときに農耕民族だった日本人には、縁側で季節の移ろいを眺めながら過ごすというような文化風習がDNAに埋め込まれていると感じているんです。ですから、車内空間はポジションを低くして、キャンピングカーという海外の文化に日本らしさを融合したいと考えました」

 さらに「日本」へのこだわりはこんなところにも表れている。今回、大型バッテリーを搭載することで、電気や水道やガスなどの“グリッド”(=インフラ)がない「グリッドレスガレージライフ」を送ることができることも、『G-01』のコンセプトのひとつだが、その根底にも、「この車によって日本の良さをもっと深く味わえる体験をしてほしい」という思いが託されていた。

「日本は国立・国定公園が50以上もあるなど非常に自然に恵まれた環境です。しかしキャンプに行くにしても、インフラのことを考えると、ある程度作られた環境の中で楽しまれている方が大半です。そうではなく、大自然の中に溶け込んでいくという楽しみ方もあるのではないか。大型バッテリーを搭載したことによって、この車はグリッドレスな環境に対応できますので、大自然の中に入っていき、思うままにのんびり過ごすという体験が可能です。自然のなかでひとりでゆっくり過ごすもよし、仕事をするもよし、友人と談笑するもよし。日本を訪れた外国人旅行者が、日本で体験したことについて、よく『アメージング』と感想を述べていますが、日本人がもっと日本の『アメージング』を体験して心を豊かにしてほしい。とかく旅行というと海外に目が行きがちですが、『もっと身近にある自然の恩恵にあずかろう、楽しもうよ』と。この車を使ってそういった経験をしてもらいたいと思いました」

「使い捨て」の現代で、“劣化”は悪ではない…“経年変化”を楽しむというマインドに

 その構想を実現するために、まずこだわったのが、車内空間に使用する素材だった。

「大自然に到達するにはそれなりの移動時間がかかりますので、長時間快適に過ごせるよう、シートのクッション性やカバー生地には非常にこだわりました。カバー生地については肌触りだけでなく、座ったときにお尻が滑り落ちないとか、高耐久性、メンテナンスがラクというところまで考えて、採用しました。またクッションに使う素材や厚さにもこだわり、車外からマットレス的なものを持ち込まなくても快適に寝られるようにしてあります。また、跳ね上げのベンチシートも背もたれが直角にならないように調整するなど細かいところまで徹底的にやりました」

 さらに内装においては、これまでのキャンピングカーにはない武骨な『インダストリアルデザイン』を採用。通常使用しない素材を多数使ったことが大きな特徴となっている。

「例えば、内装には化粧合板を使うことが多い中、家や店舗の内側の構造に使われる構造合板を採用し、あえて仕上げの前の状態のままで使っています。バッテリーを設置するための家具もエクスバンドメタルというあまり家具に使われない素材を。さらに床にアルミの合板を使ったり、サイドに鉄板のパイプを這わせたり、その鉄板は、重いサーフボードを載せられるくらいの耐久性を実現するために、内側に補強を施して、強度を確保しています」

 このこだわりには、「心を豊かにする空間」に加え、「唯一無二の世界観を作りたい」という思いもあった。

「『使い捨て』が当たり前だった現代。作り込んだ完成形が100とすると、それが汚れたり、傷ついたりするとどんどんマイナスになっていく。それは『劣化』と呼ばれます。この車では長い年月と一緒に過ごし、その経年変化を楽しめる空間にしたいと考えました。木だって生き物ですからそれぞれに表情がありますし、アルミや鉄板も傷が入ってしまうこともあるけれど、それも素材ならではの味。なので、素材を生かした形にしました。ただ、まったくそのままだと、ささくれや表面の削れなどによってケガをしてしまう可能性もありますので、そのあたりは安全に配慮した加工を施しています。デザイン性ばかりにこだわると、それこそデザイナーのエゴになってしまいますからね」

 その言葉通り、こうした安全性に加え、車内での動線を考えてぶつかりそうな部分の角は丸くしたり、使い勝手のいい多彩なシートアレンジを装備。バイクや自転車を積めるよう考慮するなど、ユーザーの立場に立った細かい配慮も随所に施されている。

個人ユースだけでなく、企業の福利厚生の需要も見据える「車内でクリエイティブなミーティングも」

 ほぼワンオフのこうした家具類に加え、大型バッテリー、リアクーラーシステム、冷凍/冷蔵庫、FFヒーターなどくつろぐために十分な装備を配置。これまでの“キャンピングカーの常識”ではやってこなかった挑戦も多かっただけに「(実際に作業する)開発陣をかなり困らせながらも、妥協せずに押し通した」と、実に5年を要しようやく完成。

「とにかく、一歩踏み入れたときに、『カッコイイ』だけでなく『ものすごくいろいろなところに気を遣っているね』というふうに思っていただきたかった。そういう驚きとワクワクも感じながら、豊かな気持ちになっていただきたかったので、これ以上のものはできないなというくらい突き詰めました」

 一方で、そのこだわりが反映された価格には、市井からの厳しい声があるのも事実だ。

「価格は正直『ごめんなさい』という思いがあります。本当はこのイメージでもう少し低い価格で実現できたらベストだったとは思うのですが…。正直この金額を出せば、別の豪華なキャンピングカーにも手が出ると思います。でも豪華な高級ホテルが好みの方もいれば、私のようにシンプルで素材感にこだわったブティックホテルの方が落ち着くという人も必ずいる。そのあたりは好み、価値観なのかなと。でもこの世界観を共感していただける方はど必ずいらっしゃると思っています」

 キャンピングカーという西洋文化に日本の“アメージング”を融合した唯一無二の空間は、量産は難しく、年5台の限定販売。世界観に共感してくれる人のほか、「この車がいろいろな発想が生まれる空間になったらという思いも託しているので、何か新しいことを始めようとされる方や、デザイナーなど何かをクリエイトするような方にもぜひ体験してほしい。また企業の福利厚生の一環として、どこかに移動する際、車の中で何かクリエイティブなミーティングをおこなっていただくなどの使い方も想像しています」と多彩な使い方をイメージしているという。

 「写真やリリースだけだと伝わらない部分があるので、実際に目にして、触れてほしい」と石川氏。1870万円という金額が、その空間の価値として「高い」かどうかは、その目で見て、その手で触れて、確かめてみたい。

取材・文/河上いつ子

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