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(更新: ORICON NEWS

縮小傾向の「カー用品」市場 業界最大手が“車好き依存”から脱却する次なる一手とは?

 長く日本の経済を支えてきた自動車産業。これに付随する形で「カー用品」市場も高度経済成長期以降、大きな発展を遂げてきた。だが、若者の車離れなどもあり、1990年代後半をピークに市場は緩やかに縮小傾向。そんな逆風のなか、『オートバックス』(オートバックスセブン社)は2017年、ライフスタイルを提供する新たなブランド『GORDON MILLER』を設立し、急成長を遂げている。業界最大手の企業がなぜ、“車好き”に支えられてきた「カー用品」市場に新たな価値観をもたらそうと思ったのか? 同社執行役員で、『GORDON MILLER』責任者の小曽根憲氏に話を聞いた。

“車好き”による売上はあるが市場は停滞…そこに危機感を持ち新たな挑戦へ

 1990年代後半のピークを境に、長期にわたり停滞が続く「カー用品」市場。その要因は、不況が元凶の節約志向による車離れ・車にかける金額の減少や、スマートフォンの地図アプリの発達によるカーナビの販売不振など、さまざま。近年「あおり運転」増加に伴い、ドライブレコーダー設置による一時的な伸びはあったものの、根本的な解決には至っていない。そんな市場の様子に危機感を覚えたのが、2016年に同社代表取締役に就任した小林喜夫巳氏だった。

「小林は、『オートバックスはここまで順調に成長してきて、カー用品業界では最大手だが、市場自体が長期停滞している。現状で利益が出てはいるが、このままではいけない。同業他社と同質化競争(競合他社が差別化を図ってきた際、それと同じ戦略を用いて相手の差別化を無効にする戦略)をしていることを認識し、新たな市場を創造、あるいは市場創造のサポートをしていく』という強いメッセージを発したのです」(小曽根氏/以下同)

 同時期に中途採用で入社した小曽根氏は、「プロモーション・マーケティングの変革と共に、新たな業態、またこれまでの『オートバックス』にはなかった新たな“塊”を作ってほしい」という同社から期待を受け、マーケティングの責任者として業界を冷静に分析した。

「カー用品業界は、“車好き”の方々に支えられ、安定して利益を生み出すことができる一方、今すでにオートバックスに来ていらっしゃるお客様とは違う層を開拓しないと、商品の売り上げの取り合いになって、(市場内で)食い合うだけになってしまう。これでは売り上げが積みあがらないし、お客さんも増えず、市場も縮小していってしまう。今来店していない層に向けるためには、今まで置いていないもの、今までとは違う雰囲気、今までとは異なる提案が必要。それが『ライフスタイル』だったんです」

家具やワークウェアまで…「カー用品」市場に“ライフスタイル”という付加価値で来客層を拡大

 小曽根氏が注目したのは、さまざまな業界の“成熟した市場”に起こっている現象だった。

「多くの業界が『量販市場』を中心に成り立っていると思うのですが、例えば、喫茶店業界では、市場が成熟した結果『スターバックス』が生まれました。このように、成熟した市場には必ず『高付加価値訴求』が起こり、それに呼応するように“ライフスタイルブランド(プレイヤー)”が現れます。ところが『カー用品』市場には、その動きがなかったんです」

 高度経済成長期を境に各家庭に車が普及し、既に60年以上。自動車産業と共に発展してきた「カー用品」市場も、成熟するだけの時間は十分にあったはずだが、なぜその動きがなかったのだろうか。

「理由はいろいろ考えられますが、これまで『カー用品店』で売れることだけを考えていれば、メーカーも販売店も、ずっと成長してこれたことが大きいんじゃないかと思います。規模の違いこそあれ、割と業績の良い会社が多かった。それが、無理に『ライフスタイル』に特化して勝負しよう、というところが出てこなかった理由なのかなと思います」

 従来、『オートバックス』には、オイルやタイヤをはじめ、車にまつわる何かをピンポイントで、必要に迫られて買いに来る人や、いわゆる車好きの30〜50代の男性が多かった。その『量販市場』を生かしつつ、そことは異なる価値を掲げ、新たな層にもアプローチしたい。そのために、小曽根氏はあるキーワードを軸に、発想を深めた。

「車のライフスタイルを提案するのに、“ガレージライフ”がいい切り口だと考えました。『ガレージで車いじりをするのは楽しいよね』というカルチャーの創生。もともと家の中でガレージの優先順位は低いと思うんですけど、これを“住みたいぐらいの素敵なガレージ”と意識改革して頂けるような商品展開、価値観を作ろうと考えたのです」

 こうして2017年に誕生した新ブランド『GORDON MILLER』では、“ガレージライフ”を掲げることで、車にまつわるものはもちろん、そこに関わるファニチャー(家具・調度品)、アウトドアギア、ワークウェアなど、従来『オートバックス』にはなかった商品も販売。普段着でも使えるようなガレージウェアは、そのスタイリッシュなデザインが受け、多くのファッション誌に取り上げられるなど、昨今のアウトドアブームとの親和性の高さも相まって、話題に。20代〜30代の女性といったこれまで見かけなかった客層が来店し、『GORDON MILLER』の商品をたくさん手に取っているという。

“車好き”を大切にする一方、依存せず新たなファンを開拓

 「カー用品」業界に新たな市場を創出した結果、これまで接点のなかった層と接点を持つことができ、それは、これまで車に関心がなかった人たちに、車の楽しさ、面白さを伝えてることにもつながっているという。

「バンタイプの車に専用パーツを取り付けて仕上げた『GORDON MILLER MOTORS』を開発・販売しているのですが、こちらの問い合わせをたくさんいただいています。それまで車が欲しいなど話していなかった人たち、特に奥さまがあの車を見て、『車を買いたい』とか『車でどこかに行きたい』と旦那さんに話すことが多いようです。車で出かける習慣がなかった方々の潜在的なニーズは狙っていましたが、今まで顕在化していなかった人たちがここまで反応しているのに驚きました」

 長く自動車産業と一蓮托生でもあった「カー用品」業界だが、こうした取り組みによって、先の課題であった若者の車離れの抑止に一役買い、車を再び“お金をかけたくなる存在”にしているといえるだろう。“車好き”に支えられた“本流”の市場を大切にする一方で、そこに依存し過ぎず、新たなファンを開拓する戦略が奏功している。

 設立から5年、『GORDON MILLER』のオートバックス内での取り扱い店舗は8割を超え、今年1月には、その世界観を直接体験してほしいという思いから、蔵前に旗艦店『GORDON MILLER KURAMAE』をオープン。売り上げも年々着実に伸ばし、その存在感を増しているが、あくまでそこは“本流”ありきのスタンスを崩さない。

「ありがたいことに、『GORDON MILLER』が急拡大したのは間違いないですが、まだまだ発展途上中です。『量販市場』と『ライフスタイル市場』の売り上げを比べると、『量販市場』の方が、けた違いに規模が大きいですから(笑)。でも、私たちは私たちで、今後も車好きじゃない人も巻き込んで、ファンを作っていきたいと思っています」

取材・文/衣輪晋一

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