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芸能界の性加害、週刊誌やSNSでの告発に弁護士が警鐘「必ずしも正しいやり方とは言えない」

  • (左から)榊英雄監督、俳優・木下ほうか、園子温監督

    (左から)榊英雄監督、俳優・木下ほうか、園子温監督

 最近、芸能界における性加害報道が相次いでいる。男優の木下ほうかや、榊英雄監督、園子温監督による女優への性加害のほか、マリエによるYouTubeでの告発なども記憶に新しい。過去にも、時間が経過してからこうした性加害が明かされるケースは多々あった。そのたびにこれら告発は物議を醸し、加害者の活動に影響を及ぼすものの、問題が繰り返される状況は変わっていない。芸能界での性加害の現状と背景、改善点などについて、日本エンターテイナーライツ協会の共同代表理事で、文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」の委員も務めている佐藤大和弁護士に聞いた。

多発する性加害の現状、被害者だけでなく加害者からも相談が

 現在、世間を騒がせている芸能界における性加害報道のきっかけは、おもに『週刊文春/文春オンライン』(文藝春秋)などの週刊誌やそこから派生するWEBメディアによるものだ。最初は、匿名の女優からの榊英雄監督への告発。映画へのキャスティングを持ち掛け、女優に性的関係を強要したと報じられると、榊監督は「事実ではないことが含まれている」としながらも謝罪コメントを発表。性被害がテーマの監督作の公開は見送られた。

 続いて、榊監督の盟友である木下ほうかもまた、同誌で女優への性加害を告発された。木下は芸能活動を無期限休止としつつも、「強姦した事実はない」として同じく報じた『週刊女性/週刊女性PRIME』(主婦と生活社)と担当記者を提訴している。また、『週刊女性/週刊女性PRIME』は、園子温監督が作品への出演を条件に女優らに性的関係を迫ったと報じた。園監督は謝罪コメントを発表するとともに、「記事は事実と異なる点が多い」との主張をしている。

 佐藤弁護士は、「実際、芸能界の性強要問題への相談は、被害者からも加害者からも多く寄せられている」と明かす。被害者側の相談では、「性被害だけの相談もあるが、多くは、マネジメント事務所等と契約を解除したいといった内容の中から、性被害もあったという話が出てくる形が多い」。一方、加害者側からの相談では、「加害を認めて『示談したい』という内容から、『そんなことはやっていない』『一のことを十書かれてしまった』という冤罪や報道被害相談、また『誹謗中傷されている』という誹謗中傷相談。この3点で相談に来る人が多い」という。

メディアに頼らざるを得ない告発、「冤罪や報道被害を生む恐れもある」

 芸能界における性加害を含むハラスメントの相談件数は横ばいで、とくに最近になって増えたというわけではない。だが、コンプライアンスに厳しくなったはずの現在においても、一向に改善しないことに懸念を抱いている。

 「文化芸術分野、特に芸能界において、性被害やハラスメント被害者が、声を挙げづらいという環境そのものに問題があったと考えています。まず、芸能界全体がハラスメントについて、『そのぐらいだったら大丈夫でしょう』と悪い意味で寛容であることが問題の根底にはあります。また、被害者が声を挙げたりすると、それが業界全体に対して、『あの女優は面倒である』『使うのを避けた方が良い』という噂が広げられてしまい、それが仕事の減少につながるということも大きな問題の一つです。これでは、弁護士にも相談しづらいし、仮に訴訟等をしても、そのような環境では戦うのも難しい。そんな現実が大きな壁として立ちふさがっていました」

 そうなると、被害者は週刊誌への告発など、メディアに頼らざるを得ない。まさに今回のの流れそのものだが、「そのやり方は、必ずしも正しいとは言えない」と、佐藤弁護士は釘を刺す。

 「被害を告発することで、問題を顕在化させ、解決に繋げていくことには公益性もあるかと思います。ですが他方で、一部の週刊誌を使う告発方法などは、冤罪や報道被害を生む恐れがあります。週刊誌等は、告発者側の意見だけを記事にし、十分に両論を併記しない場合も多い。その一方的な主張が世に広まり、SNSでの“私刑”が横行し、多数の誹謗中傷の被害に遭う恐れもある。実際に、報道や告発内容が、真実ではない、間違っていた、ということも少なくなく、名誉毀損等になっている可能性もあり、取返しがつかない深刻な被害に繋がることもあります。声なき声を取り上げるのもメディアの役割ですが、それは凶器にもなると考えてください」

個人事業主の“働き方”守る法律がない日本、裁判官ですら「芸能界ならよくあること」

 今回の『週刊文春』『週刊女性』誌上での告発は、たしかに問題を知らしめる「一つの契機」にはなった。だが、「本来なら、こうした被害者を救うのは法律や行政であるべき」と渋い顔を見せる。

 例えば、多くの芸能人は個人事業主であるが、今の日本には、個人事業主の“働き方”を守る法律がない。SMAP問題、吉本興業の闇営業問題で独占禁止法、下請法などに注目が集まったが、いまだ公正取引委員会は明確な動きを見せていないという。

 「フリーランスの働き方を守る法律がなく、また公正取引委員会、経済産業省、厚生労働省等も芸能人の“働き方”に切り込まないため、芸能業界では、ハラスメントを含めた芸能人の働き方について、『このくらいなら大丈夫だろう』と放置されているところがある。被害者が声をあげづらい環境だけではなく、法律もなく、行政も切り込まないため、問題が外に出づらい、というのがあったと思います」

 この悪習は司法の場にも影響している。過去に佐藤弁護士が取り扱った裁判で、裁判官は、ハラスメントについて「それくらいのこと、芸能界だったらよくあるでしょう」と容認してしまうという事例があったそうだ。「つまり、立法、行政、司法、芸能業界を含めた文化芸術分野、すべてに問題があるのです。それぞれが、文化芸術の働き手が危機的な状況にあると一刻も早く気づいてもらいたい」

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