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芸能人の「薬物検査」は人権侵害か? 沢尻逮捕で広がる波紋…専門弁護士に聞く「権利と義務」
テレビ局と事務所が「薬物検査」を出演条件にしても、タレントに強制はできない
佐藤弁護士 私は制作会社や映画会社の代理人をすることもあるのですが、タレントや俳優ら芸能人が薬物問題を起こすことによって、作品がお蔵入りになったり、再撮で費用が莫大にかかったり、経営的な危機に陥ってしまう事例を何度も見てきました。その意味で、薬物検査を行うことは非常に大切なことだと思っています。一方で、薬物検査を強制的に行うことは、確かに「人権侵害」であり、大きな問題が生じるかなとは思っています。
ただ、あらかじめ十分に説明し同意を得たうえで薬物検査をし、問題のなかった芸能人が作品に出演するという制度は導入していくべきだと思っています。同意を得れば人権侵害という部分はクリアできる。タレントさんの自覚を促すうえでも、第三者の機関を立ち上げて、薬物検査を事前にしておくというのは大事なことだと思います。芸能界は、これまでは口約束や、信頼という部分が美徳とされてきていますよね。もちろんそれは大切なことかもしれませんが、過度にセンチメンタルな部分を大事にし過ぎて、契約をないがしろにしてはいけないと思います。新しい慣習を作っていくべきです。
――あくまで強制ではなく、同意のもとならば、人権侵害にはならないということですね?
佐藤弁護士 例えば、芸能事務所とテレビ局が、「タレントに薬物検査させることを出演の前提条件にします」という契約を結んだとします。ですが、その契約をもとに芸能事務所がタレントに薬物検査を強制できるかというと、それはできないんです。芸能事務所による、タレントに対する人権侵害になりかねない。あらかじめ、芸能事務所とタレントのマネジメント契約書のなかで、「ある作品に出る場合、薬物検査が条件にあったら同意する」と条項を入れる必要がある。その際、「でもあなたにも拒否権はあるので、いやだったら受けなくてもいいです。ただその代わり、作品には出られませんが受け入れてくださいね」と付け加えれば、「人権侵害」にはならないです。
――事務所とタレントのマネジメント契約を締結するうえで、「薬物検査を受けなければ契約をしません」と説明することは問題ないのでしょうか?
佐藤弁護士 問題ないと考えています。コンプライアンスを考えた場合、一般企業でも「薬物使用者を入社させない」というのは法令順守の意味でも間違っていることではない。芸能事務所でも同様です。薬物検査を条件にすることは合理的な区別であり、憲法に違反する差別でもないため、僕は問題ないという立場をとっています。芸能人の権利を守るためにも、行うべきだと思います。
芸能人の権利を主張する立場でも…「権利があるならば義務も大事」
佐藤弁護士 僕は芸能人の権利を主張する側の弁護士ですが、多くの人たちが関わる作品に出演する以上、適正な検査を受けることは芸能人の「義務」だと思っています。もちろん拒否権はありますが、なるべく応じていただきたい。芸能人の権利ばかり主張していると思われがちですが、権利があるならば義務も大事。それは芸能人の方々にも伝えていかなければいけないと思います。
――今後数年で、芸能界も薬物検査導入などの方向に進んでいきそうですか?
佐藤弁護士 僕は推進している立場なので、そうなることを願っています。芸能事務所側でも、薬物検査導入に賛成している人、反対している人、それぞれいると思います。ただ、世の中の動きがコンプライアンスを徹底する方向に向かっている以上、遅かれ早かれ芸能事務所もそれにならう流れになっていくでしょう。以前は、芸能界特有のしきたりが存在し威力を発揮していましたが、ここ数年でそういうものは通用しなくなってきていますよね。
――ただ、撮影前に薬物検査をして陰性でも、作品公開や放送が開始されるまでの間に、薬物を使用してしまうというリスクもありますよね。
佐藤弁護士 定期的に薬物検査を行う必要はありますが、それでも薬物によっては反応が数日で消えてしまうものもありますし、検査しても100パーセント防げるものではないでしょう。ただ、60〜70パーセントでも防げれば大きな前進になるだろうし、定期的に検査を行うことでタレントの危機管理意識も高まると思います。