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妄想旅行もついにこの域に…、“宇宙”を本気でガイドする『るるぶ宇宙』の奇策

 コロナ禍を契機にオンラインツアーやバーチャルツアーの体験価値が高まりつつある中、老舗JTB傘下のJTBパブリッシングが発行する『るるぶ』ブランドから登場したムック本、その名も『るるぶ宇宙』が話題を集めている。ついに地球外をもツアーガイドしようとする果敢な企画は、いかにして生まれ、成立したのか? 『るるぶ』編集部に話を聞いた。

キーワードは“脱地球”、宇宙の見どころを大特集

 有料配信ライブの隆盛や、Amazonのバーチャル専用プラットフォーム導入(Amazon Explore。米国ですでに稼働中)などなど。ロックダウンやそれに準ずる措置に伴い、家にいながら<どこか外へ>を志向するオンラインサービス需要が高まっているのは、昨年来の世界的な傾向だ。

 では、紙媒体などのオフラインで、そうしたニーズに対応することは困難なのか? という問いへの鮮やかな回答のひとつこそ『るるぶ宇宙』だろう。編集部の佐藤翔さんに話を聞いた。

「コロナ禍で旅行に行きづらく、当社でもなかなか通常の旅行ガイドが売れづらくなった今、家でも楽しめる旅行先として出てきたアイデアが“宇宙”でした。コロナの状況下で、社内で「妄想旅」がキーワードになっていたことや、発行時にははやぶさ2カプセル帰還、野口宇宙飛行士と星出宇宙飛行士のISSでのご活躍も期待されるなど、ニュースで日本と宇宙がつながる話題も多く見込まれたため、最適のタイミングだと思いました」

 扱うエリアは「宇宙」だが、テイストはいつもの『るるぶ』そのもの。賑やかでカラフルなレイアウトとともに、“国際宇宙ステーション内”をホテルに見立てたアメニティ情報や、惑星の見どころなど、しっかりと役立つ情報も添えられている。発売から1週間で、増刷となる反響を集めたという。

「ニュースなどを見て宇宙に興味を持った大人のライト層をターゲットに想定していましたが、初心者でもわかりやすく、ワクワクしながら読んだというご感想や、お子さんと一緒に楽しくご覧いただいているといったお声も多くいただきました。

 また、いわゆる宇宙愛好家の方などにYouTubeで大きく取り上げていただいたり、演劇やセルフポートレートの小道具として使っていただいたり、出版前には想像していなかったような様々な展開もありました。世の中、まだまだ楽しいことがいっぱいあるのだと、私たちも元気づけられています」

オフロやトイレはどうなる…? 無重力状態でのリアルな宿泊事情

『るるぶ宇宙』の監修を手がけたのは、20年以上にわたって宇宙・天文分野を中心に取材・執筆を続けている林公代さん。内容は、「国際宇宙ステーションへの行き方・過ごし方」、「食事や歯磨き、トイレ事情」、「月周回旅行ガイド」や、月や太陽系の各惑星の見どころまで、旅行ガイド本らしい内容を心がけたという。

「制作陣は、普段は旅行ガイドとしての『るるぶ』を作っているメンバーで、宇宙に関しては素人同然です。なので林さんには、最新情報だけでなく、用語の定義や専門的な校正作業も含め、大変な助力をいただきました。それと同時に、グルメ、宿泊、見どころなどの通常版『るるぶ』の要素や構成を取り込むことも、強く意識しました。楽しくてわかりやすいガイド本、それが『るるぶ』の基本ですから」

 じつは2021年に発売された『るるぶ』シリーズは、『るるぶ新日本プロレス 公式ガイドブック』『るるぶONE PIECE』といった異色のテーマも扱っている。コロナ禍という困難にあっても、その市場のニーズを冷静に把握・分析することで、より自由な発想での多様なコラボを展開し、いずれも好評を得ているのだ。

 つまり、何かについてのガイド本であり、読者を楽しませるという徹底した工夫さえあれば、無限に存在するテーマに対して“るるぶメソッド”がある種の普遍性を備えていることの証ともいえるだろう。

 コロナ禍でさまざまな業界が大きなダメージを受けているなか、ユニークなアイデアで苦境を乗り切ろうとする同社。また、自粛続きでガマンの日々が続く人々にとっても、壮大なスケールのありえない旅行を妄想することで、夢や希望を感じることができるだろう。

「実際に出かけなくても、楽しくわかりやすい情報を詰め込んだ誌面をお届けすることで様々な“妄想旅”が成立する、という手応えを感じています。今後も、旅に限らず、学習分野など様々なコラボ企画なども含めて、新しいるるぶや新しいガイド本の発行を続けていきたいですね」
(文/及川望)
るるぶ宇宙』(外部サイト)
(監)林公代
JTBパブリッシング刊
1100円(税込)
2021年3月発売
(C)JTBパブリッシング

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