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「個」から再び「共有」へ…コロナ禍で見直される“音楽の楽しみ方” 親子のコミュニケーションツールへの回帰
家族で共有する時間が拡大し会話が増加 “共通言語”としてリビングで音楽を共有
特に変化を実感しているのが「食卓での会話」であり、全体の17.6%が「増えた」「とても増えた」と回答。中でも一般的に平日の夕食を一緒にする機会が少ない男性(父親)は20%と高い傾向にある。大人は仕事に邁進、子どもは塾や習い事と、近年ますます「個」に分散していた家族が、食卓を共にし、会話することで、これまで知らなかったより深いパーソナルな部分も見えてくる。互いの個を共有する場として機能するのがリビング。そのリビングをより充実した共有スペースにするためのツールとして、また“共通言語”として音楽を選択するユーザーも増加。スマホの普及と音楽配信サービスの躍進により、近年は“お1人様”での音楽鑑賞がすっかり定着するなか、家族の会話をきっかけに”音楽の楽しみ方“も変化している。
音楽メディアの進化と価値観が変化…音楽は“個”のものに
戦後復興期を超え、人々に娯楽を楽しむ心の余裕が戻ってきたころ、レコードやラジオを楽しむ文化が、市民にも徐々に浸透していく。当時の状況について総合家電メーカー・Panasonicのオーディオ機器に特化したブランド『Technics』担当の上松泰直氏はこう話す。
「当時はまだまだオーディオは高級品でしたので、裕福な方が応接間に置いたりして使われていました。テレビの黎明期に“街頭テレビ”に人々が群がってみる姿の映像が残っていますが、オーディオもそれと同じように、持っている人の家にお邪魔してみんなで楽しむ、という使われ方をしていました」(上松氏)
空間に人を集め、1つの機器から流れる音楽を「共有」して楽しむ。祖父母と孫、親と子など世代間にギャップがあっても、1つのものを共有する時代。子どもたちも上の世代の人たちの好みの音楽を聴くことで、「良質な音楽の継承」が自然と行われてきた。
「80年代に入ると少しずつ様子が変わってきて、それまでの”質”の部分から、“利便性”や“手軽さ”が注目され始め、90年代にはその傾向が顕著に。家でじっくり音楽と向き合うというよりは、持ち運べるとか、好きな時に好きな所で聴けるということが最重要視されて、音楽を聴くスタイルが変わっていきました。それに伴い、オーディオは小型化、軽量化していきます。応接間にドンと存在感あるオーディオよりも、各自の部屋にラジカセが置かれる時代になり、それぞれ好きな音楽を聴く時代になっていったんです。
それまで当たり前だった“時間や空間を共有して音楽と向き合う”というよりは、“自分の生活スタイルのなかに音楽を取り入れていく”時代になっていった。カセットテープやCD、MDといった音楽のフォーマットの変化がそれを可能にしました。圧縮されている分、音質は落ちてしまうんですが、音質と利便性を天秤にかけたときに、利便性を選ぶ時代になっていったんですね」(上松氏)
ラジカセやミニコンポ、カセット/CD/MDのポータブルプレイヤーなどの登場によって、音楽は「共有」するものから「個」で楽しむものへと変化。さらに、2000年代以降は、音楽配信サービスが広まり、スマホで音楽を聴く時代に突入。家族や友人らと、空間で音楽を共有していた時代は終わり、「ネット上でデータを共有する」ことが主流となっていた。
コロナ禍で新たな需要、家庭用オーディオ出荷数が前年越え…レコード盤再評価も呼応
「家の中で、お父さんお母さんと子どもさんが会話する時間が増えて、今までになかった会話が生まれているようです。例えば、昔お父さんが聴いていたレコードやCDが会話の種になったり、逆に子どもさんが今ハマっている音楽がどんなものなのか、など世代間を超えた“音の交流”というものが増えているように思います」(上松氏)
近年のアナログレコードの再評価やシティポップブームも相まって、若年層の“ルーツミュージック”を探る志向の上昇、子どもが今どんなことに関心があるか知りたい親にとって“流行歌の情報収集”。この原点帰りともいえる「親子双方向での『良質な音楽の継承』」は、まさにコロナ禍がもたらした数少ない光明といえるだろう。
「30〜40代のファミリー層にも支持していただいています。半世紀以上にわたり"次の音"への挑戦を続ける『Technics』としては、手頃な価格と空間に調和するデザイン、それでいてハイエンド機に匹敵するサウンドを実現していることから、家庭で手軽に良質な音楽を楽しみたいという需要にマッチしたようです。
今はストリーミングで音楽を楽しむ方が多いでしょう。またアナログレコードに惹かれる方も増えています。しかしどんな音源ソースであっても、最高のサウンドで再現すること。ひいてはそれが世代の異なるご家族同士で音楽を共有する豊かな時間につながれば、『Technics』としては、これほどうれしいことはありません」(上松氏)
取材・文/児玉澄子