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コロナ禍における唯一の光明は「家族の時間が増えたこと」 食がもたらす“団らん”の意義
コミュニケーションが増加し「家庭内の家事分業がボーダーレス化している」
さらに、「外出自粛をするなかでよかったできごと」としては、以下のようなコメントが上がっている。
「食事時間を含め家族の時間が長くなった。食事の準備の時間、夫に子供の相手をしてもらえる為、効率的に支度が出来る様になった」(40代女性/神奈川県)
「男ですが、料理が得意なので、たまに料理は作ってたけど、リモートになって家にいる時間が増えたので、平日でも料理ができるようになった。(40代男性/東京都)」
「通勤通学時間がなくなったお陰で、夜ご飯の時間が早まり夜ゆったり過ごせるようになった(50代女性/千葉県)」
「小5の息子が炒飯やオムライスなど簡単な昼ごはんくらいは作れるようになった(40代女性/愛知県)」
こうした調査結果について、植田氏は「家事の分業がボーダレス化しているのでは」と実感を語る。
「夕食に揃う家族の人数が増えたと実感している方が2割もいらっしゃるのは、すごいことですよね。これまでは、お母さんが食事の支度をして、お父さんはお風呂に入れる…など、家事がなんとなく家庭内で分業化されているイメージだったんです。実際にきっちり役割分担されているご家庭も多いかと思いますが、コロナ禍によってそれぞれが家にいる時間が増えたことで、その役割がボーダレス化しているのかなと感じました。役割をきっちり決めるというよりは、みんなが少しずつ分担し合うような流れに変わってきた印象がありました」
食材の宅配サービスの売上は40%増加、料理の時短が叶う商品が好調に推移
植田氏は注文傾向について、次のように説明する。
「安倍元総理が学校に休校要請をして約10%、小池都知事の『ロックダウン』発言時にも約10%、緊急事態宣言でさらに約10%と売上高が伸びていきました。1回目の緊急事態宣言時には、瞬間風速的に前年比140%まで伸びています。とはいえ、もともと当グループの食材配送システムの場合、生協組合員として加入しないと、商品の購入・宅配が利用できないというハードルがあります。そのため、コロナによって突然、爆発的に加入数が増えたわけではなく、もともと安定的に推移していた組合員数の中で、それぞれのご家庭の購入数が増えたということです。特に購入が多かったのは、お米、冷凍食品、スパゲッティなどの商品ですね。これらは前代未聞の売上として、急増する配達に苦慮するほどでした」
また、同社の商品で、料理時間の時短を可能とする商品も好調に推移している。特に「3日分の時短ごはんセット」は1日につき約1万2000セット、「わが家の常備菜セット」は約7000セットという注文が入っている状況だ。
「開発者によると、『毎晩の献立を考えるのが、つらくてしょうがない』という声が多いのだそうです。私も妻に『今日何たべたい?』と毎日のように聞かれますが、それほど献立を考えるということは難しいもので、皆さま、毎日冷蔵庫の中身と照らし合わせながらご苦労されているんですよね」(植田氏)
食卓が“人を結びつける場”に、「メリハリをつけて料理を楽しんで」
「それは、『日々、メリハリをもって、手作りを楽しんでみませんか?』ということです。忙しい平日は、便利なセットなどを利用してパパっと作る、で良いと思います。料理は簡単に済ませて“料理以外の時間を楽しむこと”を大事にしてほしいのです。また、休日は、一人であればとことん手のこんだレシピに挑戦してみるのも良いし、家庭でお子さんと一緒に作ってみるのも楽しいでしょう。その日その日の状況に合わせて、メリハリをつけて、普段の料理を楽しんでほしいと思います」(植田氏)
また、「美味しいものを食べる」ことは、単に料理の味だけではなく、「大切な人と共にする時間」によって補完されることも多い。
「食べることは生命維持には欠かせないものですが、食は『人と人を結び付ける場』として様々な価値や役割を担っており、それを実現するのが“食卓”です。それは2度目の緊急事態宣言により、20時以降の飲食店が閉まっている今、誰もが改めて気づいたことなのではないかと思います。コロナ禍で普通の生活が失われたことにより、そんな『食卓の大切さ』を教えてもらった気がしています」
とはいえ、料理に関してはどうしても“作る負担が増えた”という課題がある。リモートワークによって偏った食生活になっている問題も、報じられている。そうした料理の負担や、食生活の偏りはどのように改善するべきなのか?
「当会では、コロナ禍の食卓を考えるオンライントークライブを行い、人々の気づきとなるような情報を発信しています。食べることにまつわる社会の現状や、不健康な生活に陥りがちな日常を生き抜くためのスキルやノウハウをお伝えしていきたいという狙いからです。と同時に、食材をつくる生産者の方々にも思いを馳せる機会を提供したいという思いがありました。自分たちが食べるものを自分たちで確保していこうという思いを、もっと強く明確に抱き、それをみんなで共有していきたいと思うのです」
SNSによって情報の共有はいくらでもできるようになったが、言葉の節々に垣間見える“不安”や“悩み”をテキストからくみ取ることはどうしても限界が生じる。その点、食卓を囲む家族の団らんは、“対面での共有”ができる。食卓が“自分の思いを語る場”となって、それが“温かみ”をもって受け止められ“絆”として深まっていく。これこそ食を囲む意義と言えるし、コロナ禍のなかで改めて我々が気づくことができた光明と言えるのではないか。
(文:田幸和歌子)
農文協・パルシステム共同企画 『かんがえるタネ』 “世界が転換する時代の「台所サバイバル」”
調査結果からも、コロナ禍において食卓環境に変化がみられました。これまでパルシステムでは、産直を中心に「人と人が直接つながる」活動を展開してきましたが、困難な状況が続くなか、持続可能な社会づくりの実現へ向けた新しいコミュニケーション手法の確立が求められていると認識しています。このたび、パルシステムと農文協による共同企画「かんがえるタネ」シリーズの関連企画として、これまで出版された2作品の作者を招きオンライントークライブを開催します。食文化史と台所、歴史研究と哲学という多角的なアプローチから、「コロナ後の食卓」を考えます。
質疑応答はライブチャットにてお受付いたします。