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「異世界転生」に「溺愛」、マンガの“現実逃避”がメンタルに与える影響は? 心理カウンセラーが提言

ハイスペ求められる現代に必要不可欠な現実逃避、コミックが“心の非常駐車帯”に

  • 心理カウンセラー・浮世満理子氏

    心理カウンセラー・浮世満理子氏

 ネガティブなイメージのある“現実逃避”というワードだが、浮世氏は「現代を生きるためには必要不可欠だ」という。

 「誰もがハイスペを求められる現代社会は、あたかも高速道路のようです。のろのろ走っていると後ろから追突されたり、煽られたりと常に気を張っていなければならない。だけど高速道路にも非常駐車帯があります。エンストしたりガソリン切れを起こしたりする前に、一時的に路肩でリカバリーをする。そうした“心の非常駐車帯”のようなものを誰もが1つは持っておいたほうがいいと思います。電子コミックのメリットは、ゆるっと読めて、いい意味でパワーを使いすぎないところ。眠れぬ夜のお供にお酒や睡眠剤に頼るよりはずっと健全だと思いますね」

 コミックはあくまでフィクション。どんなにのめり込んでも、(否が応でも)現実に引き戻される大人にはそれでいいだろう。だが、長らく未成年のLINE相談にあたってきた浮世氏が注意喚起するのは、子どもたちへの影響だ。

 「近年子どもたちにとても影響を及ぼしたのではないかと思うのがコロナ下での学校イベントの中止と東京五輪の開催です。人生で一度の大切なイベント──運動会や文化祭、修学旅行を奪われた自分たちは『(アスリートとは違う)ザコキャラだ』という思いが拭えなくなっていると感じます」

一方で子どもへの影響は?「現実にもきちんと戻れるような循環を」

 異世界転生ジャンルは、死からスタートする作品が多い。もちろん、子どもたちが本気で転生を信じているわけではないだろうが、現実に絶望するあまり「ワンチャンあるんじゃないか」という発想に飛躍するリスクを浮世氏は懸念する。かつて、社会現象を呼んだ某人気コミックが、子どもたちの“自殺ごっこ”を引き起こした可能性を指摘されたこともあった。

 「溺愛系も、コミックでは都合が悪いことは描写されません。でも現実では往々にして、溺愛と束縛・モラハラは紙一重。現在、デートDVやホスト狂いの問題が言われていますが、刷り込みにより『これは愛なんだ』と勘違いすることに繋がる可能性もあります。現実を捉える感覚をバグらせやすい要素を含むコミックには、フィクションであるということを伝えていく必要がありますね」

 浮世氏は通信制高校の代表も務めているが、一概にこうしたジャンルが子どもたちに有害だと言っているわけではない。

 「不登校やひきこもりの子たちの中には、自己紹介はできないけれど“推し紹介”はイキイキとしてくれる子がたくさんいます。ストレスフルな現代において、自己完結できるエンタメは大人にとっても子どもにとっても最良の癒しであり、メンタルヘルスにもなっています。フィクションで楽しませつつ、現実にもきちんと戻れるような循環を作ってくれればより良いと思いますね」

 一定のセオリーがある「異世界転生」や「溺愛系」だが、それゆえにジャンルファンも掴んでいるようで、コミックシーモアによると「同ジャンルをはしご読みする読者が多い」とのこと。また「ストーリーに拡張性が高く、各出版社も力を入れているジャンルだけに今後も人気は継続するだろう」と見ている。エンタメは時代の写し鏡。そこには現代の生きづらさが投影されているとは言えど、適切な用法・容量を守れば、現実と上手に折り合うために欠かせないものとなっているのかもしれない。

(文:児玉澄子)
■コミックシーモア (外部サイト)

【プロフィール】
浮世満理子(うきよ・まりこ)
アイディア高等学院学院長、全心連公認上級プロフェッショナルカウンセラー/メンタルトレーナー。大阪府出身。『全国心理業連合会』代表理事。『全国SNSカウンセリング協議会』常務理事。トップアスリート、芸能人、企業経営者などのメンタルトレーニングを手掛けるほか、メディア出演も多数。『カウンセラーが悩み解決!SNSコミュニケーション』、『本当にしんどい時に読む メンタルの整え方』、『子どもの可能性を120%引き出す! メンタル強化メソッド 50』、『LINE上手 ビジネス・私生活で相手の心理をつかむ!』など、著書多数。
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