ORICON NEWS
社会に溶け込めない“メンタル弱者”、精神科医が明かすコロナ禍が変えた意外な現状
精神的な病気は「軽症化している」? 偏見が減るものの批判も…その理由は
――YouTubeチャンネルを開設したきっかけは?
「クリニックで患者さんに病気の説明をする際、もともとは薬のことなどを含めて基本的な部分を印刷物で渡していたんです。そうすることで、説明を簡素化でき、より話を聞く時間を長くとることができるので。そのあとHPに同じものを載せたのですが、オリエンタルラジオの中田敦彦さんが『これからは動画の時代だ』と話しているのを聞いて。それまでアナログでやっていたことを、動画にしてみようと思いました」
――動画を始めて、心の病気に興味を持つ人は増えてきているという実感はありますか?
「数値として増えている感じはあります。以前アンケートを取ったのですが、半分ぐらいは通院中の患者さんで、残り半分がその家族や受診していない人。あとは同業者が1割ぐらいでした。動画を観てクリニックに来られる方がとても多いです」
――13万人という登録者数にはどんな印象をお持ちですか?
「精神科の患者さんは全国で400万人くらいと言われているので、そこまで大した数字ではないのかなと思います」
――精神科に通院する人は増えているのでしょうか?
「正確な数の把握は難しいところはありますが、精神科医の間では『病気が軽症化している』とは言われています。それは、早い段階で受診する人が確実に増えているから。なぜそうなっているかと言うと、偏見が減ったからだと思います。昔は『親族に精神科の患者がいたらお嫁に行けない』なんて言われていた時代もありましたからね」
――なぜ偏見が減ったのでしょうか?
「歴史的に偏見が減ったのではと思われる事象が、90年代にSSRIという抗うつ剤が出たことです。そのときに『うつ病は誰でもなる危険性がある病気なんだ』と広まりました。そのことで、良くも悪くもうつ病の患者さんを増やし過ぎたという批判もありましたが、結果的に偏見がなくなる大きなきっかけになったんです。さらに、こうした動画を配信し、病気を身近に感じる人が増えれば、より偏見がなくなっていくのかもしれません」
コロナ禍による多様化で気持ちがラクに?「“総中流社会”はメンタルが弱い人にとっては苦痛」
「僕は、圧倒的に気持ちがラクになった人が増えていると思います」
――それはどういう部分で?
「うちのクリニックが開業したのが4年くらい前なのですが、当時は夕方の4時から夜の10時までが営業時間でした。なぜかと言うと、そのころは昼間に仕事を休んで受診するなんて許されていなかったから。それが3年ほど前から残業時間に対して、世間の目が厳しくなってきた。さらにコロナ禍でリモートワークになったりして、よりそういうしがらみが減ってきていると思いますね。心の負担も格段に減った人が多いのではないでしょうか」
――ではコロナ禍で、メンタルは安定してきた人の方が多くなってきたと?
「圧倒的にラクになった人が増えていると思います。もちろん人との交流が減って孤独を感じる人もいると思いますが、コロナ禍によって多様性がより認められるようにもなった。人というのは元来、多様な社会の方がラクなんです。いわゆる“総中流社会”みたいなものは、実はメンタルが弱い人にとっては苦痛で、いじめも生まれやすい。いろいろなところに小さい集団がたくさんある方が、居場所は見つけられやすいのです。精神科の患者さんは、圧倒的にマイノリティ側。社会に紛れることができる人は、患者さんにはなりませんから」
――ではコロナ禍が落ち着いてこれまでの社会が戻ってくると、気持ちがつらくなる人が増えていくのでしょうか?
「それはどうでしょうね。コロナ禍を経験して、より社会は多様化してきました。例えば、飲み会なども断る理由ができたと思うんですよね。労働時間の問題はあると思いますが、そこもやり方がいろいろあることも学べたと思います」
――コロナと言えば、マスクの問題もありました。若い人の間では、マスクをつける習慣に慣れて、外せなくなってしまったという話も聞きますが。
「それも、周囲が徐々にしなくなってきたら、多くの人は順応して外していくと思います。一部、醜形恐怖症のような感じになってしまっている人もいるかもしれませんが、よほどのことがない限り、それも時間の問題で元に戻ると思います」