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なぜ五輪選手がSNS誹謗中傷の的に? 四大会帯同メンタルトレーナーが明かす事前対策の“落とし穴”

 連日、選手たちの活躍が報道されてきた東京五輪。だがその一方で、卓球・水谷隼選手や体操・橋本大輝選手らがSNSで誹謗中傷されたことを明かし、ネット社会のモラルが問われることになった。これまでも、芸能人や著名人に対するSNSの誹謗中傷は一つの社会問題とされてきたが、なぜ五輪出場選手までもが標的となってしまったのだろうか。選手のメンタルトレーナーとして、アテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロと四大会連続で帯同した心理カウンセラーの浮世満理子氏が、その要因を解説した。

表面化するSNS問題、国際化のリスク、“アマチュア”ならではの事情も

  • SNSの誹謗中傷があったことを明かした水谷選手

    SNSの誹謗中傷があったことを明かした水谷選手

 前述した水谷選手、橋本選手以外にも、サーフィンの五十嵐カノア選手、体操の村上茉愛選手が誹謗中傷を受けたことをSNS上で告白していたが、今回の東京五輪は、こうした選手の訴えが非常に目立つ。浮世氏はこの点について、3つの大きな背景があるという。

 「1つ目は、これまでの大会以上に選手本人がアカウントを持ち、直接発信することが多くなったということです。以前の大会のときも、インターネットやSNSはありましたが、近年では活用する人たちが飛躍的に広がっています。それまで、選手の発言はテレビや新聞、雑誌などのメディアを通してファンに届いていたのですが、いまはSNSで本人から直接届くようになり、交流もできるようになった。逆を言えば、大会をリアルタイムで観ている人たちの意見、誹謗中傷などもダイレクトに選手に届くようになってしまったのです。これまでは、いい意味でも悪い意味でもメディアが防波堤になっていましたが、それがなくなった。そういう構造上の問題があります」。

 さらに2つ目も、インターネットの普及により、世界の距離がより近くなった影響が大きいという。

 「今回、金メダルを獲得した水谷選手や橋本選手のSNSには、海外からの書き込みが多数あったと言います。自動翻訳機能も発達し、他国の選手にも手軽に書き込みができるようになりました。ただ、国が違えば価値観も違う。どちらが良い悪いではなく、自由に直接的に選手へメッセージが送れる、国際化はある意味で大きなリスクになります」。

 そして最後に浮世氏が挙げたのが、五輪に出場する多くの選手が“アマチュア”であることだという。

 「私はJリーガーなどのメンタルケアも担当していますが、プロのサッカー選手やプロ野球選手は、クラブや球団がしっかりとSNS対応のガイドラインを作り、指導をしているんです。しかし、アマチュア選手はそういったレクチャーを受ける機会が、どうしても少なくなる。選手によっては、ついこの間まで高校生だったという人もいますし、競技に懸命に打ち込んできた純粋な人たちが多い。彼らはこれまで、ある程度狭い世界の中で自分を応援してくれる人たちとだけ繋がっていれば良かったし、その中には基本的にネガティブなコメントはありません。でも、五輪で活躍して注目度が格段に上がると、これまでにはなかったいろいろな意見が増えます。当然、嫌なことを言ってくる人もいる。選手にしてみれば、急にそんな状況になったからといって、すぐにうまく対応するのは無理なことです」。

コロナ禍による準備不足、事前大会の中止…、選手のメンタル面に“落とし穴”

  • 氏・浮世満理子氏

    氏・浮世満理子氏

 これら要素が絡まり合い、今回の東京五輪では、選手に対する誹謗中傷という問題が大きく露呈したというのだ。さらに浮世氏は、こうした対応について選手個人に任せるのではなく、各競技団体などがしっかりした対策を講じる必要があったというが、そこも今回は徹底できていなかったと指摘する。その背景には、コロナ禍があった。

 「コロナ禍のため、本当に東京五輪は開催されるのか?と、多くの人がギリギリまで疑心暗鬼になっていました。それは競技団体側も同じで、競技自体の準備にも相当な苦労があったと思います。そのなかで、こうした選手のメンタル部分への配慮がうまくできていなかったのではないでしょうか。それが、選手のメンタルケアにおいて、大きな“落とし穴”となりました。少なくとも、いまの時代を鑑みれば、自分のSNSアカウントを持つ選手への誹謗中傷は予測できたこと。競技団体側は、大会期間中は他者からのコメントをオフにするように通達を出すとか、しっかりとした対策をするべきだったと思います。それが、アスリートのメンタルを守ることになりますから」。

 芸能人やプロ選手ならば、自身の商品価値を高めるためのSNS発信は、現代では必須と言えるのかもしれない。しかし、今回の状況を見るに、とくに大会期間中のアマチュア選手のSNS活用は、メンタルヘルスにとってプラスの面ばかりとは言えない。

 「誹謗中傷などのマイナスな意見を目にすれば、もちろんパフォーマンスにも大いに影響が出る。選手のメンタルケアをする立場からしてみれば、当然、期間中はSNSはやらない方がいいと思います。しかし、若い選手たちにとってSNS発信はもはや当たり前の日常。これまでは、基本的にアンチのいないアマチュア競技の中で、ファンによるポジティブなメッセージが選手のモチベーションになってきましたが、五輪ではそうはいきません。観る人の範囲は広がり、これまで見たことのなかったようなマイナスなコメントも目にするようになってしまった。本来であれば、五輪前に開かれる世界選手権などで心の準備ができたはずですが、コロナ禍でそれもかなわなかったため、今回より大きな影響が出てしまったのだと思います」。

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