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「汚部屋そだちの東大生」美しい”毒母”の呪いにかかった20年、絶縁までの壮絶体験

 暴力や過干渉、束縛で子を抑圧し、支配する「毒親」。そんな毒親との共依存、そして決別までを描いた半自伝漫画、『汚部屋そだちの東大生』がSNSで話題だ。作中では、主人公のユウちゃんと美しい母親との想像を絶する汚部屋暮らし、そして東大合格から毒である母親との絶縁までがリアルに描かれている。実親との決別というショッキングなテーマに込められた思いとは。著者であるハミ山クリニカさんに話を聞いた。

「ママが死ぬまで私の幸せはおあずけなんだ…」共依存の恐怖

――母親とのエピソードはどれも強烈ですが、当時はその異常さに気づいていなかったんですね。

ハミ山クリニカさん作中で、主人公のユウちゃんは東大在学中に気づきはじめますが、私自身が母の異常さに気づいたのは、実は社会人になってからです。たとえばアザだらけになっているとか、周囲から見てわかりやすく虐待と判断できる状態ではなかったので、指摘されることもありませんでした。汚部屋で暮らしていることも、一歩外に出れば誰にもわかりません。

――教育熱心で洋服も買ってもらえる…、裕福で恵まれた家庭だと思われていたかもしれません。

ハミ山さんはい。でも買い与えられる物のほとんどが母の押し付けで、私が欲しい物はありませんでした。欲しくない、いらないと思うことばかりで、そのせいか私は今でも物欲が無く、お金を使うことが極端に苦手です。

――ご褒美と称して、チョコレートのホールケーキを1人で完食しなければならなかったエピソードは衝撃でした。

ハミ山さん今でも食べたくないものをたくさんもらったりすると、無理やり食べさせられていた当時の記憶がフラッシュバックして、あの気持ち悪さがよみがえってきます…。

――ハミ山さんから見て母親はどんな人でしたか。

ハミ山さん母は昔から本当に美人だったらしく、チヤホヤされたまま歳を重ねたせいで「姫」と呼ぶのがピッタリな人でしたね。なんでも自分の思うままに事を進めるので、私もそれに従うのが当たり前だと思って生きてきました。
私が通っていた藝大を中退して東大生になったのも、母の意志です。「ママは藝大より東大がいいから、東大に行きなさい」と。反発することも知らないので、言われた通りに受験し直しました。当時は母の過剰な口出しになんの疑問も持っておらず、このまま言われた通りにお金を稼ぎ、2人で暮らしていく人生なのだろうと思っていたんです。

一生、母親と2人で生きていくと思うと「ゾッとした」

――育ってきた環境がおかしいと気づいたきっかけは?

ハミ山さん決定的な出来事があったというわけではなく、社会人になり、作中にも描いた「普通の人は外出時、脱いだ服を床に置かない」のような気づきで少しずつ自我が芽生えた感じです。お給料も母親が管理していたので、そのうち、自分で稼いだお金の使い道を決めることができないという金銭管理の出来なさを指摘されることが増えてきたんです…。それで、家を出て自立したほうがいいかもしれないと思うようになりました。

――周囲から指摘されて気づきはじめたんですね。

ハミ山さんそれまでも、恥ずかしい思いをしたことはたくさんあります。小学校の林間学校で、夜寝るときに使い捨てのコンタクトレンズを床に捨ててみんなに呆れられたこともありました。ゴミのなかで暮らしていたので、ゴミ箱に捨てるという習慣がなかったんです(苦笑)。ただ、恥ずかしさはあるものの、なぜダメなのかは分かっていなかったので、「おかしい」と思うまでには至りませんでした。

――あえて物事を深く考えずに生きてこられたように感じますが、今はその生活から抜け出しています。

ハミ山さん私はきっと、現実から逃げる癖があるんですよね。作中にも出てくる父が、問題が起きても見ないフリをしてそのまま逃げてしまう人で…。その現実逃避癖が私にも受け継がれているのかもしれません。物事がうまく行かないと「もういいや」と手を離してしまうことばかりでした。

――でも、「家を出てみたい」という気持ちは強かった。

ハミ山さんはい。その気持ちを何度も母に伝えようと努力しました。取り合ってはもらえませんでしたが…。話し合いができる次元ではなく、結局は一方的に家を出るという選択しかありませんでしたね。絶縁しないと簡単に居場所がバレてしまうということもあり、ひとり立ちするために完全に決別する道を選びました。

――まったく居場所はバレなかった?

ハミ山さん実は、親戚とはしばらく連絡が取れる状態だったのですが、「親子は仲良くしなきゃ」と勝手に情報を漏らされそうになったことが何度かあったので、今は親戚関係もすべて断絶しています。でも、決別はしましたが、母を憎いと思ったことは一度もありません。ただ関わりたくないというだけです。私と関係のない場所で幸せに暮らしてもらいたいですね。

「つらいと思ったら絶対に距離を置いて」周囲は理解しにくい歪んだ親子関係

――母親と決別して、ご自身にどんな変化がありましたか。

ハミ山さんいいことも悪いことも、全部自分の責任にできるということは、本当によかったと思います。なんでも母のせいだったころとは違い、たとえ失敗しても、自分でなんとかできる可能性がある。自分で事態をコントロールできることが喜びですね。

――では、今不安に感じることは?

ハミ山さん不安はありませんが、まだまだこれから解決しなければならない課題があります。たとえば片付けができないことや、うまく買い物ができないこと。気を抜くと自己評価が下がってしまって、自分を攻撃してしまうこともそうです。

――決別したら解決、というわけにはいきませんね…。

ハミ山さんそれは日々感じますね。そこから自分の人生を少しずつ取り戻す作業が必要で、それは今、私も取り組んでいる最中です。

――Twitterで「#毒親」が話題に上るなど、親子関係に悩む人の投稿は多いようです。

ハミ山さんこの漫画のコメント欄やSNSの感想でも、そうした投稿が見られるので、想像しているより多くの人が抱えていた悩みなのだと実感しますね。普段、自分の家族の問題を人に話す機会はそんなに多くありません。私もそうだったことで、ずっと異常さに気づけないまま母を受け入れるしかなかった…。

 それに、暴力や暴言とまでは言い切れない束縛や抑圧、過干渉など、わかりにくいけれど歪んだ親子関係は、周囲の理解を得にくいんです。その分、メンタルだけが蝕まれます。目に見える被害や証拠がないと警察、自治体が介入することは難しく、解決したいと思うのであれば自分で逃げ出すしか方法はありません。

――同じ悩みを持つ読者になにかアドバイスするとしたら?

ハミ山さん家庭ごとに事情はさまざまなので、「こうしたらいいよ」とアドバイスをすることはできませんが、私は母と決別したことに、メリットしか感じていません。あの決心が、今後の人生何十年を変えたと思うと、つらいと思ったら絶対に距離を置いたほうがいい、ということは言えます。この漫画が、少しでもそういう人の考えるきっかけになればうれしいですね。
(取材・文/渕上文恵)
汚部屋そだちの東大生(外部サイト)
 本作は東大卒作家・ハミ山クリニカの半自伝。ハミ山も主人公・ユウも、トイレは7年間壊れっぱなし、キッチンはゴキブリの温床、足の踏み場どころか寝床すらゴミの上といった異常な家庭で育つ。都内の一等地に立つマンションで母親と二人暮らしをし周囲からは裕福な家庭だと思われていたが、玄関ドア一枚隔てた先では物とゴミ……そして母親からの過剰な執着愛で溢れていた。しかしそんな母親の束縛と汚部屋状態な暮らしにも関わらず、勉学に励み見事、母親が望む東京大学に合格。大学生になったことで「自分の家は世間一般な暮らしとはまったく違う」ことに気がつき、自立を目指すまでの物語だ。

3月10日(水)ぶんか社より発売/定価1,320円(本体1,200円+税))
連載元:『マンガよもんが』(外部サイト)

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