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山崎育三郎の“核”を作ったミュージカル3作 「誰よりも『レ・ミゼラブル』が好きなだけだった」

今まで言われたことがないような、驚きの演出――『ミス・サイゴン』クリス役

――続いて、山崎さんの“核”を作ったミュージカル、2作品目は?
『ミス・サイゴン』です。
『ミス・サイゴン』
1970年代のベトナム戦争末期、陥落直前のサイゴン(現在のホー・チ・ミン市)。戦災孤児で清らかな心を持つ少女キムは、フランス系ベトナム人のエンジニアが経営するキャバレーでアメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、アメリカ兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。キムと離れ離れになったクリスはアメリカで再婚。その後サイゴンでキムと再会するが……。日本初演は1992年。
――『ミス・サイゴン』はベトナム戦争末期のサイゴンを舞台に、ベトナム人の少女キムと米兵クリスの愛と別離、運命的な再会を描く作品です。
日本版演出補のダレン・ヤップさんはジョン・ケアードさんに次いで、衝撃を受けた演出家でした。演出家でありながら、精神カウンセラーのようでもあって、みんなの心をケアしてくれるんです。

ダレンはいきなり「さあ、やって!」と稽古を始めることは一切ありません。19歳の若手も、長く出演していらっしゃる市村正親さんも、みんながフラットな立場で作品に挑む空気作りをしてくれるんです。

みんなが集まり、サークルになって手を握り合う。今からどういうシーンをやるのか、全員が穏やかな気持ちで同じところに向かうという意識を持ってから、稽古を始める。大事なシーンだったら、僕と相手役とダレンの3人だけで個室で稽古したり。ディスカッションをしながら、一個ずつ丁寧に組み立てます。ダレンの言葉を信じて演じたら、作品の中ですべての気持ちがつながっていくんです。

帝国劇場のような客席数2000の大劇場でも、いわゆるミュージカルっぽいオーバーな表現はしません。ミュージカルのデュエットソングというと、顔を客席に向けて、手を広げて歌ったりしますが、『ミス・サイゴン』ではそういうことは一切なく、ずっと二人で向き合って歌うんです。

「この二人に真実があれば、顔を客席に向けて大げさに歌うよりもずっと深く、二人の愛情がお客様に伝わるんだ」と、今まで言われたことがないような演出を受けました。「映画に出ていると思え、お客様はいないと思って」と言われて臨んだときに、今まで感じたことがない気持ちがたくさん動きました。

『ミス・サイゴン』で一回だけ、客席に霧がかかっているような、お客様がまったく見えない感覚になったことがあるんです。今までたくさんミュージカルの舞台に出ていますが、それが最初で最後の経験でした。

それくらい集中力が高まって作品の世界に入っていくことができたのは、ダレンが導いてくれたからこそ。一つ一つ丁寧に演出を作ってくれたから、お客様の前で演じているという感覚でなく、自分がベトナム戦争の中で生きるアメリカ兵クリスでいられたんです。

筋トレもして体を鍛え上げて、丁寧に作っていった記憶

――山崎さんは『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』で『ミス・サイゴン』のクリスのナンバー、『神よ何故?(WHY GOD WHY?)』を歌いましたが、コンサートで1曲披露するなどというものでは全然なくて、まるでその場にクリスが現れたかのようでした。歌でありながら台詞のように、彼の焦燥もキムへの思いもダイレクトに伝わってきて圧倒されました。
久しぶりに帝劇で歌いましたが、メロディが流れるとダレンのメッセージやそのときの空気、当時見えてたものがブワーっと浮かんでくるところがあって。歌を歌うという感覚ではなくて、芝居をしている感覚でしたね。

――それまで何度も『ミス・サイゴン』を観てきましたが、山崎さんがクリスを演じているのを見たとき、初めて「この物語が終わった後、クリスはどうやって生きていくんだろう」と考えたんです。それくらい、クリスの生き方にリアリティがあったんですね。山崎さんはクリスをどう捉えていましたか?
クリスは、ヒーローでも王子様でもない。すごく純粋な人だったんだと思いますね。ベトナム戦争に対して疑問に思うところがあって、正直に生きていた人だと思う。僕はアメリカに留学していたことがあるので、アメリカ人の男の子の感覚が理解できるところがあるんですが、国民性としても自分の感情をまっすぐにぶつけていくんですね。彼が生きてきた人生の中での葛藤は真実だけれど、作品全体を通すと決してクリスには同情できないと思います。

『神よ、何故?』はただのラブソングではない。神様に対して中指を立てるようにして「どうしてキムと出会わせたんだ」と激しい思いをぶつける歌なんです。立ち居振る舞いも歩き方もすごく研究して、アメリカの兵隊だから筋トレもして体を鍛え上げて、丁寧に作っていった記憶があります。

ラストは銃で自分自身を撃ったキムをクリスが抱きしめて終わるんですが、僕が受けた演出では、クリスは軍隊にいた人間だから、キムがもう助からないのはわかっている。だから、キムの苦しみが長引かないよう、その死が早まるように、強く抱きしめていたんです。

――そうだったんですか……。
観ている方は誰もわからなかったかもしれないけれど、そこまで芝居を突き詰めていたんです。自分の愛する人の命を、自分の手で終わらせる……苛酷すぎますよね。最後「キムーー!」と絶叫して終わるんですが、カーテンコールでも役に入り込んで過呼吸のようになっていました。

本当にみんな、毎日命がけで公演をやっていたので、ダレンもキャストの心のケアを心配していました。「公演が終わったら、お笑いでも見て。ミュージカルのことは一切考えたらだめだ」と言っていました。みんな、追い込まれるくらい集中して演じていた。ダレンからは作品との向き合い方を教わりました。今でも、ドラマをやっているときでも、ダレンの言葉が浮かぶときがあります。それくらい、大きな出会いでした。

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