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印刷物の“消しカス”をオブジェとして3次元化「魂を現実の世界に召喚」
観音様の作品には、実際にお賽銭も “消しカス”のリアルな造形に反響
入江早耶絵や写真などの2次元のものを3次元に置き換えるには、どうすればいいのかなと考え、紙をくしゃくしゃにしたり、糸をほぐしたりと身近な素材を色々と試しました。ある時、消しゴムを使うと紙に印刷されているイメージが消え、消しゴムのカスによる立体として出てくる感じが面白いと思い、消しカスを使い立体物を制作するようになりました。
――「消しカスアート」全体のテーマなどはあるのでしょうか?
入江早耶“モノには魂が宿る”という言葉がありますが、魂を現実の世界に召喚するというコンセプトで作品をつくっています。
――元となる作品はどのように選んでいますか?
入江早耶お札や掛軸などの平面の素材は、企画や展覧会の文脈に合わせて、そこの土地に元々あったものや、構想にあわせて骨董品屋さんやインターネットで購入しています。
――これまで反響があった作品はどんなものですか?
入江早耶前回の『瀬戸内国際芸術祭2016』での作品で、十一面観音の掛軸を用いて制作したのですが、観賞者の方がお賽銭を置いていかれるというサプライズが起こりました!上手く魂を込めることに成功した作品だったのではないかなと感じています。
――作品制作において、影響を受けた人はいますか?
入江早耶幼少期では、ロアルド・ダールや星新一、もう少し大きくなるとスティーブン・キング、漫画だと荒木飛呂彦、諸星大二郎など、ファンタジーやSF、ホラー系のお話がとても好きです。映画も似たようなチョイスで制作の合間に観てしまったりもします。日常の中のちょっと不思議な体験をしてしまうという感覚を大切に、作品制作を行っているので本や映画など物語の影響がとても強いと思います。
――どんな特徴がある消しゴムを使用しているのでしょうか?
入江早耶消しゴムは2種類を用います。プラスチック消しゴムと、非塩化ビニルのタイプの消しゴムを使うと、崩れにくく造形しやすい練り消しができる感じがしています。
――どれくらいの力で絵を消していますか?
入江早耶特に意識していませんが、大きな絵を消すときは、ドリルビットを消しゴムにカスタマイズして消したりもします。練るときも消しゴムのカスが大量な時は、パスタマシンを使ったり色々試行錯誤しています。
八百万の神々を更新「神様のアップデートに挑戦したい」
入江早耶長時間、続けて制作しないことです。作品制作には時間がかかるのですが、一日の作業時間で6〜8時間を超えて制作を続けるとパフォーマンスが落ちてミスをしてしまうので、夕方以降はなるべく作品を作らないことにしています。
――作品制作に関してのポリシーをお聞かせ下さい。
入江早耶そこまで強いこだわりはないのですが、自分で描いた絵や、自分で撮影した写真などを消すことはないです。作品のコンセプトとして必要がない限りは、その土地に根付いた魂のようなものを大切にしたいので、その場にもともとあったものや、歴史・文化にあうものを用いるようにしています。
――「消しカスアート」以外に制作している作品はありますか?
入江早耶牛のミルクや脂肪からつくられた牛乳石鹸から牛のかたちを削り出したもの。鉛筆の芯を同素体のダイヤモンドのかたちに彫刻したもの。ファンデーションで、美を象徴するミロのヴィーナスを造形したものなどがあります。
――今後挑戦してみたい新たな作品テーマなどはありますか?
入江早耶現代に対応した新しい神話をつくっていきたいと思っています。日本には八百万の神々がいると言われておりますが、ここのところ“更新”されていないと思うんです。例えば、インターネットの速度を早める神様や、海外に荷物を送ったり、商品を購入した際に速く安全に運ぶ神様など、“神様のアップデート”に挑戦してみたいと思っています。
――どういったところに「消しカスアート」の魅力を感じますか?
入江早耶自分の作品なので、ちょっと客観的に見れない部分もあるので難しいです。今までは、平面から立体の再現率が高かったことが、魅力だったんじゃないかと思いますが、最近はいくつかの絵から1つの立体物を作る事もあるので、私としては新しい試みを楽しんで作っています。
――「瀬戸内国際芸術祭2019」へ出展されますが、どういった作品を出展いたしますか?
入江早耶展示場所は、“二十四の瞳映画村”の中になります。映画撮影用の古民家に作品を展示しています。映画『二十四の瞳』に登場する漁師に焦点をあてたサイドストーリーを私的に想像させていただいています。家の中に入ると、家が突然喋り出したり引き戸が自動で開いたりと、少し変わった仕掛けとともに、消しカスでできた魚の女神像が観賞できる体感型作品になっています。