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気候により変動する鍋トレンド、“神頼み”するメーカー担当も…二季化による影響は?
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厳冬祈願のお札と〆鍋シリーズ(画像提供:株式会社Mizkan)
目次
PROFILE 株式会社Mizkan マーケティング本部 マーケティング企画2部 調味料4課 主任 田中 友理
人の役に立ちたいと思いミツカンに入社。納豆および業務用製品の味づくりを経て、鍋つゆのマーケティング企画に異動。現在は、鍋つゆカテゴリおよび主力「〆鍋」ブランドのマーケティング戦略立案・商品企画を担当し、ブランド初のタイアップ商品や10年ぶりの大型リニューアルなどを実行。
PROFILE 株式会社Mizkan コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 森田浩正
誰も経験した事がない事をやってみたいという思いでミツカンに入社。営業を経てレトルト食品、納豆、鍋つゆ等の商品企画を担当し、パキッ!とたれとろっ豆、焼あごだし鍋つゆ等を開発。現在はぽん酢サワー・業務用商品のPR・コミュニケーション、コミュニティ構築等を担当している。
部署全員で気象神社に“厳冬祈願”、進む二季化で鍋はよりシーズンレスな傾向に
厳冬祈願をしたミツカン社員(画像提供:株式会社Mizkan)
「自分たちでは気温を下げることも、雪を降らせることもできませんので」と語るのはミツカンマーケティング本部の田中友理さん。
「弊社では、気温と売上のデータを蓄積しているのですが、やはり気温が下がると鍋つゆの売上は伸びます。それもあり、厳冬祈願は鍋つゆ担当の間で続いてきた慣習で、これまでは担当個人がそれぞれ行っていたのですが、今年は初めて部署全員で祈願に行きました」(田中さん)
厳冬祈願の絵馬(画像提供:株式会社Mizkan)
「最低気温15℃以下が3日間続くと鍋つゆの売り上げが伸びることから、そろそろお鍋の季節だなと思ってもらえる目安となるよう、そのタイミングを『鍋開きの日』として宣言させていただいています」(森田さん)
桜前線に倣い、公式HPには気象予報士であり食生活アドバイザーの丸田絵里子さん監修のもと、「鍋前線」と題した全国各地の鍋開きのタイミングの予想を公開。今年は北海道の9月中旬から前線はスタートし、約3カ月かけて沖縄まで南下と予想された。かつてミツカンでは野菜が豊富に摂れるという鍋の利点を生かして、8月31日の「野菜の日」を「鍋開きの日」と訴求していた時期もあったが、夏が長くなり、エリアによって気温差も激しい今、8月31日は時代にそぐわなくなったということだろう。
となると、夏が長くなり、二季化が進む今、鍋つゆの売上は落ちているのではないかと尋ねてみると、「そんなことはないんです」と田中さんはニッコリ。
「たしかに23年から9月の気温がグッと上がっており、鍋つゆの売れ行きの立ち上がりが全体的に後ろ倒しになっている状態にはあります。ただ、寒くなってからの需要も伸長しているので、市場全体が大きく変動しているという状況ではありません。むしろ、今は夏季の鍋つゆ需要も増えています。エアコンの効いた20℃前後の室内にいれば鍋を食べても美味しいこと、また、鍋が野菜もお肉もたっぷり取れるメニューであることなどがその理由です。今は鍋が冬だけでなく、夏も食べられるシーズンレスになっている傾向にあると感じています」(田中さん)
ラーメンスープから着想を得て開発も「トレンドは“合わせる”のではなく自ら作っていくもの」
「鍋THE WORLD」シリーズ(画像提供:株式会社Mizkan)
それは、ぐるなびが毎年提案している「トレンド鍋(R)」にも表れている。今年は拡大傾向にある香辛料市場に注目し、アロマ鍋が選定された。しかし、販売元からすれば、トレンドに合わせて鍋つゆの開発をスタートしたのでは供給が間に合わない。ミツカンではどのように商品開発に挑んでいるのだろうか。
「大体1年くらい前から企画を立ち上げ、開発・製造へと進みます。企画においては消費者の意識の変化をいち早くとらえることを重要視し、トレンドを作っていく意気込みで開発にあたっています」(田中さん)
例えば、ミツカンの鍋つゆの主力商品に成長した〆鍋シリーズの「焼あごだし」は、九州で食されていた焼きあごだしがまだ全国で流行っていないタイミングでトレンド化するべく開発。
今年8月に「鍋THE WORLD」シリーズの第1弾として発売したニューヨーク、マルセイユ、ソウルの味にインスパイアされた『トリュフ香るマンハッタンクラムチャウダー』『オマールエビの海賊ブイヤベース』『発酵唐辛子のユッケジャン』の3種は、ニューヨークをイメージしたバーガーが発売されていたことや、大阪万博開催で世界の文化に触れる機会が訪れることに着想を得て、開発を進めたという。
「企画・開発のメンバーが月に1回、集まって、新商品の案を出し合っているので、常に新しい味を考えている状態です(笑)。ラーメン屋さんを食べ歩いて、ラーメンのスープから着想を得ることもあります」(田中さん)
もちろん、新しい味が出れば、なくなる味もある。例えば、〆鍋シリーズには2009年の発売当初、麻婆味とカレー味があったのだが、消えた裏にはこんな理由があった。
〆鍋発売当初の「麻婆鍋つゆ」と「和風カレー鍋つゆ」(画像提供:株式会社Mizkan)
また開発前の段階でボツになった例として、田中さんはこんなエピソードも明かしてくれた。
「2023年に〆鍋シリーズから『ごま豆乳鍋つゆ〈赤〉』という『ごま豆乳鍋つゆ』の少し辛いバージョンを出したのですが、同時に黒ゴマを使った〈黒〉のバージョンも作ってみたんです。ところが、試作の段階で出てきたら、私としては富山のブラックラーメンぐらいの真っ黒さをイメージしていたのに、コンクリートみたいな色で(笑)。豆乳が入っているから当たり前なんですが、開発の方から『どうしてもこのぐらいにしかならない』と言われ、諦めたこともあります」(田中さん)
「みんなが美味しく食べられること」へのこだわり、食材や分量など汎用性の高さを意識
『〆鍋 ごま豆乳鍋』(画像提供:株式会社Mizkan)
「弊社開発メンバーの細部まで向き合う姿勢には驚かされます。最後の最後に『0.001g調整させてほしい』と言われる場面もしばしばあります」(田中さん)
その微細なこだわりの背景には、消費者に鍋をより楽しんでもらうためのこんな考えもある。
「例えば『〆鍋 ごま豆乳鍋』は白菜だけでなく、レタスなどサラダに使うような野菜を入れても美味しく召し上がっていただけるよう開発しています。野菜によっては、高騰している時もありますからね。また、例えば1.5倍以上の食材を入れても美味しいとか、作ってから数時間おいた状態でも美味しいなど、食べ方の自由度も検証して開発しています。一応、裏面におすすめ食材や分量は記載していますが、どの商品においても汎用性の高さはとても意識しています」(田中さん)
現在は、ラーメンのスープとして、また、単にスープとして活用している人も増えている鍋つゆ。ミツカン公式HPでも、バリエーション豊かなアレンジ鍋レシピに加え、鍋つゆを使ったご飯ものやおかず、麺類など、鍋つゆの活用範囲を拡げる多彩なアレンジメニューを公開している。
「鍋料理が簡便な日常食として広がっていけば、もっと季節を問わず食べられることに繋がっていくのではないかと思います。ですので、何を入れても、どんなふうに作っても美味しいという価値を高める一方で、アッと驚くようなアレンジメニューの提案を増やし、鍋料理と鍋つゆの可能性をより広げていけたらと考えています。“神頼み”もしますが、自分たちの努力があったうえでの神助だと思っておりますので、“みんなが美味しく食べられること”にこだわり、開発を続けていきたいです」(田中さん)
(取材・文/河上いつ子)