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キッコーマン「ゼリー飲料市場」参入の意外なワケ、リコピン認知率80%も「若い世代は飲まない」
「トマト飲料」の主要購買層は50代以上 昔ながらの「青臭い」イメージがネックに
「当然のことですが、給料が2倍になっても胃袋もしょうゆを使う量も2倍にはならないんです。しょうゆは生活必需品ですが、人口の伸び以上に需要は大きく伸びません。弊社でも当時、このままではいけないということになり、国際化と国内事業の多角化の1つとして、デルモンテ事業がスタートしました」(キッコーマン食品・プロダクト・マネジャー室 デルモンテグループ野中亮佑さん/以下同)
1961年に吉幸(キッコー)食品工業株式会社(現日本デルモンテ)を設立。1963年からトマトケチャップやトマトジュースなどの販売を始め、1990年には米国デルモンテ社からアジア・オセアニア圏の商標使用権・営業権を取得した。野菜や果実の美味しさをケチャップや野菜飲料などで届けてきたが、近年、社内では購買層の拡大が喫緊の課題となっていたという。
「実はデルモンテの野菜飲料、中でもトマトジュースは、高齢者やミドルシニアと呼ばれる50〜60代がメインユーザーなんです。昨今の健康志向、美容意識の高まりからトマトに含まれる栄養素『リコピン』の認知率は80%近くあり、摂取傾向は年々上昇しています。20〜40代も『リコピン』への関心は高い。にもかかわらず、トマトジュースは飲まないという傾向にありました」
トマトジュースが50代未満に敬遠される背景を「昔ながらの青臭いイメージやシニア層向けの健康飲料といったイメージがあるのでは」と分析する野中さん。
新規層へリーチするためには「ワンハンド&少量」の紙パック商品でトライアル獲得が望ましかったが、トマトジュースの紙パック市場は競合他社が強く、デルモンテは遅れをとっていた。そこで目をつけたのが「ゼリー飲料市場」だ。
コロナ禍で訪れた「ゼリー飲料市場」の変化が追い風に
そんななか、コロナ禍による巣ごもり需要、病中病後の手軽なエネルギー補給、さらにはダイエット目的にと女性ニーズが伸びるという市場全体の変化が起こったのだ。このゼリー飲料業界のシーンとユーザーの多様化がゼリー飲料市場参入への後押しとなる。
「元々はパウチ入りの手軽に飲めるワンハンドの飲料なども検討していたところだったのですが、ゼリー飲料に多忙な時の食事代わり、スポーツ時の栄養補給、それだけじゃない新たなシーンが見え始めており、そこに可能性があるのではないかと考えました」
ゼリー飲料を購入する人たちの行動パターンもポイントとなった。
「調査したところ、ゼリー飲料というのは、それ1つだけを買うのではなく、“ついで買い”“まとめ買い”も多いことがわかった。つまり、新商品を見たら手に取りやすい、トライアルや買い周りが起こりやすいカテゴリーだということも決め手となりました」
こうして、コロナ禍による市場の変化の波に乗ることを決めたキッコーマンは開発に1年。ゼリー市場に参入している他社メーカーにはない、野菜や果物を加工する老舗ならではの技術を活かすことで新たな需要の掘り起こしを目指した。
「しかし、やはり市場を見ると女性客に売れ筋なのは、果実テイストの商品です。今回、もちろん果実はミックスしているものの、本当の野菜がメインのゼリー飲料が消費者に受け入れられるのか、と社内でも半信半疑ではありました。ですがこれから社会を担っていく若年層との接点の強化は至上命題でもあります。“ほかにない”というのは逆に“大きな強み”に変化する可能性も秘めていると思っています」
今回のパウチ型ゼリー飲料の発売は、デルモンテとしても新たな挑戦となりそうだ。
“カジュアルな味わい”が醍醐味の市場に“本物志向”の新風
『リコピンリッチ』(トマト85%・果汁14%)には、1本当たり160gにトマト4個分のリコピンと1日分のビタミンC100mgが含まれている。『食物繊維リッチ』(野菜汁58%・果汁33%)については1本当たり1食分の野菜120gを使用し、1食分の食物繊維7gを含んでいる。
これまでに発売されているゼリー飲料は果汁10%未満のものがほとんどだ。デルモンテの新商品は「果実風味」ではなく、野菜本来のうまみと果実のおいしさを活かした本格的な味わいを提案する。そんな新しいジャンルだからこそ「いかに定着させることができるかが非常に大きな課題」と野中さん。宣伝広告は20〜40代女性をターゲットとしたSNSやデジタル広告を活用する予定だ。
栄養素を高配合し、果汁をふんだんに使用した“本格派”の新商品。ある種の“チープ感”、カジュアルな味わいが主流だった市場に新たな流れをもたらすか、今後の展開が楽しみだ。
(取材・文/衣輪晋一)