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“食べるスープ”市場を開拓した『スープはるさめ』、カップ麺でもカップスープでもない隙間戦略
カップスープの進化系を模索し “食べる”に着目「スープの製造には自信があった」
「もともと即席麺メーカーとしてスープの製造に関しては技術力と自信がありましたし、カップスープを進化させたような製品ができないかを模索していました。そこでキーワードになったのが“食べるスープ”でした。“飲む”が当たり前のスープに“食べる”という新しいカテゴリーを作る、さらにおいしくてヘルシーな素材を使う…その方向性から春雨とスープを組み合わせた商品開発がすすみました」(エースコック/商品開発担当・山川大輔さん)
新ジャンルの開拓は先行メーカーが有利になる反面、開拓に失敗すれば大きな損失にもつながるが、「それでもチャレンジするのが、エースコックの企業理念」と、山川さん。
こうしてカップ麺でもカップスープでもない“食べるスープ”市場が拓かれた。開発はスープに重きを置いて行われた。
「春雨はツルっとした食感やのどごしの良さ、低カロリーといった点が魅力ですが、ほぼ味がありません。
味がない春雨をいかにしておいしく食べるか、舌に余韻が残るような深みのあるスープの研究を重ねました」
『スープはるさめ』は、折からの健康志向ブームの追い風に乗った。というのも、2001年はトレンドとして健康系食品が各社から発売され、一気に健康志向が広まったといわれる。その理由は、2001年4月に保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品)」制度が施行され、いわゆる「特保(特定保険用食品)」と呼ばれる食品が登場しはじめた社会的背景もあった。
例えば、「血糖・血圧・血中のコレステロールなどを正常に保つことを助ける」「おなかの調子を整える」「骨の健康に役立つ」などといった保健機能の表示ができるようになり、ヘルシー食品をうたったのである。そうした健康意識が刺激される状況で、食べ応えはありながらカロリー控えめな『スープはるさめ』が登場したのである。
カロリー控えめで、カップ型インスタント食品に女性客の流れを生む
「発売当初はカップ麺の棚だけでなく色んな場所に置かれていたんですが、他社製品も含めて商品が拡充するなかで徐々に “食べるスープ棚”が出来上がっていきました」
専用の販売コーナーができると気になるのが競合だが、現在ではスープパスタやスープパンといった洋風スープが多く、中華系春雨スープの競合商品はあまりない。後発組の他社製品の多くが撤退し、『スープはるさめ』独り勝ち状態となっている。まさに先行メーカーの強みだ。さらに、「同じ“食べるスープ”カテゴリーでもスープパスタやスープパン系は全く別物。競合ではありません」と、山川さん。
これらが競合にならないのは、消費者の購入意識が違うからだという。中華系の味わいが基本の『スープはるさめ』は主食のお供やダイエット時に食されることが多いのに対し、洋風テイストのスープパスタやスープパンは、パンに合わせたり朝食として利用されることが多いという。同じ陳列棚にありながら、共存共栄ができているというわけだ。
目指すは“万能の副食”、「年配者から幼児まで全世代が主食のお供にしてほしい」
「新商品の開発には、最小でもおよそ9ヵ月程度かかります。すでに来年の冬に向けた商品開発をすすめていますが、ひとつの商品を作り出すまでに100種類以上の試作は検討しています」
今年5月に発売された限定商品『スープはるさめ 塩レモン』は、瀬戸内産レモンを使用し、鶏ベースのスープに酸味を利かせた1杯だ。爽やかさがありながら万人受けする味わいに仕上がっている。
「最近の食トレンドでは変化球やインパクトを狙った味わいも人気ですが、『スープはるさめ』はテイストの冒険はしません。年配者から幼児まで幅広い世代の方に主食のお供として味わっていただきたい。そのためにも話題性だけのテイストはだしません。これまでもこれからも“万能の副食”でありたいと思っています」
人々の健康意識が一層高まったコロナ禍。さらに内食機会が増えたことで、ヘルシーかつ手軽な『スープはるさめ』は高需要になっているという。この機会に斬新な味わいに挑戦してみても良さそうだが、「主食に寄り添う副食でありたい」と、山川さん。最後に今後の展望を明かしてくれた。
「消費者ニーズに応えながら、副食としての認知拡大のため“おにぎりと合わせる”といった食のシーンそのものを提案することも合わせて行っていきたいと思っています」
(取材・文/福崎剛)