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1食1000円の“ラーメン自販機”が全国で拡大なぜ? 購買客の4割が女性、ヒットの裏に緻密なSNS戦略「夜中に二郎系買う人が多い」
冷凍食の常識を覆す“お店の味の完全コピー”、製麺所のプライドを懸けた商品開発
「弊社は駅ナカの立ち食いそばや社食などがメインのB to B企業で、緊急事態宣言が発令された2020年には、最大8割の収入減という憂き目に遭いました。そこでなんとか売上を立てるべく、製麺工場の前で有人の直売所を月に1回やってみたところ、『業務用の美味しい麺が購入できる』という噂が広まり、行列ができるほどの盛況で、お客様から毎日やってほしいとの声がありました。そうなると社員に日曜日まで出勤してもらわなくてはいけなくなるので、直売所以外の方法を考え始めたのです」(丸山製麺取締役・丸山晃司氏/以下同)
だが、「冷凍ラーメン」の開発は決して楽ではなかった。元々、社食がメインだったため、専門ラーメン店との販路が弱かった。勉強のために足を運んでいたラーメンフェスなどで培った人脈なども活用し、一から人気ラーメン店に声をかけた。
「ラーメン屋さんも、参加するからには店舗と同クオリティの商品を販売してほしいと皆さんおっしゃられていたので、『麺は多少異なりますが我慢してください』とは言えませんでした」と当時の苦労を語る丸山氏。1品1品が、製麺所としてのプライドを懸けた開発だった。
5分に1回エゴサーチ、「失敗したくない」ユーザーも味方につけるSNS戦略
「自販機には50食しか入らなかったので、自分も含めて社員が常に自販機の前にいました。面白いのは、自販機への補充の間、皆さん待っていてくれるんですよ。つまり手渡しではなく、“自動販売機で買う”というイベントに面白さを感じてくださったようですね」
「コロナ禍に人との接触がなく買える点や、昨今冷凍食が充実したことで“冷凍ラーメンは意外に美味しい”という認識が拡大していた点があったかと思います。SNS上でユーザーさんの反応を見てみると、『想像しているよりも美味しかった』という感想が非常に多いんですよね。何より、買うユーザーより写真を撮るユーザーが多い時期もあり、『うちの近くにもあった』と発信したくなる自販機というコンテンツの強さが一番大きいと思います」
毎日5分に1回エゴサーチをし、ヌードルツアーズに関する投稿にはこまめにリプライしている。また、「#ヌードルツアーズ」で有名ラーメン店の丼が当たるなどのキャンペーンも実施。自販機という無人ビジネスである以上、ユーザーとの接点が作りづらいがゆえに、SNSを活用しながら「ファン」になってもらう努力を惜しまない。
結果、SNSで検索するとヌードルツアーズの投稿がたくさん出てくることに。「昨今のお客様は、新しいものに挑戦する前にいきなり買わず、SNSでリサーチしてから買う方も多くいらっしゃいます。しかも一食1000円しますから、失敗したくないお客様も多い。ステマではないかと疑う方でも、SNSで純粋な良い感想が多く見つかることで、安心して買ってもらえるようになりました」
飲料自販機や証明写真機の相次ぐ撤退も追い風に 広がる自販機産業、競合はテレブース
東京だけではなく、地方でも好評だ。特にラーメンのジャンルが少ないエリアでは、反響が大きかった。「例えば、岐阜の方は二郎系を食べるために名古屋まで行く方もいます。中毒性の高いラーメンの特性として、食べたい時にすぐ食べたい。とはいえ、スーパーやコンビニでは味に満足できない。通販では1食だけだと送料の方が高くつき、届くまで1週間ほどかかるため、食べたいピークを過ぎてしまうのです」
置き場所は都内だと商業施設や駅ナカ。地方はフランチャイズ展開で、コインランドリー、ガソリンスタンドなど置く場所がある店からリクエストが来るそうだ。「昨今減少傾向にある飲料自販機や証明写真機の跡地に置かれることも多いです。競合はテレブースですね(笑)」
「ご参画いただけるラーメン店さんも徐々に増えており、現在のラインナップは25種類。『ヌードルツアーズ』と銘打ってるだけに店の選定にもこだわっており、あっさり、こってり、鹿児島などのご当地ラーメンからミシュラン系まで、行くたびに違う商品が買えるのも自販機ならではの楽しみです。最初は地方で東京の有名ラーメンが食べられるということで販路拡大していましたが、昨今では地方の名店の味が東京でも食べられるというように変化もしています」
老若男女に愛されるラーメンだが、ラーメン店の客層はかなり偏りがある。そこに隠れたニーズを見事に浮き彫りにした冷凍ラーメン自販機。飲料自販機や証明写真機の撤退が相次ぐ中、どんな味わいが楽しめるのかわからない「ガチャ」にも似た“エンタメ性”を秘めた自販機ビジネスは、今後ますます広がりを見せていきそうだ。
(取材・文=衣輪晋一)