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「ラーメンスープ」ヒットの背景 エキナカ自販機に見る日本人のライフスタイルの変化とは?
女性の社会進出が「スープ需要」拡大の遠因に
「交通系電子マネーが誕生し、自販機が対応して以降、これを使って買い物をする人が多くなり、いつ、どこで、どんなものが売れたかというPOSデータを取得できるようになりました。それによって、例えば15時台に、果汁100%のジュースが売れているのは、おやつ代わりとか、23時台にミネラルウオーターが売れているのは、飲んだ人が帰り道の途中で買っているとか、さまざまな分析ができるようになりました。そのなかで、夕方や帰宅時間帯にスープ需要が高まっていることが分かりました」(JR東日本クロスステーション ウォータービジネスカンパニー・小室塁氏)
「さまざまなリサーチをするなかで、『消費』を研究されている方にお話を伺ったんですね。そのなかで、女性の社会進出という背景があって、夕食の時間帯というのが、日本全体の平均が少しずつ後ろにずれているという話がある。会社帰りの時間帯に、どこにも寄らず帰り道の駅の自販機で、夕食までのつなぎに少しお腹に入れておくというところで『スープ需要』があることが分かりました。ただ、それまで発売されていた『スープ』は、ほとんどがコーンポタージュ。なので、選択肢が増えたらお客様に喜んでいただけるのではないかと考え、みそ汁の販売を開始しました」(小室氏)
オリジナルブランド商品は“スキマ”を埋め自販機の魅力を高めるため
「ブランドミックス機であるacureには、人気商品から話題の新商品まで取り揃えています。ですが、性別、年齢、職種など多種多様なお客様が利用するエキナカで、より多くのニーズを満たすためには、プラスアルファ、他社が作っていない“エキナカだからこその飲料”を作るべきではないかと考えました」(小室氏)
2014年、それまでの飲料メーカーの枠を超えたacureの展開に加え、「エキナカから“ここにしかない価値”を届ける」をコンセプトに、「acure made(アキュアメイド)」ブランドを立ち上げ、オリジナル飲料の開発・販売をスタート。スープ開発もその取り組みの一環だった。
同年に、「冬の電車を待っている時間はとっても寒い!」という女性の駅利用客の声を受け、永谷園とのコラボで開発した『「冷え知らず」さんの生姜チキンスープ』を皮切りに、16年には『贅沢デミグラススープ』を開発・発売。さらに18年には中華の要素を取り入れ、『気仙沼産ふかひれ使用 ふかひれスープ』を、19年には『旨辛 麻婆スープ』を販売した。
これらオリジナルブランド商品だけでなく、他社の既存の缶スープも自販機のラインアップに加え、スープカテゴリーの充実を図っていった背景には、「acureの自販機の魅力を高める」という目的があった。
「“1台の中にいろいろなものがある”のがブランドミックスの強みです。自販機の中で1番を獲る商品を作ることが目的ではなく、駅を利用するお客様が毎日飽きずに選択できるような魅力的な商品を豊富に揃え、自販機全体の売上の最大化を図ることを考えています」(小室氏)
そして今年10月、acureの魅力をさらに高めるべく満を持して登場したのが、ラーメン専門店「一風堂」監修の缶スープ飲料『コクと旨味の一風堂とんこつラーメンスープ』だった。
「ラーメンスープ」を缶飲料として飲んでもらうための工夫
「18年に『ふかひれスープ』を発売したとき、Twitter上にお客様から『飲んだ後のシメのラーメン代わりにいい』という声が結構あがりました。エキナカの自販機にはそういう需要があるのだということに気づき、ならばラーメンっぽいものを作ったらいいのではないかと考えたのが始まりでした」(大河原氏)
開発にあたり、まず決めたのが、味のベースをとんこつにすることだった。
「スープの味は何にしようかと考えたとき、しょうゆ味や味噌味、塩味よりも、とんこつ味が一番ラーメンっぽくてわかりやすいだろうと思いました。さらに、(自販機で発売する)缶飲料でとんこつ味というのはそうそうないので、インパクトや話題性もあるだろうと考え、決定しました」(大河原氏)
しかし、“そうそうない”だけに、不安も大きかったとか。
「話題にはなるかもしれないけれど、実際に飲んでみようという最初の一歩はけっこうハードルが高いのではないかと。では、皆さんが美味しいだろうと安心して手を伸ばせものを作るにはどうしたらいいかと考えたとき、すでに皆さんから信頼を得ていて評価の高いラーメン店である一風堂さんと組むのがいいのではないかと思いました」(大河原氏)
共同開発の申し出を一風堂は快諾。実は以前から、一風堂の店舗では、「スープだけ飲みたい」というリクエストを受けることがあったそう。さらに、店舗を越えた場所で客との接点を作りたいと考えていたことも相まって、「自販機」×「ラーメンスープ」というこれまでにないコラボが実現した。
もちろん、缶飲料として商品化するためには、さまざまな工夫が施された。
「一風堂さんのスープはもともと臭みがなくて飲みやすいですが、缶飲料として最後の一滴まで美味しく飲んでいただけるよう、ラーメンのスープほどしょっぱくなく、まろやかでクリーミーで飲みやすくなるよう味の調整を重ねました。また、具や麺がなくても十分満足できるような味に仕上げることも意識しました」(大河原氏)
発売当初は、ラーメンというとサラリーマンの男性のイメージが強かったことから、その層からの支持を予想していたが、意外にもTwitter上には女性からの反応も多く、発売から約1ヵ月経過した現在も、「当初の想定よりもハイペースで売れている」(小室氏)とのこと。今回の成功を受け、新たなスープ開発への意欲も高まっている様子。
「今回のラーメンスープの開発・発売では、『こういうのが欲しかった』というお客様の潜在的なニーズに応えられる商品が出せたということが弊社にとって非常に大きな成果だったと思います。この成功事例を活かして、今後も『あったらうれしい』と言っていただける、他社が作っていない商品を開発していけたらと思います」(大河原氏)
取材・文/河上いつ子