アニメ&ゲーム カテゴリ
ORICON NEWS

「箱絵から飛び出すドム!」「絵…じゃないの!?」、ド迫力の塗装に箱絵作者も賞賛したガンプラとは

 売り場でガンプラを手に取り、その箱絵に描かれたモビルスーツの姿に胸を躍らせる。前多ミライさん(@fgl_mirai)さんは、そんなボックスアート(箱絵)に惹かれ、プラモデルでこの二次元アートを表現。先日発表した箱絵から“飛び出す”『MG ドム』は、1万件近いいいねを獲得し、多くの人々に賞賛された。「本格的にガンプラを作ったのは本作が初」という同氏に、本作誕生の背景とボックスアートの魅力について語ってもらった。

幼少期にあった“箱絵”への憧憬

――箱絵から“飛び出す”『MG ドム』が大きな話題となりましたが、本作が本格的なガンプラデビュー作とお伺いしました。
前多ミライはい。幼少期はお小遣いも少なく、数える程しか買ってもらえなかったので、駄菓子屋に置いてあったプラモデルをワクワクしながら見ていました。また、買ってもらったものも、箱を切り取って透明な下敷きに挟んで大事に使っていた記憶があります。その後「百式」や「キュベレイ」など手に入れることができたんですが、気まぐれで作り始め、途中で飽きて投げ出してきました。
 ところが、2020年7月頃に突然、ガレージキットのフィギュア塗装に興味が出て、それ以降ずっとフィギュアの塗装を勉強していました。

――塗装の勉強のなかで、その対象がフィギュアだけでなく、プラモデルにもなっていった。
前多ミライそうですね。勉強していくなかで、フィギュア塗装の第一人者である村上圭吾さんの塗装に一目惚れし、そこからはずっと村上さんの技術を学んできました。村上さんの作風は一言でいうと「絵画的」。フィギュアなのですが、「絵」のようなタッチで塗装されており、ここで学んだ塗装技術が私の根本にあります。すっかり「絵画的」な塗装にハマってしまった私は、プラモデルを買う際も、箱絵が絵画的な物を選んで買ってしまうようになりました。「絵画的」を意識して初めて買ったキットが『マクロス』に出てくる「リガード」でして、ここからプラモデルを「絵画的」に、箱絵と同じように塗装する事にハマっていきました。

――ご自身が絵画的なものにハマった要因はどこにあると思いますか?
前多ミライ幼少期の経験から、もしかしたらプラモデル本体よりも、パッケージのイラストに興味があったのかも知れません。実際に大人になった今でも、箱は捨てずに切り取って飾って置くようにしていますしね。

「箱絵の再現」は失敗…が、結果的に大成功「脚の飛び出しは偶然の産物」

――本格的なガンプラデビュー作である本作ですが、なぜドムを選ばれたのでしょうか?
前多ミライ根本に「絵画的」な塗装でプラモデルを作りたいという想いがあるなかで、このドムのボックスアートも、どこか絵画的でとてもカッコ良く、一目惚れしたキットでした。「箱絵の再現」をするという前提でキットを探していて、このドムを見つけて購入したという流れです。

――本作は箱絵を見事に再現しつつ、脚部が飛び出す形になっています。
前多ミライ実は、当初「箱絵の再現」が目標だったので、脚や手がはみ出す表現は頭にありませんでした。背景画をパソコンで作り、A3サイズ(作ったドムがすっぽり収まるサイズ)でプリント・設置し、いざ撮影をしようとすると、アングルの問題で手足がはみ出してしまいました。はみ出さないようにカメラのアングルを変えると、今度は箱絵のポーズとは違って見えてしまいます。一時は、背景を作り直そうとも考えましたが、試しに撮った写真が思いのほかカッコ良く、臨場感が出て面白い表現になったのです。「箱絵の再現」としては失敗でしたが、結果「飛び出してくる!」という表現につながりました。もとからあったアイデアではなく、偶然の産物なのです。

――偶然だったのですね。でも逆に迫力のある形に仕上がっています。本作は「光の反射」まで見事に再現されていますが、どのようにこだわって制作されたのですか?
前多ミライ私の先生である村上圭吾さんは「そこに見える全ての情報を描く」という方です。光が当たっている部分には光を、影になっている部分には影を描き込みます。決して艶がでる塗料でテカリを出すことはせず、あたかもテカっているように“見える”塗装をする。その姿勢にすごく共感を覚え、マネできるように必死に努力してきました。ですので、「目」もLEDライトなどで実際に光らせるのではなく、光っているように見える塗装を施しました。私も初めて挑戦した技法でしたので、この部分だけで10回以上やり直しています。

――10回以上も!
前多ミライはい。発光させるには、明と暗の差が強くないとダメだと思っており、モノアイの白とピンクを塗る前に、周りの黒い部分を真っ黒にする必要がありました。普通の黒色の絵の具では、どれだけ塗っても真っ黒にはならないので、「暗黒ブラック」という光を吸収して限りなく真っ黒に近い黒色になる塗料を使いました。
 あと、元のイラストだと背景に爆発シーンが描かれており、その反射光がドムに写り込んでいます(向かって左側のピンクの線)。イラストだと一本の線でしかありませんが、プラモデルにただ線を描いただけでは、そのように見えてくれません。真横から見ると、このようにピンクの線を何本も描いて、正面から見た時に丁度一本の線に見えるように、探り探り塗装しました。

“箱絵の作者”も絶賛「ご本人からの賞賛は、これ以上ない栄誉なこと」

――すごいこだわりですね。他に苦労したところはございますか?
前多ミライ一番苦労した部分は、やはりポージングです。箱絵としては成立していても、実際にはとれないポーズでした。腰と上半身はありえない位、曲げないといけなかったので針金で固定していたり、手足の関節もそのほとんどを一度切り離し、位置をずらして接着してあったりします。この作業には説明書が無いので、手探りで進めないといけないのが難しい点でした。

――そんな苦労を乗り越えたからこそ、多くの人から賞賛の声があがりました。特に印象に残ったコメントはどんなものでしたか?
前多ミライ頂いたコメントはすべて心に響くものばかりでしたが、特に印象に残ったのは、「色探しのプロですね」です。箱絵に似せて塗装する際の一番の肝は、「色探し」だと思うんです。実際に私は塗装している間は、箱絵を10分観察し、1分塗装する。という流れです。箱絵に使われている色がどんな色なのかを観察し、その後、絵の具を調色して、同じ色を作ります。まさに「色探し」の行程です。この作業は「感覚的」で説明が難しいのですが、一番大変でもあり、一番楽しい部分でもあります。この感覚的な部分が、自分の一番の強みだと感じているので、このコメントは最高にうれしかったです。

――「色探しのプロ」とは、まさに言い得て妙ですね。この箱絵を実際に描かれた森下直親先生からも賞賛のコメントが直接届けられました。
前多ミライやはり、ご本人からの賞賛のお言葉は、これ以上ない栄誉だと感じます。丁寧な文面からも、とても親切なお人柄が伺えました。こうやって、一般人とプロの方が直接交流できるSNSツールがあるのは、いい時代になったなと感じます。

――本作をはじめ、絵画風の作品を数多く残してらっしゃいますが、ご自身は箱絵のどのようなところに魅力を感じていますか?
前多ミライ箱絵は商品の「顔」だと思っています。プラモデルを買う人は全員必ず箱絵を見て購入するはずです。ですので、箱絵はカッコ良く描かれていますよね。「箱絵の嘘」という言葉もあり、カッコ良く見せるあまり、かなり誇張された表現がされていたり、実際に作ったプラモデルでは、とれないポーズで描かれていることが多いです。言ってしまえば、中身とは別物だという事です。実際に入っている中身とは違う表現のパッケージ。これが成立してしまう不思議な世界だと感じています。大げさですが、とても面白い文化ですし、アートに近い存在だと思います。

――最後になりますが、今後の目標をお聞かせください。
前多ミライ「前多ミライといえば、こんな作風」「箱絵塗装といえば、前多ミライ」という風に、私のイメージが皆さんに周知されたいという想いは強くあります。今後のモデラーとしての活動は、まだはっきりと言えないのですが、もっとたくさんの方々に見て頂きたいと思っております。ツイッターだけではなくさまざまな形で発信していこうと準備をしていますので、楽しみにしていてください。

あなたにおすすめの記事

 を検索