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25歳で希少がんに…片腕を失った男性が明かす異変と人生観「それでも元芸人として笑いをとりたい」
2022年6月”片腕男子”になった宮野貴至さん(写真/宮野貴至さんnoteより)
小さなしこりと、5年間はがし続けた“かさぶた”
2022年6月に左腕を切断し、半年経った現在の生活を明るく話す宮野貴至さん。現在25歳。病気が見つかった当時は、大学を休学しながらお笑い芸人を目指していた。
インタビューに笑顔で応じる宮野さん。「新しい自分を楽しみたい」と話す。撮影/逢坂聡 (C)oricon ME
始まりは5年ほど前。20歳で関西から上京し、都内の大学に通っていた。その頃、バスケットボール中に左手親指の付け根にかすり傷を負った。高校生の頃から触れれば分かる程度の小さな“しこり”があった部分だった。かすり傷はすぐにかさぶたになった。ところが、気になる部分にあるせいか、固まってはそれをはがし続けた。いつまでたっても傷は治らず、5年が経過した。「見た目は化膿している感じで、しこりは親指の先ぐらいの大きさ」になっていた。
重い腰をあげて近所の町医者へ行くと、大学病院へ行くよう紹介状を渡された。その後、大学病院からさらに専門の病院を紹介され病理検査したところ、血管のがん「血管肉腫」であることが分かった。
「正直、最初に診断された時は怖いというよりは、そんなんあるんやー、よくわかんない症状にやっと名前がついたな、ぐらいの感覚でした。それから専門の病院での検査になって、そこで非常に悪性度が高く、希少がんのひとつと告げられました」
「がんは転移や再発が怖い、と聞いていたので、根治を目指せるなら片腕をとろう、と。そこは迷いませんでした。自分としては生きるために必然の選択でした。利き腕じゃないということも決断できた理由かもしれない」
片腕切断後の更なる病理検査で、腫瘍は「類上皮血管肉腫」と「類上皮肉腫」という2つの希少がんを併発したものと判明。
「世界でも例を見ない症例みたいで、人類初。僕、“新人類”なんですよ(笑)」
病気について語る宮野さんに悲壮感は一切ない。片腕を失う前にも恐怖感はあまりなく、失った今も悲観することはないと話す。前向きで自己肯定感が高いのは「昔から」と笑う。ただ「自分は大丈夫ですけど…」と続ける。治療費を負担し、術後、都内で1人暮らしする宮野さんの生活を支えたのはご両親だ。がん患者の家族は“第二の患者”とも呼ばれる。片腕を失う前に何かしてあげられることはなかったか。「そういった自責の念はかなりあったように見えました」。
“ない”ことを武器に。片腕は自身のアイデンティティと笑いに変えて生きる
「皆さんへの注意喚起をしたかったんです。ちょっとした違和感、それがこんな結果を招くこともあるよ、と。元々、僕はお笑いやエンタメが大好きで芸人になろうと養成所に入っていたぐらいなので、“片腕になる”このビフォーアフターを見た人はあまりいないだろう、ならば見せてあげたいなとも考えていました」
「でも海外では障がいを持った人がそれを自虐ネタのように披露する芸もあるんです。自分もゆくゆくは片腕のブラックジョークで周囲を笑顔にしたい。『片腕男子』としてのお笑いはライバルがいないし、唯一無二的な感じもある。お笑いとして、それはちょっと新しい道だ、とも感じています」
これまでに配信している動画にも宮野さんがクイズを出される場面で、ナレーションを担当する友人が「視聴者の皆さんにはクイズを出します。宮野くんは聞かないで」と言われ、片腕で耳をふさぐが、「いやそれ聞こえるやん」などと、片腕が“ない”ことをネタにしたりもしている。
「僕自身は、表に出る人はアンチも覚悟すべきと思ってて。だから誹謗中傷しないでくれ、ってメッセージするよりも、批判的なコメントがきたときの自分の考え方とか、メンタルを鍛えたほうが健康的だと思ってるんです。アンチを逆に笑わせたいとも思う」
片腕になってから街中で見られることも増えた。そんな時も「なんなら『見てみる?』ってボケたい気持ちが湧いてくる」という。先のYouTuberのようにがんは治療費に関する悩みを抱える人も多いが、それについても「今現在は、そんなに心配していない」と宮野さんの言葉は始終前向きだ。
日本人の2人に1人ががんに罹患すると言われる現代、万が一に備えて“がん保険”に加入している人も少なくないが、20代学生での加入者は稀だろう。保険もない、就職もしていない。そんな宮野さんが治療費への不安がないのはなぜか。
「本当は何かのために若いうちから蓄えをするのが正解なのかもしれない。でも、僕らの世代で都内でひとり暮らしをしていると、ほんまにお金がない。だから、今回の経験から友人にアドバイスを求められても“いつかのために貯金や保険に入っとけ”とは思わない。今は、夢や目標のために時間もお金も全投入していいと思う。ただ、結婚したり子どもが生まれたり、守る誰かができたら話は別」
もともとお金への執着は薄かったが、がんになり、優先度はもっと下がった。「今は何よりも家族や友人が大切」とはにかむ。だから、自分のためには貯めない。いつか誰かのために備える日がくるといい、と話す。
「強いわけじゃない。ただ自分らしく生きたい」
がん診断後も生まれ持ったポジティブ思考は変わらない。ただ変わったこともある。お笑い芸人を目指してコンビを組んでいたが、相方とは解散した。
「日本では、障がい者が前向きに生きている姿に対して、1つのバイアスがかかってしまう。それに感動を覚える方がいらっしゃることを否定はしませんが、そのバイアスは、こと“お笑い”に関しては致命的。“普通に”笑ってもらえないんです。どうしても“障がい者なのに頑張っている”という図式になる。だから、漫才をするこれまでのお笑いは続けられなかった」
今は前述したように “障がいで笑いをとるエンタメ”を模索している。「お笑いで“片腕男子”という道は新しい」と前を向けたのは、生き方をしなやかに変えることができたからだ。
事務所所属芸人を目指し養成所に通っていた頃の1枚。卒業ライブではトップの成績を収めた。宮野貴至さんInstagramより
それでも、今を理解し前に進む。「強いわけじゃないんです。ただ自分らしく生きたいだけ」と宮野さん。YouTubeは600万再生されたコンテンツはあるものの、まだ収益化はされておらず、これまでの貯金などを利用しながら東京で1人暮らしをしている。今後は配信を中心にお笑いイベントなどを企画する予定だ。人気YouTuberのヒカキンとコラボできるほど人気になりたいし、何でも武器になると人々を勇気づけたいと熱く語る。そして、最後に伝えたいのは、やはり健康への過信は禁物ということ。
「とにかく皆さん、早め早めに病院へ行ってください。僕みたいにかすり傷程度と思っていてもそうじゃない場合もある。僕も20代と若いので、怠ってしまった。病気の原因はまだ不明。“しこり”がもともと肉腫だったのか、はがし続けたかさぶたの傷から菌が入ってがん化したのか。今、詳しく調べている最中です。でも違和感があれば、またそうでなくても人間ドッグなど自分の健康状態を知るために、病院へ行くなり、なんらかのアクションを起こすべきです」
(取材・文/衣輪晋一)
宮野貴至さん。撮影/逢坂聡 (C)oricon ME
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