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「“がん社会”だからこそ、がん経験者が加入できる保険を」保険業界の課題に挑んだ元銀行マン

日本人の2人に1人ががんに罹患すると言われる現代(※)。そんながん社会にあって、これまでがん経験者は“実質がん保険に加入できない”という歪みがあった。正確には、商品自体はあるものの実際の利活用がしにくいものだった。この業界の課題に挑戦する“元銀行マン”がいる。大手銀行を辞め保険業界に飛び込んだ笹本晃成さんだ。20年前、保険業界に入った当初「こんなに忌み嫌われる職業があるのかと愕然とした」と話す笹本さん。そこから一転、業界のため、がん経験者のために奮闘する“元銀行マン”の願いとは。

がん経験者の嘆き、それは保険業界で「誰も見向きもしなかった課題」

「がん保険は、健康な人を対象に万一のがんの発症リスクに備えて加入するものでした。一度でもがんを経験した人はは加入条件が厳しく、加入できたとしても保険料が高額だったりと、“入りたい人が入れない”というジレンマがありました」

 外資系保険会社で20年近く勤務した笹本晃成さんは、がん保険についてこう話す。がん保険が、“実質がん経験者が加入できない設計”になっている理由のひとつには”加入者間の公平性の維持”が関係する。がん経験者は手術後も治療が必要なケースがほとんどで、再発のリスクもある。健康な人とがん経験者が同じ保険に入る場合、加入者間で不公平が生じないよう、保険料や条件等で公平性を維持する。その結果、がん経験者が“入りたくても入れない”状況が出来上がるというわけだ。

 笹本さんも多くのがん経験者から相談を受けた。どうにかしたいという思いはあったが、同業者は誰も見向きもしなかった。

「日本では1970年代から販売され始めたがん保険ですが、セールスしている側は、健康な人の契約をどんどん取ることに熱心で、がん経験者が、術後すぐに保険に入れないで困っているという話を聞いてもどうしようもなかった」

 20年業界にいたからこそ、課題解決の難しさは分かっていた。勤めていた保険会社を辞めた。そして、2021年。笹本さんは「必要な時に、必要な保障を、必要としている人へ提供する」を掲げ、MICIN(マイシン)少額短期保険株式会社を創立。“がん経験者のためのがん保険”を誕生させた。

相互扶助の精神から生まれた保険なのに、困っているがん患者を救えない現実

 大学卒業後、大手銀行に就職。銀行マンとしての仕事は充実していたが、同期や先輩たちが次々と外資系企業に転職する姿を見て、格好いい生き方だと憧れた。そして10年勤めた銀行から外資系生命保険会社に転職。契約を取れば取るほど収入になる完全歩合制で、意欲が掻き立てられた。銀行時代の人脈もあれば、融資契約の実績も自信もあったからだ。ところが、銀行時代とは違って、契約は思うように取れず、「こんなはずじゃなかった」と挫折を味わった。セールス先では「生命保険はもう入っているからいいよ」「がん保険って掛金が高くなるんじゃないの」「万一のときって、そういう話は聞きたくない」など、手厳しい反応も多かった。

「こんなに忌み嫌われる職業があるのかと愕然としましたね」

 笹本さんは当時の心境をそう振り返る。顧客はお金を借りに頭を下げて銀行に来るが、生命保険のセールスは自分が顧客先へ出向き、頭を下げなければならない。銀行時代と顧客と自身の立場が逆転したことに気づいてからは、生命保険のしくみから丁寧に説明し保険見直しがいかに大切かを説いた。以前のように単に売上のために契約を勝ち取るセールスではなく、顧客に最適な保障を提供していかに顧客の役に立てられるかを最優先に考えた。

 日々、顧客と対話を重ねる中で“がん経験者”たちの悲痛な訴えが心に残った。

一度がんを経験した人は、新たに加入できる保険はほとんどなかった。相互扶助の精神から生まれた保険であるにもかかわらず、再発のリスクを抱えるがん患者を保障するがん保険がない。「ニーズがあるなら、がん経験者でもすぐに加入できる保険を作りたい」。笹本さんは動き出した。

まずは女性のがん経験者に希望を『女性特有がん経験者専用がん保険』

 大手保険会社でさえも難しいと思われていた“がん経験者のためのがん保険”は、どのように誕生したのだろうか。

「われわれの親会社はオンライン医療事業や臨床開発デジタルソリューション事業などを展開しており、最新の医療ビッグデータを扱ったり、解析も得意としています。その知見をベースにすれば、がん経験者でもすみやかに入れる保険を設計できるのではないかと考え、開発を進めました」

 それでも、一般的ながん保険のマーケットより、がん経験者のがん保険のマーケットは断然小さい。その小さなマーケットで、ビジネスとして実現するのは容易ではない。

「マーケットで考えれば、がん経験者を対象にしたがん保険はニッチです。大手では参入が難しいかもしれませんが、逆にだからこそ、わたしたちなら実現できると思いました。小さな市場でも、本当に必要なものを提供すれば、必要なだけの利益を出し、ビジネスとして成立できる。ただし、がんといっても様々あります。そこで、まずはがんを経験した女性たちに絞って保険を開発したのです」

 その理由を聞くと、がん患者との対話を重ねるなかで、特に女性たちの家族や周囲を思いやる気持ちの強さに心打たれたからだと笹本さん。

「家族や会社に迷惑かけていないだろうか」「子どもたちはご飯を食べただろうか」「寂しい思いをさせていないだろうか」…献身的な女性たちは、自分のがん治療の不安以外にも心配事をいくつも抱えていたという。そんな状況を保険で支えることが出来ないことに義憤を覚えたと話す。その思いから、ついに画期的ながん保険の商品化を果たした。それが『女性特有がん経験者専用がん保険』だ。この保険は乳がん、子宮がん、卵巣がんを経験した女性が、再発や新たながんに備えるために、がんの手術から6ヵ月が経過していること等の所定の条件を満たせば申込みできる。

「いままで保険加入を諦めていた人に、少しでも安心してもらえる保険だと思っています」

困った人を救うのが本来の目的、保険はどうあるべきか?

 前例のない新機軸の医療保険ということもあり、人知れず苦労したと笹本さんは涼やかに話す。

「本来は困った人を救う、相互扶助の精神から保険は生まれました。だから保険はどうあるべきかに立ち返って保険商品を考えただけなんです」

 がん経験者の不安を少しでも取り除こうと、誰も見向きしなかった課題に対して笹本さんは奮闘した。学生時代に医学部への進学を断念した笹本さんだが、人を助けたいという思いは保険マンとなっても変わらず、新しいがん保険という形でがん経験者を支援することになった。

 こうした支援の思いが保険となったことが共感を呼び、がん患者と日々向き合う医師たちからも注目を集めている。というのは、がん患者から再発や生活の不安を相談されたときに、従来の保険では加入が厳しく、返答に困ることがよくあったからだという。

「当社の保険のパンフレットを病院に置いてくださるところが増えました。それだけでもありがたい」と笹本さんはうれしそうだ。最後に、今後どういう保険に取り組むかについて聞いてみた。

「もちろん、いろいろと次の保険も考えています。ですが、今はこのがん経験者向け専用のがん保険を広く知ってもらい、必要な方にぜひ役立て欲しいと願っています。医療保障を見つめ直せば、どういう保険が求められているのかは見えてきます。そういうニーズに応える取り組みをして行こうと思っています」

 支援の必要な人へ、いかに手を差し伸べるのか。現在の「健康な人が万が一のための備え」として加入するだけの保険ではなく、「必要な時に、必要な保障を、必要としている人へ提供する」。笹本さんが考える保険には、小さなニーズにも応える保障と“仁愛”があるといえそうだ。

※出典「国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」最新がん統計」より

(取材・文/福崎剛 撮影/片山よしお)

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