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ORICON NEWS
「野菜の会社になる」日本にトマトを定着させたカゴメの転換期、植物性領域拡大で食の選択肢を増やす
トマトから野菜全体へ、幅を広げる商品戦略へと舵を切った
『カゴメ』という会社をどう成長させるか、真剣に考えた結果のビジョンで、企業として存続していくためには、トマトを中核として野菜にも事業領域を広げることで、“持続的な社会への貢献”と“企業価値の向上”を目指す考えだった。「健康寿命の延伸、農業振興と地方創生、持続可能な地球環境…これらを解決していくために、“野菜全体”へと幅を広げてさまざまな素材に注目していく方向性へと舵を切りました」。
『カゴメ』はそもそも先述の野菜ジュースだけではなく、業務用事業ではグリル野菜の冷凍品など幅広い野菜素材のラインナップを持っていた。そのノウハウを活かしつつ、プラントベースフードに着手する。植物性素材で作った動物性食材の代替品。2019年に業務用で展開を始めた。
代替品は我慢して食べるものでないからこそ、味を徹底的に追求
SDGs、多様性など社会的には大変素晴らしい取り組みではあるが、下世話なところに目を向けると、問題は“味”だ。肉好きは肉を食べたいし、卵好きは卵を食べたい。
「弊社としても、プラントベースフードは我慢して食べるものではないと考えております。 “自然をおいしく楽しく”がテーマの会社でもありますので、商品開発には大変こだわり、味を徹底的に追求している。『野菜の会社カゴメ』だから出来たことだとの自負を持てる商品を完成させていきました。そもそも当社には、“世界のミクニ”と呼ばれる、ホテル・ドゥ・ミクニのオーナーシェフ・三國清三さんにも認めてくださった野菜だけで旨味を取った『野菜だし』という独自素材もございまして、そうした技術をいかに応用できるかというところで研鑽できたのは大きかった」
その自信作の1つが今年3月に発売した『プラントベースオムライス』。プラントベースフードブランド「2foods」を手掛けるTWO社と同社がタッグを組んで開発した。卵を使わずに、卵の風味とふわとろの食感をどのように出すか、開発には1年がかかった。大豆ではボソボソしたり、口に残ってしまう感じがある。100以上の食材を試し、ニンジンと白インゲン豆を原料とした。卵だけど卵じゃない、これまでの常識を覆す食品になると商品名は『エバーエッグ』と名付けられた。
メリットデメリットを使い分けることで、日常の選択肢になりうる
「今年3月9日にEC限定で先行発売しましたが注文開始から4時間で目標金額を達成。1100人を超える方に購入いただけました。ただ認知的にはまだ不足と考えておりますので、今後の展開に力を入れていきたいと考えています」
もちろん環境面を考えての開発となるが、同社としては、これらが日常の食の選択肢の1つになれば良いと願っている。ある時は、健康面やダイエットを考えて、動物性ではなくプラントベースに。気にせず食べたい時はガッツリ肉や卵を食べれば良い。同社の『畑うまれのやさしいミルク』など植物性ミルクにしても、『カゴメ』の野菜ジュースの技術で隠し味に他野菜や果物もブレンドされる。 飲みやすく美味しいが、普通の牛乳で摂れるカルシウムを摂取できない側面もある。メリット、デメリットが双方あるからこそ、使い分けることができれば良いのだ。
健康&美味しいで消費者に日頃の感謝を伝えようとしている『カゴメ』。例えば同社は、就活生にも合否に関わらず、「エントリーシートを書くのは大変なはず」とその労に感謝をして商品を送ることでも有名だ。また紙パックの野菜飲料も飲み終わった後にしっかりたたむと「たたんでくれてありがとう」というメッセージが現れる。感謝…それが『カゴメ』の企業理念なのだと、同担当者は語る。
今も、同社の肝である農産物やそれを育てる農家への感謝を込めて、各地の農産物を使用した野菜飲料を販売、地域の農産物の認知を広げる手助けをしているほか、長野県富士見市に野菜のテーマパーク「カゴメ野菜生活ファーム富士見」を展開し、隣接する工場の見学ツアーや野菜の収穫体験など、野菜と触れ合う機会を提供している。日本には「いただきます」「ごちそうさま」と、命をくれた動植物、また作ってくれた人への“感謝”の気持ちを伝える文化がある。“食”への“感謝”。日頃忘れがちだが、今一度“感謝”の想いを強く意識することで、世界はさらに住みやすくなるようにも思える。
(文/衣輪晋一)