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日本の“豆腐離れ”とは裏腹に海外では食卓の定番 『TOFU BAR』ヒットから見るプラントベースフードの未来
食卓に豆腐を根付かせたパイオニアが“豆腐離れ”の現実に直面?
「スーパーマーケットの拡大に合わせ、豆腐もより広いエリアに安定して供給することが望まれていました。これに応えたのが、当時の朝日食品でした」(プラントフォワード事業部・池田未央さん/以下同)
以来、常に業界のパイオニアとして革新的な製品を開発してきたアサヒコ。今では定番となっている2連、3連タイプの豆腐だが、2連のものは同社が開発した。
「1999年、業界初の2連のカット豆腐『アサヒコ小さな絹2』を発売しました。核家族化が進む中で、小分けして使い切りのサイズにしたことが評価され、大ヒットとなりました」
多くの国で食されている豆腐だが、「生で豆腐を食べる食文化を持っているのは日本の特徴」だと池田さんは言う。「冷奴は大豆本来の味や香り、食感やのど越しを楽しんで召し上がる方が多いです。このように繊細な味覚で楽しむ国は他にないのではないでしょうか」
一方で、食の多様化が進み、日本の豆腐消費量は年々縮小。池田さんが言うように、豆腐と言えば冷奴、味噌汁ばかりという“メニューのマンネリ化”や、豆腐をよく食べる層(60代以上)の高齢化などがその要因だと言われている。この“日本人の豆腐離れ”は、大きな壁となって同社の前に立ちはだかった…。
食べ方も形態も異なるアメリカの豆腐に衝撃 商品開発の新たなる道筋を発見
「当時は、アメリカではプラントベースミート(植物から作られた代替肉)が話題になっていた頃。血が滴る本物のお肉のような植物肉の完成度に驚きましたが、それ以上に現地の人たちが日本人にも馴染み深い豆腐をグリルしてステーキのように食べたり、衣を付けてナゲットにして食べている姿を見て衝撃を受けました。彼らは“硬い豆腐”を肉の替わりに植物性のたんぱく源として食べていたのです」
現地のスーパーマーケットには日本のようにパック詰めされた豆腐が販売され、硬さのレベル(Firm, Extra Firmなど)とともにたんぱく質の量も明記されていた。彼らが豆腐をたんぱく源として利用していることの何よりの証明だった。
「惣菜売場でも調理積みの豆腐が肉や魚と一緒に量り売りで並んでいて、BBQやメイプルスリラチャ(甘辛い)という日本では到底出会えない味で親しまれていました。食べてみると弾力があり、味もしっかり付いているので、肉や魚と遜色ない食べ応えと満足感がありました。日本では豆腐のメインユーザーは60歳以上のシニアですが、アメリカでは若い年代から中高年まで、幅広く食べられていました」
※韓国を代表する大手食品企業で、アメリカや中国にも法人を設立。豆腐のシェアは世界No.1を誇っていた。
新たな食スタイルと“植物性たんぱく源”として『TOFFU BAR』はヒット
「日本の豆腐市場は年々縮小が続いていましたが、その一方で、健康志向を背景に、たんぱく質のニーズは拡大していました。そこでアメリカで見たように、豆腐を“植物性のたんぱく源”と定義し直すことで、健康意識の高い方や普段はあまり豆腐を食べない若者に提案できるのではないかと考えました」
早速、新商品の開発に着手し、アメリカのような“硬い豆腐”を作るために試行錯誤を重ねた。約2年の歳月を経て誕生した『TOFFU BAR』(TOFFU PROTEIN)は、肉のように弾力があり、一般的な絹ごし豆腐の約2.7倍のたんぱく質を含んでいた(日本食品標準成分表八訂)。スティック状で味も付いているため、いつでもどこでも片手で食べられるのが最大の特徴。これまでにない画期的な商品に、発売当初から大きな反響があった。
「“スティック状の豆腐”という斬新さが、(ユーザーに)大きな衝撃を与えたと思います。発売後は、若い方や忙しいビジネスパーソンに“ながら食べ”をしていただいたり、運動時のたんぱく質補給に召し上がっていただけました」
既存の豆腐購入者とは異なる新たなユーザーと食シーンを生み出し、発売から約1年で累計出荷数が1000万本を超えるヒットにつながった。
「ユーザーの皆様からは『豆腐だけど食べ応えがある』『腹持ちが良い』など、数多くの声をいただきました。普段サラダチキンを召し上がっている方々からは『たんぱく質の“選択肢”が増えた』というお話も。まさにアメリカで見た食べ方が国内でも再現できたと思います」
『TOFFU PROTEIN』シリーズのヒットの要因を尋ねると、「現在の食生活のニーズに合わせて、豆腐の価値を見直すことができたこと。豆腐を『日本の伝統食』というだけではなく、『植物性のたんぱく源』と捉え直すことで、消費者も消費シーンも広げることに成功したと思います」と話す池田さん。
商品開発においては、何よりも“アメリカ人の食べ方”が刺激になったそうで、「(アメリカは)豆腐に対する先入観がないので、焼いたり揚げたりと調理法もさまざま。味付けもぶっ飛んでいました。日本の中だけで商品開発をしていたら、冷奴や味噌汁の呪縛から逃れることは難しかったかもしれませんね」。
こうした『TOFFU PROTEIN』シリーズのヒットを受け、現在グループ各社ではその国に合わせた「TOFFU BAR」の開発を進めているという。
日本でも広がる“プラントベースフード”「今後も大豆たんぱく質を提供したい」
さらに、2050年には世界人口が100億人を超え、食肉の供給が追い付かなくなると言われている。「弊社は50年にわたり大豆を加工し、手頃で美味しく健康的なたんぱく質(豆腐・油揚げ)を提供してきたプロフェッショナルです。この技術を活かし、『TOFU BAR』や『TOFFU PROTEIN』シリーズの『豆腐のお肉』『大豆のお肉』を展開していきます」と今後の展開についても力強く話してくれた。
先日、新たな『TOFFU PROTEIN』シリーズとして『豆腐のお肉 餃子』『豆腐のお肉 焼売』を秋に発売することを発表。さらに14日からは、レストランチェーン・やよい軒で同社の大豆ミートを使用した『野菜炒め定食』『しょうが焼定食』『なす味噌と焼き魚の定食』が販売開始となっている。
2019年から大豆ミート商品の取り扱いを開始したイトーヨーカドーは、全店舗の精肉売り場で挽き肉タイプの大豆ミートに注力。スターバックスコーヒーでは、長年愛されている『シュガードーナツ』をプラントベースにリニューアルするなど、プラントベース(植物由来の食品)のラインナップを加えている。さらにイオン、セブン−イレブン・ジャパン、ローソン、モスバーガー、ロッテリアなど多くの企業が相次いで植物性食品を発売。プラントベースの定義は各社で異なるものの、食品業界全体として同フードへの注目度が高まっており、今後もさらなる成長が見込まれている。
「われわれは、すべての人に手頃で安心して美味しく食べられる大豆たんぱく質を提供し、たんぱく質格差による健康リスクを低減することが重要な使命だと考えています。今後も大豆、豆腐を原料とした革新的な製品開発をどんどん推し進めていきます」