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『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』も…サウジで活況を帯びる日本アニメ 宗教的規制の緩和で男女共に楽しむエンタメへの切望
日本アニメはニッチ層に好まれるサブカルチャーではなく、サウジアラビアの主要エンタメのひとつに
新型コロナウイルス感染拡大による2年間の中断期間を経て2回目の開催となった『ジェッダ・シーズン』は、2019年の第1回開催に約1500万人が来場したサウジアラビアの国民的イベント。「アニメビレッジ」には同国でも人気の高い『機動戦士ガンダム』『鬼滅の刃』『キャプテン翼』『攻殻機動隊 SAC 2045』『ゴジラ』『呪術廻戦』『進撃の巨人』『NARUTO』『パックマン』『HUNTER×HUNTER』『BLEACH』『僕のヒーローアカデミア』といった12コンテンツの体験型パビリオンが設置され、グッズを購入できる「アニメイトショップ」「サンリオショップ」も出店。ライブステージではAimerや藍井エイル、miwaら、アニメ主題歌を担当した歌手が連日パフォーマンスを披露した。
プロデュースを手掛けたエイベックス・アジアの代表取締役社長・高橋俊太氏は「サウジアラビアの資本力は極めて高く、日本はもとより世界でも類を見ない規模のアニメ体験イベントが実現した」と手応えを語っている。
「日本アニメは一部のニッチ層に好まれるサブカルチャーではなく、明らかにサウジアラビアの主要エンタテインメントのひとつになっています。来場者の年齢層にも偏りがなく、何より印象的だったのは多くの女性が楽しんでいたことでした。私は5年ほど前から仕事で現地を訪れていますが、当時は男女が一緒にエンタテインメントを楽しむ姿は見られませんでした。サウジアラビア社会は大きく変わりつつあります」(高橋氏)
日本文化の特徴とサウジアラビアの価値観は共通 エンタテインメントは可能性を秘めた分野のひとつ
「サウジアラビアの人々は、日本のアニメが大好きです。それはやはり豪華でエレガント、保守的、そして礼儀正しさといった日本文化の特徴が、サウジアラビアの価値観とも共通しているからだと思います」(セラ社/ライアン氏)
一方で文化・宗教的理由からエンタテインメントが厳格に制限されてきた国でもあった。風向きが変わったのは2016年、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が中心となった経済改革計画だ。長らく石油輸出に依存してきた同国だが、原油価格の変動や地球温暖化問題による産油国への逆風から、産業の多角化を打ち出す「ビジョン2030」を公表。そのなかのひとつにエンタテインメント産業の強化が掲げられている。
サルマン皇太子が運営するミスク財団ではアニメクリエイターの育成にも取り組んでいる。2021年にはミスク財団の子会社・マンガプロダクションと東映アニメーションが共同制作した長編アニメ映画『ジャーニー』が公開された。サルマン皇太子の改革路線によってエンタテインメントは急速に解禁され、映画館が続々と建設されている。さらに、2019年には同国初の日本のアニメイベント『サウジ・アニメエキスポ2019』が開催され、3日間で3万7800人が来場した。
「サウジアラビアではエンタテインメント産業は非常に未成熟なビジネスだからこそ、業界を成長させる可能性は大いにありました。2018年頃は、最低限しかエンタテインメントに接する機会がなく、楽しいことや発展性のあるアイデアを求めていたものの、十分な環境が整っていませんでした。エンタテインメントは、社会にとって非常に重要な要素であり、大きな可能性を秘めた分野のひとつです」(セラ社/ライアン氏)
1980年代より人気の素地があったとはいえ、それまで日本のアニメはテレビ画面を通してのみ楽しむ「閉じられたエンタテインメント」だった。そこへ「体験する」という刺激的な楽しみ方がもたらされ、エンタテインメントへの飢餓感からの解放も相まって、アニメ熱が一気に点火しているのがサウジアラビアの現状のようだ。
日本アニメの主要マーケットとなる可能性も…体験型のアニメビレッジへの反響は絶大
宗教はセンシティブなイシューであり、ビジネスをする上では深い理解と配慮が欠かせない。「アニメビレッジ」の成功は各コンテンツのIPホルダーが所在する日本の企業であるエイベックス・アジアと、現地の風習や価値観を知り尽くしたセラ社がパートナーシップを結んだことも大きな要因だったはずだ。
「アニメビレッジへの反響は大きく、さらなる大規模開催を望む声がサウジアラビア各地から届いています。『アニメを体験できるエンタメ空間』はビレッジからタウンに、さらにはシティへの発展もあるかもしれません。このたびの成功を受けて、今後もエイベックス・アジアとの共同プロジェクトを検討中です」(セラ社/ライアン氏)
サウジアラビアの若者はエンタテインメントを求めており、好奇心も消費意欲も旺盛だ。日本のアニメ業界にとって魅力的かつ新しいマーケットを開拓するためにも、現地企業とのビジネス交流がさらに活発化することに期待したい。
(文/児玉澄子)