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VOD参入で変わりつつあるアニメ制作現場 局ではなく“スタジオ主導”の作品量産がカギ「放送枠や製作委員会方式に限界も」
スタジオコロリド最新作のNetflix映画『雨を告げる漂流団地』
アニメスタジオ主導のオリジナル作品を量産することで、クリエイターが安心して働き続ける場となる
「『泣きたい私は猫をかぶる』は、配信1ヵ月で瞬く間に30の国・地域で「トップ10(映画)」になり話題となりました。スタジオコロリドさん独特の美しい2Dアニメーションや、日常とファンタジーが融合したストーリーに世界中の視聴者が魅了され、次回作を期待しています」(Netflixコンテンツ部門ディレクター・山野裕史さん)
スタジオコロリドは2018年公開の第1弾長編アニメーション映画『ペンギン・ハイウェイ』が、カナダの『ファンタジア国際映画祭』で最優秀アニメーション賞にあたる今敏賞(長編部門)を受賞した気鋭のアニメーション制作スタジオ。代表取締役を務める山本幸治さんはフジテレビの深夜アニメ枠・ノイタミナの初代編集長として『ハチミツとクローバー』を始めとする大ヒット原作から、『東のエデン』や『PSYCHO-PASS サイコパス』などの硬派なオリジナル作品を多数手掛けてきた経歴を持つ。
「スタジオコロリドは、主にスタジオ主導によるオリジナル作品を制作していく方針です。通常、オリジナル作品は原作があるアニメに比べてヒットのハードルが高く、制作スタジオにブランド力がないと資金調達の面でもなかなかトライできませんでした。とは言え、ブランド力は作品を重ねることで育っていくものです。Netflixさんとの複数作品契約は、スタジオコロリド自身が成長を目指す上で非常に意義深く感じています」(スタジオコロリド・山本さん)
テレビの放送枠が足かせとなり限界も…アニメスタジオは製作委員会を立てるメリットがあまりない
「テレビ局には放送枠、映画会社においては劇場という箱があり、それがアドバンテージとなっていました。しかしテレビ局にとっては、その放送枠が縛りにもなっていました。放送枠を守らないといけないということが足かせとなり、テレビ局は配信に対して保守的になっていた。枠の希少性を強みにする時代は、配信と同時に終わったのを感じていました」(山本さん)
また、これまでは複数企業からの出資で映像作品を作る製作委員会でリスクを分散をしながらアニメが制作されてきた。しかし、動画配信サービスが普及した現在では、アニメスタジオにとって製作委員会を立てるメリットがあまりないと言及する。
「アニメ制作には莫大なコストがかかるため、通常は複数の会社の共同出資による製作委員会が組成されます。そして制作会社は、製作委員会から提示された制作費でアニメ制作を受注します。しかし、クオリティを追求すればコストは跳ね上がり、とはいえ制作費の増額にはなかなか応じてもらえません。必然的に制作会社は赤字を抱え、経営を継続させるために、その後も“最初から赤字になることがわかっている案件”を受注せざるを得なくなっています。日本の制作スタジオの多くが、そうした自転車操業を繰り返しているのがアニメ現場の実態です」(山本さん)
こうした負の循環は制作会社が主導権を握れば断ち切ることができそうだが、それには資金調達の面でハードルがあった。柔軟な制作体制を持ち、クリエイターファーストを標榜するNetflixのアニメへの投資の強化は、「業界の構造が変わる最大の一手になるかもしれない」と山本氏は期待を寄せる。ではNetflixにとっては、莫大なコストのかかるアニメーションに投資する勝算はあるのか。
「Netflixにおいてアニメ作品は国内外で継続して人気が伸び続けているカテゴリーで、2021年の視聴時間は前年比20%増。国内では約9割、全世界では約半数の会員がアニメを視聴しています。月額料金をいただいているサービスとして魅力ある作品の充実は必須であり、アニメーションは注力しているジャンルの1つです。そして作品の安定的・継続的な提供のためには、クリエイター支援が欠かせません」(山野さん)
“余白”の多い海外にポテンシャルも…VODの普及でディズニーに並ぶ世界的なブランド成長も可能に
「長らく日本のアニメ業界に固定化していた構造は一朝一夕には変えられません。Netflixではこの拠点を長期的な取り組みに位置付け、クリエイターが安心して制作に集中していただくのはもちろん、これまで出会うことのできなかった世界の視聴者に日本発のアニメ作品を届けるところまで一貫して並走していきたいと考えています」(山野さん)
日本のアニメが世界で人気と言われて久しいが、山本氏によると「かつてはマーケットの8割は国内」。これまでアニメは主にテレビ放送や劇場で供給されており、海外への番組販売や配給は限られていた。
「僕はスタジオジブリに憧れてアニメ業界に入ったのですが、『ジブリの全盛期にVODがあったら…』と夢想することがあります。これまで世界的にヒットする作品はアニメも実写もほとんどが北米発でした。それはディズニーやピクサーに代表されるように、北米のスタジオが世界にリーチする影響力を握っていたから。ですがVODの時代になった今、チャンスは平等に開かれました。スタジオコロリドは、ディズニーやピクサーのような世界で支持されるアニメブランドを目指します」(山本さん)
先述の通り、国内のNetflix会員の9割、全世界では半数がアニメに触れている。これは今後も伸びる可能性はあるのだろうか。
「むしろ“余白”の多かった海外にポテンシャルを感じています。海外では『アニメは子ども向けのもの』という認識が根強く、Netflixでも『実写は観るけどアニメは観ない』という会員は今なおたくさんいます。しかし、日本のアニメには大人も満足できる豊かなストーリー性があり、国内の視聴者は実写とアニメを映像コンテンツとして垣根なく楽しんでいます。Netflixではこれまでアニメを視聴していない会員にも、過去の視聴履歴から好みに合いそうなアニメ作品をおすすめしています。ひとたび日本のアニメに触れ、その独特で新鮮な世界観のファンになる会員は、これからさらに世界で増えるでしょう」(山野さん)
映像コンテンツでは、近年は韓国ドラマが世界的に影響力を増している。しかし、かつては韓国ドラマも一部の熱狂的なファンに支えられていた。Netflixで韓国ドラマに初めて触れてハマった世界のユーザーは多かったはずだ。
同様に、日本のアニメもこれまで海外では一部のコア層の支持に留まっていたが、良質な作品が充実し、VODを通じて的確に届けることが実現できれば、世界の裾野をさらに広げる可能性は十分にある。その収益がクリエイターに適切に還元され、日本のアニメ文化が健全に発展していくことを願ってやまない。
(文/児玉澄子)
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