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時に主人公をも凌駕する人気に? 『呪術廻戦』五条悟の人気に見る“師匠キャラ”の汎用性

  • 東京・渋谷駅に掲出された、漫画『呪術廻戦』の広告 無量空処ポーズをとる、五条悟

    東京・渋谷駅に掲出された、漫画『呪術廻戦』の広告 無量空処ポーズをとる、五条悟

 もはやネクスト『鬼滅の刃』どころではなく、2021年の大本命コミックとなった『呪術廻戦』。中でも10代男女から「カッコいい」と憧れの的になっている人気ナンバーワンキャラが、都立呪術高専教師・五条悟だ。師匠的な立場ながら、基本的にはヘラヘラした軽薄なイケメン。しかし、その実力は「僕、最強だから」と自他ともに認められ、実は生徒想いでもある…といった師匠キャラとしても時々見かける設定。『ドラゴンボール』の亀仙人や『ガラスの仮面』の月影千草など、日本のエンタメ作品にみる“師匠キャラ”の変遷を振り返り、なぜ主人公以上に師匠キャラに惹かれてしまうのか、考察してみたい。

『呪術廻戦』五条悟は高身長、イケメン、最強…誰もが羨む要素を併せ持つ

 『呪術廻戦』は、都立呪術高専1年の虎杖悠二(いたどりゆうじ)を中心にクラスメイトやパンダ先輩らの上級生、教師・関係者などの呪術師と、呪いを具現化した呪霊と呪詛師たちとの戦いを描いたダークバトルファンタジー。中でも五条悟は呪術高専1年生の教師にして日本に4人しかいないという“特級術師”で、「無限」を現実に作り出す「無下限呪術(むかげんじゅじゅつ)」や「無量空処(むりょうくうしょ)」を習得し、いとも簡単に敵を倒す最強キャラ。身長190cm以上、容姿端麗、白髪碧眼、名門の家系などなど、敵キャラをして「逆に何を持ち合わせていないんだ」と言わしめるほど。特にその目は「六眼(りくがん)」と呼ばれる特殊機能を持ち、戦闘時以外は美しい瞳がサングラスや布で隠されているなど、いわば五条はイケメンキャラのアイコンを凝縮したような存在なのである。

 一方、性格はつかみどころがなく、周囲からは「尊敬できない」と言われながらも、虎杖が一時的に死亡した際には「上の連中全員殺してしまおうか?」と、誰よりも感情を露わにして情の深さもうかがわせる。そうした“ギャップ”も五条の最大の魅力となっている。

主人公ではないから、キャラクターの“ギャップ”をより魅力的に描ける

 このギャップは、過去の師匠×弟子関係においてもあらゆるパターンの“鉄板ネタ”として見られる。たとえば、普段はダメでも、いざというときは圧倒的な強さを発揮して主人公(弟子)を守るというパターンでは、『ドラゴンボール』の亀仙人(武天老師)がいる。ピチピチギャルが大好きで、『ぱふぱふをしてくれんか』といったセクハラ発言を乱発するが、天下一武道会では弟子の孫悟空に勝ったり、ピッコロ大魔王を封印するために命を落としたりする。『NARUTO』のカカシ先生にしても、「イチャイチャパラダイス」なるエロ小説が愛読書で、いつも気だるそうにしているが、いざというときは頼りになる。

 また、普段はやさしくて何をされても怒らない系であれば、『スラムダンク』の安西先生がおり、桜木花道にアゴを手でポヨンポヨンされても怒らないが、山王戦で指示を聞かない主人公には「あ? 聞こえんのか?」とキレたり、「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」といった名言を残したりする。子ども向けでも『忍たま乱太郎』の土井先生のように、生徒が悪さをすれば怒るが、人前では「いい子たちなんです」とかばったり、身寄りのないきり丸を自宅に住まわせたりする。あくまで“生徒ファースト”を崩さないのだ。

主人公をいたぶる厳しい師匠、“親子鷹”は現実でも数多くのドラマを生んでいる

 一方、とことん主人公をしごく(鍛える)けれども、実はそれは愛ゆえだった…系でいえば、『ガラスの仮面』の月影千草先生などは、何もそこまで…というほど鬼のように主人公・北島マヤをいたぶるが、弟子を思えばこそであった。『僕のヒーローアカデミア』の相澤消太にしても、「見込みがないものは切り捨てる」と言いながら、実はめちゃめちゃ生徒思いだったりする。

 厳しい師匠系では、実の親が師匠というパターンもよく見られる。有名な『巨人の星』の星一徹などは、「大リーグボール養成ギブス」と称するほぼ拷問のような器具を年端もゆかぬ飛雄馬(息子)に強制的に着用させ、気に食わないことがあるとちゃぶ台をひっくり返すなど、今であれば児童虐待で通報されるレベル。あげくの果ては、敵チームにコーチとして入団して打倒飛雄馬を目指すも、最後はマウンドで動けなくなった飛雄馬をおんぶして球場を去る…といったやさしさを見せるが、続編では、飛雄馬に「あんな父ちゃんは見たくない」と言われるほど丸くなっていたりする。このいわゆる“親子鷹”は現実のスポーツ界にも多く見られ、イチローやボクシングの井上尚弥も話題になった。

 さらには、師匠が“ラスボス”(敵)になるというパターンもあり、『シティハンター』の海原神のように弟子に対して最後の壁となるのだが、主人公に倒されることで正気に戻る的な展開も王道のひとつ。師匠の壁を乗り越えることによって主人公をさらに成長させるという、師匠としての最後の役割をまっとうするものだ。

 こうした恩師キャラの魅力として共通しているのは、普段はダメダメだったり、甘かったり、逆に厳しかったりするにせよ、いずれも“ギャップ”が描かれていること。そのギャップが師匠キャラに奥行きを与えるのだが、何だかんだ言っても主人公キャラたちからは尊敬されていることもミソだ。

師匠を超えて主人公が“本物”になる「師弟の絆」の奥深さ

 では、師匠・恩師キャラたちはなぜ、主人公を凌ぐほどまでに人気を得るのか。それはおそらく読者や視聴者といった“見る側”の実生活においても学校や部活、会社など、学んだり鍛錬する現実の場があり、そこにはやはり先生や先輩や上司といった尊敬できる(したい)“師匠”がいて、自分も人間として成長していかなければならないという実際の環境があるからだろう。作品の中の主人公に自分を投映し、師匠・恩師キャラとの関係性に感情移入しやすいのではないだろうか。

 そして、主人公を“本物にさせる”“強くさせる”究極の形は、「師匠・恩師の“死”を乗り越えて、さらに主人公が成長する」というパターン。『NARUTO』の自来也(師匠)とナルト(弟子)がそうだし、『ジョジョの奇妙な冒険』のツェペリ男爵(師匠)とジョナサン・ジョースター(弟子)もそうだ。時代を遡れば、名作『エースをねらえ!』があり、不治の病(骨髄性白血病)を抱えた宗像仁(師匠)が、ミーハーで平凡なテニス部員だった岡ひろみ(弟子)をなぜか抜擢、猛特訓。死の際には、「岡、エースをねらえ!」との遺言を残し、それがタイトルにもなるという壮大な大河ストーリーとなっている。

 マンガ・アニメ界における師弟愛(絆)とは、ときには家族愛や親子愛さえも超える“つながり”として受け止められる。そういう意味では、作品における師匠キャラは主人公の成長を支える“おいしいポジション”ともいえそうだ。

 最近では『鬼滅の刃』の竈門炭治郎の師匠・鱗滝左近次をはじめ、冨岡義勇らの柱も“尊敬できる師匠”的なリスペクトを込めて、たとえば「煉獄さん」といったように「さん」づけで小中学生の読者に呼ばれるという、どこか師匠的なキャラを差別化して認識する新潮流もある。『呪術廻戦』の五条悟も一見チャラいが、実はすごく強くてイケメンというところが、いわゆる“師匠萌え”の新たな師匠像を作った。これからも“師匠キャラ”は時代の流れによって姿を変えながら、エンタメ作品の中では普遍的なポジションとして人気を博していくだろう。

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