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時に主人公をも凌駕する人気に? 『呪術廻戦』五条悟の人気に見る“師匠キャラ”の汎用性
東京・渋谷駅に掲出された、漫画『呪術廻戦』の広告 無量空処ポーズをとる、五条悟
『呪術廻戦』五条悟は高身長、イケメン、最強…誰もが羨む要素を併せ持つ
一方、性格はつかみどころがなく、周囲からは「尊敬できない」と言われながらも、虎杖が一時的に死亡した際には「上の連中全員殺してしまおうか?」と、誰よりも感情を露わにして情の深さもうかがわせる。そうした“ギャップ”も五条の最大の魅力となっている。
主人公ではないから、キャラクターの“ギャップ”をより魅力的に描ける
また、普段はやさしくて何をされても怒らない系であれば、『スラムダンク』の安西先生がおり、桜木花道にアゴを手でポヨンポヨンされても怒らないが、山王戦で指示を聞かない主人公には「あ? 聞こえんのか?」とキレたり、「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」といった名言を残したりする。子ども向けでも『忍たま乱太郎』の土井先生のように、生徒が悪さをすれば怒るが、人前では「いい子たちなんです」とかばったり、身寄りのないきり丸を自宅に住まわせたりする。あくまで“生徒ファースト”を崩さないのだ。
主人公をいたぶる厳しい師匠、“親子鷹”は現実でも数多くのドラマを生んでいる
厳しい師匠系では、実の親が師匠というパターンもよく見られる。有名な『巨人の星』の星一徹などは、「大リーグボール養成ギブス」と称するほぼ拷問のような器具を年端もゆかぬ飛雄馬(息子)に強制的に着用させ、気に食わないことがあるとちゃぶ台をひっくり返すなど、今であれば児童虐待で通報されるレベル。あげくの果ては、敵チームにコーチとして入団して打倒飛雄馬を目指すも、最後はマウンドで動けなくなった飛雄馬をおんぶして球場を去る…といったやさしさを見せるが、続編では、飛雄馬に「あんな父ちゃんは見たくない」と言われるほど丸くなっていたりする。このいわゆる“親子鷹”は現実のスポーツ界にも多く見られ、イチローやボクシングの井上尚弥も話題になった。
さらには、師匠が“ラスボス”(敵)になるというパターンもあり、『シティハンター』の海原神のように弟子に対して最後の壁となるのだが、主人公に倒されることで正気に戻る的な展開も王道のひとつ。師匠の壁を乗り越えることによって主人公をさらに成長させるという、師匠としての最後の役割をまっとうするものだ。
こうした恩師キャラの魅力として共通しているのは、普段はダメダメだったり、甘かったり、逆に厳しかったりするにせよ、いずれも“ギャップ”が描かれていること。そのギャップが師匠キャラに奥行きを与えるのだが、何だかんだ言っても主人公キャラたちからは尊敬されていることもミソだ。
師匠を超えて主人公が“本物”になる「師弟の絆」の奥深さ
そして、主人公を“本物にさせる”“強くさせる”究極の形は、「師匠・恩師の“死”を乗り越えて、さらに主人公が成長する」というパターン。『NARUTO』の自来也(師匠)とナルト(弟子)がそうだし、『ジョジョの奇妙な冒険』のツェペリ男爵(師匠)とジョナサン・ジョースター(弟子)もそうだ。時代を遡れば、名作『エースをねらえ!』があり、不治の病(骨髄性白血病)を抱えた宗像仁(師匠)が、ミーハーで平凡なテニス部員だった岡ひろみ(弟子)をなぜか抜擢、猛特訓。死の際には、「岡、エースをねらえ!」との遺言を残し、それがタイトルにもなるという壮大な大河ストーリーとなっている。
マンガ・アニメ界における師弟愛(絆)とは、ときには家族愛や親子愛さえも超える“つながり”として受け止められる。そういう意味では、作品における師匠キャラは主人公の成長を支える“おいしいポジション”ともいえそうだ。
最近では『鬼滅の刃』の竈門炭治郎の師匠・鱗滝左近次をはじめ、冨岡義勇らの柱も“尊敬できる師匠”的なリスペクトを込めて、たとえば「煉獄さん」といったように「さん」づけで小中学生の読者に呼ばれるという、どこか師匠的なキャラを差別化して認識する新潮流もある。『呪術廻戦』の五条悟も一見チャラいが、実はすごく強くてイケメンというところが、いわゆる“師匠萌え”の新たな師匠像を作った。これからも“師匠キャラ”は時代の流れによって姿を変えながら、エンタメ作品の中では普遍的なポジションとして人気を博していくだろう。