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『鬼滅の刃』遊郭篇の議論にみる、子育て世代が抱える課題と家庭教育の責任 

  • 遊郭編が描かれている、漫画『鬼滅の刃』9〜11巻

    遊郭編が描かれている、漫画『鬼滅の刃』9〜11巻

 アニメ『鬼滅の刃』遊郭編の放映発表後に、瞬間風速的に拡大していった“炎上報道”。「女性差別ではないのか」「子どもに悪影響では」「どう説明すればいい」とネガティブな反応が世の流れに呼応するかたちで議論を呼び、本当に炎上していたのか検証される事態に発展した。これまでも子どもに悪影響と言われるコンテンツは存在したが、見せる・見せないの判断をいかにするべきか。エンタメコンテンツを楽しむために、子どもたちにどう伝えていくのか。心理・キャリアカウンセラーの井島由佳氏(大東文化大学)に話を聞いた。

SNSの匿名性が“没個性化”を助長「名乗らず批判をするのは、ただの“悪意”」

――今回の『鬼滅の刃』遊郭編を起点とした議論について、どのようにとらえていましたか?

「一部の意見をクローズアップして、ネットに上げてしまった。そこが一番の問題だったように思います。『女性差別ではないのか』『子どもに見せていいのか』といったトピックスは、いまの世間の流れからするとキャッチ―ですからね。そのような意見が本当にあるなら、歴史を曲げる気なのか、と問いたいくらいでした(笑)」

――井島さんは、漫画を心理学的に読み解く研究もされています。『鬼滅の刃』の遊郭編にあたる、9〜11巻ではどのようなことが主題になっているのでしょうか?

「遊郭編は、差別と貧困の話です。大正デモクラシーで、職業婦人が出てきたり、平塚雷鳥に代表されるように、女性の権利を拡張しようとする人がいました。でもそれは、女子大学を出た本当に一部の人たちで、どうにもならない人たちは確実にいた。遊郭は江戸時代に幕府が公認で作ったものです。お金のない人たちが稼ぐにあたって、環境的には大変なところだったけど、生き方としてそこで働くしかなかった人もいた。女性差別は事実としてあって、その時代を超えてこなければ、今がなかった。まずその歴史を知ろうよ…と思いました」

――『鬼滅の刃』は、時代背景がよく調べられていて当時の実情が描かれている側面もありますよね。

「フィクションな部分も、事実な部分もある。それを説明できないなら、正直見せなくてもいいんじゃないでしょうか(笑)。でも結局、今回のようにコンテンツに責任が擦り付けられる事態となってしまう。同時期に性差別やセクハラ発言が話題になっていたので、世の中の流れが関係している部分もあるとは思います。

 SNS時代に発言する人は、ほとんどが実名ではないですよね。匿名性は社会心理学で言う没個性化にもつながっていて、特定されないことで攻撃性が高まります。名乗って発言するなら、それは“意見”になりますが、名乗らずに批判をするのはただの“悪意”になってしまう可能性がある。インターネットがそれを助長していきましたよね」

子どもに何を与えるかの判断は、どう育ってきたかに起因する

――いま子育て世代が抱える問題はどんな部分にあると思いますか?

「核家族化して、子育てが閉鎖的になっていることです。小学校にあがるまでは、日中はお母さんと子どもしかいない家庭も多い。1対1だと、どうしても子ども1人に集中してしまうんですよね。親も離れて暮らしていたり、同じ年齢の子どもを持つ友達も周りに少なかったり、誰にも相談できない悩みを抱えている」

――閉鎖的な環境のなかで、親としての責任や判断能力を上げていくのは難しい側面もあるのでしょうか? 例えばひとつのコンテンツを見せる・見せないという判断も、明確な基準をもとに判断していれば、『どう説明すればいいのか』という意見は出てこないのではと感じたのですが…。

「その判断は、“自分がどう育ってきたか”に起因しています。もちろん、その環境に対して好意的に思っている人も、批判的に思っている人も、反骨精神がある人も、享受されすぎて何をしてもらったか分かっていない人もいます。様々な思いがあるとは思いますが、私が伝えているのは、産み育てることに“時代性”はないということです。親が死んだあとに、子どもが一人で生きていけるようにするためにはどうするか。それを軸に、子どもに必要なことを教えられるのは、家庭であり、親や養育者の役割が大きいものとなります。

 『鬼滅の刃』を子どもに“見せない”と判断した親御さんが、理由をあるSNSで、『鬼滅の深さを、今の時点で子どもはまだ理解できないと思う。しっかり理解できるようになってから見せてあげたい』とおっしゃっていました。子どもに見せるか見せないかという判断を親がするのであれば、そういう認識のもとにするのは素敵です。自分の子育ての主張があったうえで、見せるか見せないかを決断してほしいと思いましたね」

尊敬する人に“親”は選ばれない? 新たな世界観や生き方を知れるのが漫画の魅力

  • 大東文化大学社会学部助教・井島由佳氏

    大東文化大学社会学部助教・井島由佳氏

――井島さんは、漫画コンテンツから得られる影響をどのようにとらえていますか?

「1950年代頃から漫画は低俗だと言われ、文化として認められなかった時代がありました。でも今では、その芸術価値が認められている。価値を認めている人からすれば、小説も漫画も同じ。気持ちが浄化されたり、ストレス解消の手段となったりするし、新しい世界観・生き方・考え方を知れる術となるものでもある。

 100人以上の大学生に、『尊敬する人は?』というアンケートをとったことがありますが、そのなかで“親”と回答したのは5人程度でした(笑)。一番多くの割合を占めていたのが、漫画に登場するキャラクターだったんです。いまは、そういう時代。漫画の核となる部分から、得られるものはたくさんあります。ただし、全てではない。それは小説や映画などと一緒です」

――井島さんは著書『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方』(アスコム)で、『鬼滅の刃』から学べることをまとめています。あらためて、『鬼滅の刃』の魅力はどんなところにあると思いますか?

「登場人物たちに共通して見られるのが、レジリエンス(心理学における困難にぶつかっても乗り越える力)の高さ。強い自分になろうという時には、非常に参考になる。折れるようなことがあっても、辛いことがあっても前向きに乗り越えていく、再起する力がある。アニメでは家族愛や兄弟愛が強調されていますが、決してそこだけじゃない。主人公たちが行っているのは、他者貢献ですよね。誰かのために、世の中のためにという動き方」

――炭治郎たちのように、自己超越して生きるのは、なかなか大変な気もします(笑)。

「確かに、日々の暮らしをまっとうするだけで大変ですよね。炭治郎たちは、鬼殺隊という仕事でやっていますからね。一般企業に勤めている場合、会社で売り上げに貢献するとか、何らかの成績を上げるという考え方は自己実現的に思われがちですけど、その会社が正であれば、会社の繁栄は必ず世の中のために役立っているはず。そうつなげて、考えていく。今この製品が世に放たれたら、情報が発信されたら、どこかの誰かの役に立つ。そう思っていただくときが、ひと時でもあればよいのではないでしょうか」

『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方(アスコム)

 炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助が、どんどん強くなれるのはなぜか…。大切な人を守るため、敵を倒すため。思い通りにならないことがあっても、投げ出さずに立ち向かう。強い心のつくり方を『鬼滅の刃』から学ぼう!

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