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昭和から令和へ…『うる星やつら』P語る再アニメ化の真意「現在の常識では通用しない行動から力を受け取ってほしい」

 1980年代に初放送され、当時の若者カルチャーに多大な影響を与えた伝説的アニメ『うる星やつら』。人気漫画家・高橋留美子氏のデビュー作であり、初期のチーフディレクターを押井守氏らが務めて一躍ブレイクした本作は、現在に至るまでヒロイン・ラムの衣装や主題歌が何度もブームになっている名作であり問題作だ。そんな本作が36年ぶりに新作としてフジテレビ深夜アニメ枠ノイタミナで放送される。“なんでもあり”をやりつくした感もある昭和版を超えることは可能なのか? いま令和版を制作する意義をフジテレビの尾崎紀子チーフプロデューサーに聞いた。

新作「エピソード構成案と序盤シナリオ」に原作者・高橋留美子氏は即OK

 1981年の初放送当時、原作ファンやアニメファンから高い評価を受け、若者文化に大きな影響を与えるとともに、日本のポップカルチャー史にその名を刻んだ『うる星やつら』。そんな名作が36年の時を経て令和版新作としてテレビアニメ放送される裏には、どのような経緯があったのだろうか。

「配信プラットフォームが飛躍的に整い、世界中で日本発のアニメーションが楽しまれている現在、このレジェンド的存在の名作を最新の技術で再びアニメ化し、世界に発信してはどうだろうか、と2019年の春先に小学館さんからお話をいただきました。制作が順調に進行し、2022年前後に放送できることになれば、小学館さんの創立100周年とも重なり、フジテレビとしても力を入れて応援できます。そこがスタートとなり、高橋先生に企画プレゼン資料を提出するまで、時間をかけて準備を行ってきました」

 令和版は、原作から厳選したエピソードをもとに全4クールでアニメ化する。そのためには構成上の調整やエピソードのアレンジも必要になるため、事前に全体のエピソード構成案と序盤のシナリオを原作者の高橋氏に提出し、許諾を得て制作が進められた。そこには、高橋氏からのどのようなオーダーが入っているかが、ファンとしては気になるところだろう。それについて尾崎氏はこう答える。

「高橋先生は毎クール新作アニメをチェックされていて、いわゆる旬のアニメにも親しまれているそうです。提出した構成案とシナリオに先生からすぐにOKのお返事をいただけた際はとてもほっとしました。そして、『昔ファンだった人も、『うる星やつら』を知らない人も楽しめる作品になると思います』とコメントをいただけたことはとても励みになっています」

若者カルチャーにも影響を…“なんでもあり”の世界観でやりつくした前作に続く新作へのプレッシャー

 前作は、原作の人気に加えて斬新な内容や先鋭的な演出や作画が、アニメファンからも大きな注目を集め、斬新なドタバタ・ラブコメディで人気を得るとともに、押井守氏や脚本家・伊藤和典氏といった奇才を生むきっかにもなった。当時の若者のカルチャーにまで発展し、多大な影響を与えた作品であるだけに、再アニメ化へのハードルは高かったことだろう。

「漫画でも小説でも普遍性がある金字塔的な原作は、きっかけがあればこれまでにも何度も映像化されてきました。加えて、劇場やテレビ以外にも視聴環境が飛躍的に広がっている現在、そういった楽しみ方がライフスタイルの中でも広く受け入れられていると感じています。デビュー作以降の高橋先生の作品群の数多くが、すでにアニメ化され愛されているなか、まずは新作がそのファミリーの一員になれること自体が光栄なことに他なりません。そのなかで何を挑戦できるか。どのようにしたらより多くの方が楽しんでくれるのか。ベストを尽くしたいと思います」

 新作の監督はアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』を手がけた高橋秀弥氏と木村泰大氏が担当する。前作はドタバタ・ラブコメでありながら、学園恋愛だけでなくSF、ギャグ、シリアスなどある意味「なんでもあり」の世界観が、読者や視聴者を飽きさせない魅力になっていた。そんな偉大な前作の後を継ぐ2人のプレッシャーがとてつもなく大きいことは想像に難くない。尾崎氏は期待と現状をこう語る。

「2人ともそれぞれしっかりとしたビジョンをお持ちで、それでいて周囲を緊張させずにコミュニケーションを活性化させる軽やかな空気感があります。これはラブコメをやる上で大切なこと。シリーズ構成の柿原優子さんとのやりとりも軽妙で、そこはすごく内容に活かされていると思います。大きな作品だからと気負うタイプではなく、前作のインパクトをポジティブなものとして捉えた上で新作に力を注げる方です。実際は、アニメ演出家としていろいろな葛藤があったかもしれませんし、いまも真っ只中かもしれません。しかし、上手にコントロールされています」

 本作の重要な要素のひとつになるのが、主人公・諸星あたるとラムのキャラクター性だ。今回のキャラクターデザインは『おそ松さん』を手がけた浅野直之氏に白羽の矢が立った。尾崎氏はその起用理由を「浅野さんが描くラムちゃんが見てみたい! というのがメインスタッフ一同の直感的な気持ちでした」と明かす。

「もちろん高い技術力や、豊富なご経験、目に見える実績などの裏付けがある方で、浅野さんご自身もとても強い気持ちで臨んでくださっています。それぞれのキャラクターがちゃんと“降りてくる”まで何度も描き直されていて、細胞レベルでキャラクターを自分のものにするまで、時間と労力を惜しまない。まだ発表されていない数多くのキャラクターたちもポップでキュートでかっこよくて最高です」

時代背景が違えども、新作で昭和から令和に伝えたい楽観的なタフさと精神力

 前述のように“なんでもあり”だった前作は、テレビアニメという世界において、さまざまな面で“やりつくした”感もある。そうしたなか、新作はどのような作品になるのだろうか。『うる星やつら』を知らない世代に向けて、どのような工夫をしているのだろうか。

「原作がある場合、アニメで初めて触れる方に楽しんでいただけるような作品にすることは、とくにテレビアニメでは大切なこと。今回はせっかくの周年記念タイミングでもあるので、新作アニメから『うる星やつら』さらには「るーみっくわーるど」の魅力に触れていただけるきっかけになれば嬉しいです。そのような取り組みも、高橋先生とご相談しながら考えていけたらと思っています」

 70年代後半から80年代にかけて発表された原作は、令和のいまとは時代背景が全く異なる。主人公のあたるをはじめ、登場人物たちはいつの時代でも共感を得られるキャラクターではないかもしれない。しかし、キャラクター全員が超個性的で主役級であり、まったく他人に迎合しないにも関わらず、なぜかいつも一緒にいる。見方を変えれば、彼らは総じて物事や他人に対してオープンなのだ。それはいまの時代の若者たちの空気感とも通じるところがある。再アニメ化を通じて本作が伝えようとすることは、やはり時間を重ねても変わらない普遍的なところにあるのかもしれない。

「あくまでフィクションである本作中では、現実社会の常識が通用しない行動も次々に起こします。しかし、ラムとの出会いからして地球規模の“巻き込まれ案件”なのに、楽観的に受けとめるスタンス、度が過ぎて痛い目にあっても決してめげない呆れる程のタフさ、不条理をものともしない精神力が連鎖して、友引町全体の気運として高まっていきます。青春SFラブコメディのすべてが詰まっているので、まずはシンプルに楽しくご覧いただきたいのが一番です。その上で、宇宙人も地球人も関係なく、降りかかった災難も好機も全力で味わい尽くす彼らのエネルギーを受け取ってもらえたら嬉しいです」

※高橋秀弥氏の「高」ははしごだかが正式表記。

(文/武井保之)
◆アニメ『うる星やつら』オフィシャルサイト(外部サイト)

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