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「大好きな祖父の会社を残したい…」国内2社のみ国産つまようじメーカーが火災被害で全焼、会社再建にかける孫娘の想い

 つまようじの産地として知られる大阪府河内長野市の老舗つまようじメーカー・菊水産業が、昨年10月に火災に遭い、廃業の危機に陥った。現在は安価な中国製品が主流となり、国内メーカー(一般的な形の物)は2社のみ。クラウドファンディングで再建資金を募り再起をかける同社代表取締役の末延秋恵さんに、火災時の状況や国産つまようじの需要について聞いた。

藁焼きの飛び火で全焼、ただ燃えていくのを見てることしかできなかった

――事務所、作業場、倉庫が全焼したとのことですが、火災の原因や被害について教えてください。

末延秋恵さん 昨年10月9日の昼頃に火災が起きました。土曜なので会社は休みでしたが、雑務があったので昼から出勤し、私が火災を発見しました。そして、一緒にいた従業員が119番しました。原因は、周辺で行われていた田んぼの藁焼きの飛び火でした。火を付けたまま昼食を取りに家に帰ったそうで、その間に焼け移り延焼しました。幸いなことになんとか工場は焼け残りましたが、倉庫、事務所、作業場は全焼。前日まで作っていた商品も、資材もラベルも全部燃えてしまいました。

――火災を目の当たりにして、どのように感じましたか?

末延秋恵さん 「嘘やろ? なんで(畑に)誰もおらんの?」とパニックになりました。消火器があったのに頭をよぎらず、ホースを伸ばして水を必死でかけようとしました。それも無理だと判断し、事務所にあるPCや通帳、ハンコ、商品など、大切なものを運び出すために、3回ほど煙の中に飛び込みました。燃え広がる炎のなか、命の危険を感じ、消防車が到着するのを待ちました。

――「ただ燃えていくのを見てることしかできなかった…」とのことですが、消火活動中どのようなことを考えていましたか?

末延秋恵さん ただただ工場に燃え移らないことを、祈るしかなかったです。「明日からどうしよう?」「機械が燃えたらどうしよう?」と、そればかり考えていました。工場には、メンテナンスをしながら使用していた、今はもう手に入らない約60年前の機械もありました。

――現在の状況について教えてください。

末延秋恵さん 現在は火災のあった場所は更地になりました。事務所は、倉庫兼祖父の自宅だった場所に移しました。工場はなんとか延焼を免れ、機械は燃えずに無事でしたが、外壁が焦げ、放水の影響で内部まで水が入り込み、内装工事が必要となりました。機械は8台中2つ動くことが確認できましたが、電気が全て開通していない為、未確認の機械もあります。

――火災をきっかけに事業をたたむという選択を考えなかったのでしょうか?

末延秋恵さん 機械が燃えていたら、つまようじ製造事業をたたんでいたと思います。弊社は、国内の木製品を作る職人さんから仕入た商品や海外木製品の卸等もしていますので、製造はやめても、卸は継続していたかもしれません。

最盛期は25社あったメーカーも国内2社のみ、国内で流通する商品のほとんどが中国製

――会社再建に向けてクラウドファンディングを行いましたが、その状況について教えてください。

末延秋恵さん 11月1日から始めました。開始約9時間で目標額を達成し、最終的に1223万3607円が集まりました。当初、火災後の処理に追われ社内が混乱し、それどころではなかったのですが、Twitterのフォロワーさんより「支援したいのでクラウドファンディングを始めてほしい」といった声をいただきました。フォロワーさんだけでなく、さまざまな方に賛同していただき、支援を得ることができました。

――末延秋恵さんは、菊水産業の4代目ですが、いつ家業を継いだのでしょうか?

末延秋恵さん 弊社は、曾祖父が1960年に創業しました。私は2014年に入社し、昨年8月に叔父から代表取締役を引き継ぎました。

――現在、日本で2社のみとなった国産のつまようじメーカーですが、最盛期はどのくらいの企業が生産していたのでしょうか?

末延秋恵さん いわゆる溝のあるタイプの一般的なつまようじを製造している会社は国内で2社、地場で製造しているのは弊社のみとなりました。大阪府河内長野市は、明治期から農家の副業としてつまようじ作りが盛んで、国内シェア(市場占有率)は9割を超え、最盛期は25社ほどあったそうです。しかし、現在の国内生産はピーク時の1%以下、中国でも製造されるようになったことで、国内で流通する商品のほとんどが中国製です。

――そうした状況下で末延さんは、どのような想いで家業を継いだのでしょうか?

末延秋恵さん 私の両親は共に教師をしており共働きだった為、母方の稼業であった菊水産業に預けられることが多かったんです。黒文字楊枝や爪楊枝の仕事に触れ、幼少期を過ごしました。大好きな祖父が生涯作り続けていた国産つまようじを多くの人に届けたい。そして、大切な地場産業を絶やさない意味でも、製造を続けていたいと考え、家業を継ぐことを決めました。

安価な海外製の流入により一時は姿を消した純国産「黒文字楊枝」の復活に尽力

――菊水産業は国産材にこだわり、主に百貨店向けの高級ようじを手掛けていますが、どのような商品を扱っているのでしょうか?

末延秋恵さん 弊社では、一般的な形の溝のあるタイプの国産爪楊枝(北海道産白樺材使用)製造と、和菓子を食べる際に使用する「黒文字楊枝」を製造しています。最後の先付けは、祖父が使っていた制作台と切り出しナイフで、私が1本ずつ手作業で制作しています。また、主にキッチン用品の取扱いや和菓子屋や料亭、百貨店などのOEM商品(他社ブランドの製品製造)の卸しを行っています。そのほか、海外産の商品の仕入れも行っています。

――近年はデンタルフロスなども普及し、つまようじ需要が減ったようにも感じます。自然資源に対して過剰に反応する方もいるなか、現代における「つまようじ」の必要性について、どのように考えていますか?

末延秋恵さん 昔も今もつまようじの役割に変わりはありません。しかし近年は、国産の安心感や「脱プラ」の観点からも需要が高まっているように感じます。「黒文字楊枝」は、和菓子でのおもてなしの席や、茶道には欠かせない伝統あるものにもかかわらず、日本産がほとんど流通していません。安価な海外製の流入により、国産のクロモジ原木を使用した国内加工の「黒文字楊枝(9センチの黒文字菓子楊枝)」は、百貨店や小売店では見なくなりました。

――30年余り市場から姿を消した純国産「黒文字楊枝」の復活に、末延さんは尽力されました。

末延秋恵さん 先々代の祖父・場工耕司は、黒文字のお箸だけは国産にこだわり手作業で製作していましたが、亡くなってからは国産黒文字菓子箸は廃番になりました。しかし近年は、お客さまから国産のクロモジ原木を使用した純国産の「黒文字楊枝」に対する要望が、多く寄せられていました。そこで国産復活を願い亡くなった祖父の想いを受け継ぎ、祖父が作った40年前の機械を元に、2014年に改めて開発しました。現在は少しずつではありますが、京都を始めフランスなど、海外のお客さまからもオーダーをいただくようになりました。

――今後について、どのように考えていますか?

末延秋恵さん 工場の改装工事も控えているので、今後について詳しくは決まっていません。現在は改装工事までにできるだけ製造をしていますが、工事が始まればまた製造がストップしてしまいます。さらに更地の場所をどうするのか? 地主さんとの話合いや、火災に関する当事者間での話合いも途中なので、進めていかなければなりません。こうしてたくさんの方の応援や支援を受け事業を継続させると決意したので、まずは1日でも早く会社を正常稼働に戻すことが大切だと思っています。
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