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ORICON NEWS
演劇人=夢追い人である必要はない 戯曲を“趣味”として楽しめる「読み合わせカフェ」の意義とは?
演劇は決して高尚ではない 皆が気軽に楽しめる“カルチャー化”が目標
劇場やイベントブースでやることも考えた。だがそれでは「訪れる人が“客”感覚になって“何を見せてくれるのか”というスタンスになってしまう。そうではなく普段お芝居をしていない人でも参加できる空間を作りたい。そんな思いで、普段貸し出しも行っているカフェに白羽の矢を立てました。普段、お客さんたちが気軽に過ごしている日常の空気を、このアイデアに取り込みたいと考えたからです」
星さんのイメージは舞台やコンサートのような場所ではなく、客全員が歌う(合唱)ことを想定した「歌声喫茶」や、客が思い思いの歌を歌うカラオケスナック。周知の通りカラオケは、歌のプロではなく、単に歌が好きな人や好きな歌を歌いたい一般の人が訪れる。その演劇版といえば分かりやすいか。
「演劇に、ハードルが高いイメージがあることに違和感を持っていました。例えば趣味でサッカーやフットサルをやっているという話を聞いたとき、その人が本気でJリーグで活躍したい夢を持っているとは誰も考えません。カラオケが好きと聞いて、その人が本気でプロの歌手を目指しているとはあまり考えないでしょう。ですが演劇となると、“夢追い人”“高尚”のように捉えられがち。“趣味で演劇をやっている”が、フットサルやカラオケと同レベルのハードルに感じられるような、“休日に趣味で演劇をやっているんだ”と言えてしまえるような、そんな空間が作りたかったのです」
カラオケのような料金システム 初心者も周囲の影響でついお芝居を
「システムはカラオケボックスと同じ時間性。90分1,000円で、以降30分の延長ごとに500円。ソフトドリンクが1杯ついていて、あとはドリンク代が500円ほど。約20名の脚本家さんからご協力を頂いており、提供してもらっている脚本は読み放題。役者スタッフも3、4人常駐し、そのスタッフと“デュエット”のように読み合わせも。1回500円の提供です」
客には来店時にヒアリングシートを渡す。そのアンケートに従って、星さんら従業員が客同士のマッチングを行うことも。新たな趣味仲間との出会いがあるほか、未経験で初めて脚本を読むような人たちも、周囲がお芝居を始めるのを見て「やってみようかな」とお芝居を始める。最初は声が小さくても、周囲に引っ張られて自然と声が出るようになるという。
「リピーターの方も多いです。初芝居の方が来る度に上達していき、さらに楽しんでいるのを見るのは私たちにとっても幸せなこと。なかには、同じ脚本をさまざまな人と読み合わせし、その度に“もっとこうした方がいいかも”“こういう表現もあるかも”と演じ方を変える、もはや本気の“稽古”になる方もいらっしゃいます(笑)。また、私も“デュエット”することがあるのですが、想像力が豊かな方だと私も役に入り込み…。以前、そんなお客さんと“男女のすれ違い”を描いた物語を読み合わせました。ついつい本当に涙がこぼれ落ちてしまいました」
カラオケスナックで自分が気に入った歌を皆がそれぞれ歌うような、ときにデュエットして盛り上がるような、自分の身に置き換えて共感できるような、そんなエンタメ空間が「読み合わせカフェ」には広がっている。
小劇場文化の現在地「誰でも参加できるが故に、“養分”を吸い取られている」
星さんは現在の小劇場事情に危惧も抱いている。昨今はアイドルや声優の卵が小劇場を経験しようと訪れることが増えた。また2.5次元俳優のブームにより、小劇場の楽しみ方にも幅が広がった。「誰でも参加できる敷居の低さが小劇場の魅力ですが、さまざまなジャンルの方が参入してきている結果、ただただ寄生され、小劇場が“消費”されるだけの現状が。発展のために枝葉を広げることは必要ですが、その枝葉だけが繁栄しすぎて幹の養分が吸い取られてしまうのは考えものです。参入してくださるジャンルの方と上手く共存共栄し、私たち小劇場界隈ももっと強い意志や目標を持つ必要があると考えます」
小劇場の文化や長所を伝えるための草の根運動の一つが「読み合わせカフェ」。収益も赤字はなく、継続に問題はなさそう。星さんは、将来、実店舗を構えてこの“文化”を大々的に展開すべく活動を続けている。
「読み合わせカフェが演劇を支えられる大きなコンテンツになり、お芝居がカラオケのように認知されるジャンルになればという夢を持っています。新たな演劇の取り組み方として充分に可能性も感じています」。お店にはただ様子を観察に来る客も多い。読み合わせも気が向けばでいい。気軽に“非日常”を味わえるこの空間に、あなたも一度足を運んでみてはどうだろうか。
(取材・文/衣輪晋一)