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(更新: ORICON NEWS

作詞家・富野由悠季が語る“アニソン”の価値基準の変化

高いハードルを突破しなければ「作詞した」とか「曲を作った」と言えない

――当時のアニメ楽曲は、必殺技とタイトル名コールというお決まりが多い中で、富野監督は主人公の内面描写、楽曲に作品の意図を込めるということを作詞でやられたかと思います。

【富野由悠季】それも大事なんだけど、実はそれだけでは井上大輔のようなポジションにいる人は、曲を書くというところまでいかなかったのではないかと思います。つまり、アニメという枠を外してヒットする曲を作りたかったんです。それがプロの仕事というものですから。

――『ガンダム』という“人気アニメの枠”がなくても、単体でヒットする楽曲をおふたりは目指していたわけですね。

【富野由悠季】ただ、結局は『ガンダム』という名前に閉じ込められてしまうあたり、僕の方の詞の出し方に問題がありました。劇伴としてはいいんだけど、アニメ好き以外の、いわゆる一般的に大ヒットする曲にならなかったので、「ごめんなさい」と言うしかないんです。

――とはいえ、「哀戦士」「めぐりあい」は当時のヒットチャートで上位にランクインするヒット作となりました。

【富野由悠季】そうではなくて、ヒットというのは「昭和のヒット曲100選」に入ってなければいけないんです。確かに、キャリアが長かったから作詞家としてもそれなりに見えます。けれど、『エヴァンゲリオン』や『宇宙戦艦ヤマト』のような楽曲のヒットに比べて、『ガンダム』はその規模のヒットが出ていない、と言われれば「御説ごもっとも」だとなるわけです。職業人である以上、高いハードルを突破しなければ、作詞したとか曲を作ったとか言えません。

――おっしゃる通り、『エヴァ』のOP曲「残酷な天使のテーゼ」をはじめ、アニメソングには一般層にも認知されたヒット曲が数多くあります。しかし、劇場版ガンダムにおける「哀戦士」「めぐりあい」「ビギニング」、そして『ターンエーガンダム』の「月の繭」など、“シーンを見れば誰もが頭に思い浮かべる楽曲”を生み出した点において、井荻麟作詞による楽曲のインパクトは絶大です。

【富野由悠季】その価値論を評価していただけるの嬉しいし、まず基本はそこを目指して仕事をしているからいいんです。いいんですけど、曲として単独でヒットさせるべきだと思っています。「ユーミンに負けているよね」では基準にならない。だから、「作詞をやってました」とは言いづらい。「いやいや、そこと比べたってしょうがないでしょ」という声もあると思います。でもそうじゃないんです。自分が求めるアベレージを高くしておかないと、「結局半分もいきませんでした」となった時に全然ダメなわけですからね。

――これまで富野監督と言えば、時代時代のヒット作に対して勝負を挑むような発言をされてきました。時にはそれが宮崎駿監督作品であったり、『エヴァンゲリオン』だったり。それはつまり、時代のヒット作を「仮想敵」とし、その上を狙うことで自身の作品のアベレージを上げようとしていたのでしょうか。

【富野由悠季】はじめから「この程度でいいだろう」という目標では、その上に行くことなんて到底無理だということなんです。だから、いまだにヒット曲を出せなかったとか、作詞家として阿久悠さんに負けたというのは、分かりやすい基準だと思います。そうした意識を持っていないと、周りに「売れましたね」と言われて悦に入るだけなんです。つまり「俺、井荻麟なんだよね、何で知らないの」っていう話になってしまう。僕は、それだけは口が曲がっても言いたくないですね。

アニソンが市民権を得るきっかけとなった『宇宙戦艦ヤマト』の功績

――80曲以上もの作詞をされてきた中で、思い入れの強い曲は何でしょうか。

【富野由悠季】こうしていろんな曲をたくさん作ってきたことを振り返ってみると、「作詞家です」と名乗ってもいいのかもしれません。ただ先ほど言ったように、作り手は欲が深いものです。だから「全部好きよね」って言いたい。その中で特段にというのは、一般論的に言えば、やはりいちばん聞かれているものが良いのではないか、としか言えません。というのも、この中で僕が好きな曲のタイトルを迂闊に言ったら最後、「あ、そうなのか」と受け手は感じてしまう。なので、一番穏当な回答として「翔べ!ガンダム」と言っておきます(笑)。

――では、アニメ史を振り返った時、アニソンが市民権を得るという過程においてエポックとなった作品は何だったのでしょうか。

【富野由悠季】悔しいけど『(宇宙戦艦)ヤマト』でしょうね。その次は、宮崎アニメの楽曲がそれなりの順位にいっていると思います。ただ、個人の好みに関係なく、アニメに付随した曲がヒットチャートで浮上してくることによって、ようやく「アニメソング」というものが市民権を得てきたと感じました。その中の一現象として、『ガンダム』の楽曲が当時のヒットチャートの上位に入ってくれたというのは、ヤレヤレという想いです。つまり、嬉しいというよりも、ようやく一息つけた。その点、芸能のジャンルのひとつとして認められるようになった点は良かったと思っています。

取材協力:サンライズ

(C)手塚プロダクション・東北新社 (C)東北新社(C)サンライズ (C)創通・サンライズ (C)サンライズ・バンダイビジュアル・バンダイチャンネル(C)SUNRISE・BV・WOWOW

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◆「富野由悠季の世界」展
6月22日(土)より、福岡市美術館ほか5都市にて実施!
富野監督のオープニングイベント参加決定(※日程は未定)

【開催場所・会期情報】

◇第1会場・福岡市美術館
会期:2019年6月22日(土)〜9月1日(日)

◇第2会場・兵庫県立美術館
会期:2019年10月12日(土)〜12月22日(日)

◇第3会場・島根県立石見美術館
会期:2020年1月10日(金)〜3月23日(月)

◇第4会場・青森県立美術館
会期:2020年4月〜6月(予定)

◇第5会場・富山会場(予定)
会期:2020年7月〜9月

◇第6会場・静岡県立美術館(予定)
会期:2020年9月〜11月

詳細は公式HPにて→http://www.tomino-exhibition.com

【企画協力】神戸新聞社
  • 『The IDEON(伝説巨神イデオン)接触篇・発動篇』 イメージイラスト(富野由悠季)(C)サンライズ

    『The IDEON(伝説巨神イデオン)接触篇・発動篇』 イメージイラスト(富野由悠季)(C)サンライズ

  • 「宇宙船」(富野由悠季、1954年)

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  • 『機動戦士ガンダム』(C)創通・サンライズ

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