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(更新: ORICON NEWS

“マイルド化する絵本”への警鐘 過激表現から“逃げない”編集者の想いとは?

  • 【いまむかしえほん】ももたろう(ぶん:広松由希子 え:伊藤秀男/岩崎書店)

    【いまむかしえほん】ももたろう(ぶん:広松由希子 え:伊藤秀男/岩崎書店)

 昨今、絵本業界では、過激な表現をやわらかにした「マイルド絵本」が多くなっているという。おばあさんが狸に殺されない『かちかちやま』。最後は鬼と仲良くなる『ももたろう』。悪さをしたオオカミが子ブタから報復されない『三匹の子ブタ』など、最後は仲良く大団円という誰も傷つかない内容がそれだ。一方で、マイルド化への“アンチテーゼ”かのように、昔ながらの絵本表現を重視している出版社もある。そこで、過激な表現をあえて残す絵本編集者に、その“編集意図”と“子どもたちへの想い”を聞いた。

「命がけの生活」があることを絵本から学んでほしい

  • 【いまむかしえほん】かちかち山(ぶん:広松由希子 え:あべ弘士/岩崎書店)

    【いまむかしえほん】かちかち山(ぶん:広松由希子 え:あべ弘士/岩崎書店)

 岩崎書店が出版する昔話「いまむかしえほん」シリーズ『かちかち山』(文:広松由希子 絵:あべ弘士)では、狸に殺されて婆汁にされるおばあさん、その狸に仕返しをするおじいさんといった、昔と変わらない『かちかちやま』が描かれている。その点について岩崎書店絵本編集・河本祐里さんに話を聞くと「昔ながらというよりは再話を収録した原典に準じています。決して殺伐としたシーンを際立たせたいわけではなく、『かちかち山』ではこのシーンがキモであり、“狸と人との命がけの戦い”を表現するうえで絶対にハズせない箇所なんです」と説明する。狸がおばあさんを殺す場面だけを切り取れば確かに残酷だが、読み進めれば、おじいさんも狸を殺して狸汁にしようとしている。つまり、おじいさんも貧しい村で生きるために必死、狸も生きるために必死、こうした“命がけの生活”がある、ということを子どもたちに知ってもらいたいのだと河本さんは話す。

 昔から英米で親しまれている伝承童謡『マザー・グース』にも残酷な話はたくさんあるが、東西を問わず昔話に過激な表現が見られるのは、社会の厳しさ、人間関係の複雑さ、善悪、または社会への風刺であり、そうした“教訓”を子どもに伝えるため。河本さんは「人生の厳しさを伝えるキモとなる箇所は、ちゃんと残すようにしている」と絵本制作の心構えを強調する。

パパの“新しいカノジョ”と子どもの関係を絵本で表現

  • 【大人気ベストセラー】はれときどきぶた(作・絵:矢玉四郎/岩崎書店)

    【大人気ベストセラー】はれときどきぶた(作・絵:矢玉四郎/岩崎書店)

  • 【新しい“家族の形”を描く】パパのカノジョは(作:ジャニス・レヴィ 訳:MON 絵:クリス・モンロー/岩崎書店)

    【新しい“家族の形”を描く】パパのカノジョは(作:ジャニス・レヴィ 訳:MON 絵:クリス・モンロー/岩崎書店)

 『ももたろう』や『かさじぞう』などおなじみの日本昔話を出版する一方で、岩崎書店では“表現”において常に新しいことにチャレンジしてきたという。1980年に出版された『はれときどきぶた』(作・絵:矢玉四郎)も、『これは児童文学ではない』と賛否両論があったようだ。当時、学校の先生も親も漫画を否定していた時代であり、そんな中で「漫画家による児童書」を出すことはまさに挑戦だった。そんな、“新しい表現に対して寛容”な社風の元、河本さんは翻訳絵本『パパのカノジョは』(作:ジャニス・レヴィ 絵:クリス・モンロー)に取り組む。ちなみに、欧米の絵本は日本よりも歴史があり、出版点数も日本の比ではないとのこと。その中で厳選されて日本に入ってくるだけに、非常にレベルの高い絵本が多いのだとか。

 「この絵本は、パパの“新しいカノジョ”について娘があれこれ考える話です。パパに新しいカノジョが出来て、最初は戸惑いながらも徐々にカノジョとの関係が変わっていく…子どもは親や大人に何を望んでいるのか、どんな視点で見ているのか、家族の新しい形が描かれています」と河本さん。しかし、翻訳出版したのは15年前であり、タイトル含め社内でも意見が分かれたとのこと。「親の離婚、新しいカノジョ、そうした家族の問題を超えて人間としての心の繋がりを描いたとても良い内容なんです。でもタイトルだけを見て『なぜ不倫の本を出すのか』とか様々な反応がありました」と述懐する。

 厚生労働省によると、平成27年の婚姻件数63万5000組に対して離婚件数は22万5000組。約3組に1組の割合で離婚している時代の世相もあり、昨今は“離婚の話”に対して社会も寛容だが、15年前は相当風当たりが強かったとのこと。しかし、現在は両親ともに男性であったり養子の話とか、さらに新しい家族の形を描いた絵本も欧米で出てきており、いずれ日本でも出版されていくだろうと話す。

“マイルド化”への「アンチテーゼ」となる絵本で勝負

  • 【怪談えほん】いるのいないの(作:京極夏彦 絵:町田尚子 編:東雅夫/岩崎書店)

    【怪談えほん】いるのいないの(作:京極夏彦 絵:町田尚子 編:東雅夫/岩崎書店)

 岩崎書店では「怪談えほん」と題したシリーズも出版。「本シリーズは、宮部みゆきさんや京極夏彦さんといった一般書で活躍されている作家や怪談のプロフェッショナルが創作した“とにかく怖い”絵本です」と、本企画の編集担当・堀内日出登巳さんは説明する。

 では、なぜ“怪談えほん”が新しい試みなのか。それは「“怖い話”は絵本の中でタブー視されつつあるため」だと話す。70〜80年代は怖い絵本も出版されていたのだが、最近はどこの出版社も“及び腰”だという。それは「大人の方が引いてしまったのが要因のひとつ。親御さんから『ウチの子が泣いていた』『絵本を読んで怖がっていた』とクレームがきた場合、出版社は困ってしまいます。そもそも恐怖の感覚は誰にでもある大切な感情のはずなのに、それをネガティブなものとして封印しようとしている大人も一部にはいる」と堀内さんは指摘する。また、「オバケの本を書こうと思っている」と某出版社に企画を持ち込んだ作家さんが「オバケは子どもが怖がるからダメです」と断れることがあったようだ。その話を聞いた堀内さんは「それはちょっとマズイことになっているのではないか?」と危機感を覚えたという。本来、“怖い話”は子どもたちの大好物なのに、大人の思惑で“読む機会”が失われている。この状況をなんとかしたいという想いから「怪談えほん」シリーズに取り組んだとのこと。

 「クリエイエィブな表現は、手法も増えて一見間口が広がっているように見えますが、実は周りに配慮することで表現が狭まっている部分もある。なので、もう一度表現の多様性を広げていくことが重要だと考えます。そのために変わらなきゃいけないのは、自分も含めた大人たちの意識。今って“同調圧力”みたいなものがあって、人と違うことをすると周りから変に見られてしまう。だから、多様性を描く絵本を通じて、子どもたちにそうした“同調圧力”を打破してほしいと思っています」(堀内さん)

“お酒の絵本”でタブー破り!? 守りたいのは子どもの“読む機会”

【絵本のタブーに挑戦】かんぱい よっぱらい(作・絵:はらぺこめがね/岩崎書店)

【絵本のタブーに挑戦】かんぱい よっぱらい(作・絵:はらぺこめがね/岩崎書店)

 さらに、堀内さんは“絵本のタブー”ともいえる「お酒」をテーマにした絵本『かんぱい よっぱらい』(作・絵:はらぺこめがね)を企画。「子どもにお酒の絵本なんて!」という批判の声も出るのではないか?と堀内さんに聞くと「そうした批判も受けて立ちますし、ドンとこいのつもりです!」と想いを話してくれた。

 本書の意図について聞くと「制作にあたり大人と子どものお酒事情を調べていたところ、お酒を飲んで酔っ払うことに対して、後ろめたい気持ちを持っているお母さんが多いことを知りました。たまの女子会でも、子どもを預けてきた自分に後ろめたさを感じたり、酔っ払う自分への嫌悪感があったり…それもある種の“同調圧力”。そうしたネガティブな気持ちを持ってお酒を飲むのは親御さんにとってつらいのでは、と考えたのがのきっかけ」と話す。もちろん適切な量であることが大前提だが、お酒を飲む親御さんの“後ろめたさ”を少しでも和らげられたら、という意図が本書にはあるようだ。

 もともと口伝されてきた“昔話”は、地域によっても内容が全く異なるという。「さまざまなストーリーがあって当然なのだから、大人の勝手な配慮で昔話の持つ多様性を狭めたくない」と河本さん。昨今は、多彩な切り口やギミックで人気の“絵本”。しかし、子どもへの過度な配慮から表現しづらい環境もあるようだ。「時代の変化はあっても子どもの本質は変わりません。大人の都合で子どもたちから“読む機会”を奪わないようにしたいですね」(堀内さん)

怪談えほんの文章募集!大賞受賞作はプロ画家の絵をつけて出版

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