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綾瀬はるか、宇多田ヒカル、高橋留美子らの“推し本”に反響、SNS時代に再評価された“帯推薦” 出版社の狙い
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>綾瀬はるかに宇多田、又吉らも…豪華著名人の”推し本”は…?
読書体験が反映された真の“推しコメント”を集めた大型フェア
企画の狙いについて、同社営業部の鈴木愛加さんは、80周年だからこそ普段とは違う大規模なフェアを開催したいと考えたという。「70周年は復刊企画でしたが、この10年で“帯推薦”の力が格段に強まった実感があります。熱量のある推薦文は読者の心をつかみ、売上に確かな効果をもたらします。そこで今回は80名の著名人にご協力いただき名作を紹介することにしました」。
ハヤカワ文庫推しの著名人の熱意は思わぬエピソードを生んだ。青山剛昌氏は『シャーロック・ホームズの冒険〔新版〕』を推薦するにあたり、自ら申し出て帯に“ホームズ風自画像”の直筆イラストを添えた。同じように、今井哲也氏も『裏世界ピクニック』を推薦する際に、自らイラストを描いた。「『シャーロック・ホームズの冒険』は“名探偵コナン”ファンにとっても垂涎の帯になりました。青山先生も今井先生も単なる一読者としてではなく、クリエイターとしての敬意と愛情を表現したかったのだと思います」(書籍編集部副部長・清水直樹さん)
つまり、今回のフェアは、推薦者自身の思いや読書体験が反映された“推しコメント”が“帯推薦”となることで書籍の持つ魅力を引き立て、多くの反響につながった。
フェアきっかけで「#私の本棚の早川書房ベスト約8冊」の動きも
特に象徴的なのは、「#私の本棚の早川書房ベスト約8冊」という自主的なハッシュタグ運動だ。公式とは無関係に、一般読者が自宅の本棚を撮影して投稿し合うことで、ハヤカワ文庫愛が可視化されるムーブメントとなった。
皆さまの #私の本棚の早川書房ベスト約8冊 を、社員一同ニコニコ顔で拝見させていただいております!
— 早川書房公式 (@Hayakawashobo) August 19, 2025
ぜひ #私の本棚の早川書房ベスト約8冊 でポストしていただけるとうれしいです!
また、玉井さんは「以前から“この人の帯は売れる”という実感はあったが、現在はSNSでの一般読者のコメントの方が影響力を持つ場合もある。正直な言葉が共感を呼び、人を動かしている」と指摘する。
購入動機は「誰が推すか」だけでなく、「どれだけ本音か」が重要になりつつある。過去には、小説紹介クリエイター・けんごがTikTok・YouTubeで紹介した『アルジャーノンに花束を〔新版〕』が累計1000万回再生を突破し、売れ行きに直結した。『未必のマクベス』も同様にSNSの火種から大ヒットした事例だ。
SNSの普及により、人々は「本音」を自由に語れるようになった。その中で「好きだからこそ語る言葉」が重視されるようになっていると言えるだろう。
「好きな人が語る言葉には、人を動かす力がある」
「ハヤカワ文庫の80冊」フェアは大手書店をはじめ、全国950店舗で展開された。写真は「丸善 丸の内本店」の様子。
つまり、同じ作品でも世代によって入り口が異なり、その“多層的な読書体験”を前提に企画を設計しなければならないということだ。
その裏づけを、現場の書店員も感じている。玉井さんは「注目されるコメントには、今の空気感を掬い取り、なおかつ正直な気持ちがこめられています。それが、目にした人達の共感を呼び、人の心を惹きつけるのだと思います。」と証言する。
また、鈴木愛加さんは課題として「40代以上が中心のハヤカワ文庫などの読者層をどう若い世代に広げるか」と指摘。TikTokで80作品を紹介したものの「若者が好む映像演出の知見が不足していた」と率直に語る。一方で、宇垣美里氏が推薦した『わたしたちが光の速さで進めないなら』のように若い女性層に支持を得た作品もあり、これらは海外文学やSF・ミステリーファンの若返りの兆しを見せている。実際、「小説家になろう」発のミステリー系ライトノベル『誰が勇者を殺したか』(角川スニーカー文庫)が、『このライトノベルがすごい!2025』で新作部門第1位、文庫部門第2位をそれぞれ獲得するなど、若者にもミステリーの面白さが見直されつつある。
最後に書籍編集部副部長の清水直樹さんは、「好きな人が語る言葉には、人を動かす力がある。著名人の推薦も一般のSNS投稿も、その点では変わらない。その“生の声”が帯推薦文化を再び息づかせたのではないか」と語り、言葉の力を強調した。
(取材・文/衣輪晋一)