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企業の“健康経営”は従業員のためになってる? メンタル関連の離職・欠勤率の低減に「睡眠」「運動」そして「喫煙」など嗜好体験が影響

「『喫煙=企業の不利益に繋がる』と言い切ることもできない」、意外な結果の背景

 メンタルを健康に維持するために、睡眠と運動が欠かせないのは理解しやすい。ところが矢野教授らの共同研究では、「喫煙者の多い企業ほどメンタルヘルス関連の欠勤率が(わずかながら)低い」という、常識を覆すような結果も出ている。この結果はどのように捉えればいいのか。

 「正直、この結果には私たちも戸惑いがありました。ただ、まずお伝えしたいのは『喫煙がメンタルに良い』という結論が導き出されたわけではない、ということです。この調査はあくまで『ある時点での喫煙率と欠勤率の相関』といった“瞬間”を捉えたもの。今回の結果について仮説として考えられるのは、ニコチン依存下にある人にとって、喫煙は一時的に覚醒度を高めたり、集中力を向上させたり、リラックス効果をもたらしたりする作用がある。そのためメンタル不調を感じていても、非喫煙者に比べて欠勤・離職という行為に移るまでの閾値がわずかに高い。つまり、我慢しやすい、あるいは不調を認識しにくい状態にあると可能性があります。これはもちろん真の健康状態とは言えませんが、一方で短期的に見れば『喫煙=企業の不利益に繋がる』と言い切ることもできません

 健康経営の一環として、「従業員の完全禁煙」を第一に掲げる企業は多い。近年も、某県の職員が完全禁煙のルールを破ったことで処分を受けた例もあった。しかし、たばこがコーヒーやタブレットミントなどと同様の「リラックスのための嗜好品」と考えている人もいる。喫煙ルールや他者に迷惑をかけない配慮はもちろん必要だとしても、あまりに厳格に縛ることは却って従業員のメンタル不調を引き起こさないだろうか。

 「たしかに多様性を尊重すると言いながらも、たばこだけは例外のように“悪”と見なされる風潮はありますね(笑)。たばこが心身の健康に悪影響を及ぼすのは事実です。とはいえ、『明日から全員禁煙』『破ったらペナルティ』といった急激な変化の押し付けは、大きなハレーションを生みます。企業側にとって必要な姿勢は、喫煙を一律に悪と見なすのではなく、本人の意思だけでは解決できない問題だと理解すること。その上で、卒煙希望のある従業員に適切なステップを踏んだ禁煙プログラムを提供することです」

厳格なルールやペナルティは逆効果、本当に従業員のためになる健康経営とは?

 矢野教授の他の研究では、残業にペナルティを課している企業は離職率が高く、フレックス制度などを設けている企業は離職率が低いという結果が出ている。厳格なルールやペナルティは逆効果で、むしろ従業員の意志を尊重することが大切なのはこの研究からも明らかだ。

 「たばこに関して言えば、ハーバード大学が『感謝の気持ちが喚起されると禁煙モチベーションが高まる』といった面白い論文を発表しました。行動変容の促し方は大きく変わっています。コストやプレッシャーをかけない健康経営のアイディアも、まだまだたくさんあるのではないでしょうか」

 経産省が「健康経営優良法人制度」を創設して来年で10年。健康経営というワードは広く認知されたが、運動や睡眠にしてもとかく“やらされ感”が付きまとうといった従業員のボヤキも聞こえてくる。従業員の健康促進のための取り組みが多様な志向や嗜好を奪ったり、プレッシャーを与えたりすることになっていないか。見直すタイミングに来ているのかもしれない。

(文:児玉澄子)


■『日本企業における従業員のライフスタイルとメンタルヘルス関連欠勤率および離職率との関連』(外部サイト)

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