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“めんどくさい人”のほうが会社には必要? 産業医が抱えるジレンマ「8割の企業がハラスメント問題に何も対処していない」

  • 井上智介氏

    井上智介氏

 仕事の悩みの大半を占めるとされる人間関係。働く世代に向けた著書を多数発表してきた精神科医・井上智介氏の最新本『「あの人がいるだけで会社がしんどい……」がラクになる 職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)が重版を重ねていることからも、職場での対人ストレスの多さが伺える。これだけ社会問題になりながら職場ハラスメントが横行するのはなぜか。また、そもそも産業医の立ち位置とは? 産業医として月30社を訪問し、1万人以上のメンタルを救ってきた井上氏に話を聞いた。

「めんどくさい人」はターゲットを探している「相手の気質につけ込むのが実に巧み」

──最新のご著書では「職場のめんどくさい人」をパターン化し、それぞれどのように対処すれば自分の心を守れるかを指南しています。このような発想でお書きになろうと思ったのは?

井上智介結局、"相手"というのは変えようがないからです。かといって自分が我慢し続けたらストレスが溜まるだけ。「めんどくさい人」の行動パターンと心理を知り、自分の振る舞いをほんの少しだけ変える。そのコツさえつかめば、職場の居心地はだいぶよくなります。ちなみに本書に書いたのは、普段から診療などの場面で患者さんにお伝えしてきて、実際に効果があった方法ばかりです。

──逆に「めんどくさい人」のターゲットになりやすいタイプはあるのでしょうか。

井上智介本来は人間の美徳である気質の持ち主がターゲットにされがちな傾向はありますね。たとえば真面目で責任感が強い人ほど過重労働を押し付けられたり、あるいは協調性を大切にして我慢しやすい人ほど「めんどくさい人」の格好のハラスメントの対象にされたり。また「めんどくさい人」というのは意識的であれ、無意識的であれ、相手の気質につけ込むのが実に巧みなんですね。

──理不尽で憤りを感じますね。

井上智介そうですよね。実社会は理不尽なことだらけです。かといって真正面から受け止めていたら心が折れるだけ。「めんどくさい人」とうまく折り合っていく必要はまったくありません。本書ではあくまで「自分の心が疲弊しない」ための対処方法をお伝えしたいと考えました。

産業医の立ち位置への疑念 "会社の犬"と揶揄されることも

──井上さんは精神科医として外来の患者さんを診察する一方で、産業医として月に30社以上を訪問されています。そもそも産業医と精神科医(主治医)の違いとは?

井上智介まず外来の精神科医は患者さんの診断と治療を行いますが、産業医はどちらもしません。産業医の役割は「従業員の健康管理」をすることで、その中にはストレスチェック制度なども含まれます。その上で従業員本人はもとより、上司や総務、人事などに休職や復職のタイミング、職場の配置転換などをアドバイスできる立場にあります。精神科医(主治医)が企業側に指導することはむずかしいので、そこは大きな違いですね。

──しかし産業医が契約しているのは企業。本当に労働者の味方になってくれるのか? 企業側に都合のいい判断をするのでは? といった疑念もあります。 

井上智介"会社の犬"と揶揄されることがあるのは事実です……(苦笑)。法律では「50人以上の事業所は産業医と契約すること」や「月1回の企業訪問と巡視」などが義務付けられていますが、それだけに名義貸しだけしている産業医もいて、医師会ではけっこう問題になっているんですね。産業医全体の質向上を図るべく、医師会が発行する産業医の免許にメスを入れようという動きもあります。

──「めんどくさい人」そのものが変わらなければ、職場環境の根本的な改善はされないのではないでしょうか?

井上智介たしかに彼らの「認知の歪み」を正していくカウンセリング・プログラムもあります。しかしそれは彼ら自身が本気で課題意識を持たなければ、効果が期待できないんです。そもそも「めんどくさい人」というのは自分が悪いという認識がないですから、彼らに変わってもらおうというのは残念ながら非常に難しいところなんですよね。

「組織が変わらなければ何も始まらない」板挟みになる産業医のもどかしさ

──では企業側が「めんどくさい人」を対処するべきなのでしょうか。

井上智介そう、企業が職場環境の改善に意識的に取り組まないことには、何も始まらないんです。ただ厄介なことに「めんどくさい人」って企業側から有能な人材として認められていることが往々にしてあるんですよね。自分の有能さを演出するのが上手と言い換えたほうがいいかな。だから企業としても、ハラスメント相談を受けても降格や処分はしなかったりするんです。

──結局はターゲットにされた人間がアクションを起こさなければいけないというのは、改めて理不尽さを感じます。

井上智介そうですよね。だけど本質的に意識を改めなければいけないのは、やっぱり組織なんです。僕たち産業医もハラスメントを横行させていることがいかに企業にとって損害が大きいかを訴え続けています。「企業イメージがダウンしますよ」というだけでなく、「1人の従業員の退職・休職によってこれだけコストがかかりましたよ」という具体的な数字を突きつけるのも1つの手でしょうね。

──一方で義務だから産業医と契約はしているけれど、「波風を立ててくれるな」という企業もあるのでは?

井上智介それは大いにあって、僕たち産業医にとってのジレンマでもあります。本書で書いた「めんどくさい人」というのは「職場でハラスメントをしている人」とも言い換えられますが、厚労省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、従業員からのハラスメント相談に「対処してない」と答えた企業は47%。これでも少なく見積もった数字で、僕の肌感では7〜80%の企業が今なお何も対処していないんじゃないかと思います。

──質の低い産業医にあたってしまったら不幸でしかありませんが、そもそも産業医のいない会社も。その場合、どう乗り越えればいいのでしょうか。

井上智介僕は訴えているのは「食事」「睡眠」「遊び」、この3つの軸に変化がないかを日々チェックしてほしいということ。たとえば1時間おきに何度も目覚めてしまう夜が続いているとか、大好きだった遊びにワクワクしなくなったとか。

 意外と勘違いしやすいのですが、心の不調というのはまず体の不調に現れるんです。たとえばめまい、吐き気、頭痛。僕なんかは緊張するとお腹に来るんですが、そういった自分のバロメーターを知っておくと対処がしやすいです。僕の患者さんにも多いんです。体調が悪いのを薬で騙し騙し抑えて出社して、重度のうつ病になってしまっていたというケースが。

──職場コミュニケーションさえなければ…と感じる人も多いでしょうね。

井上智介そうですよね。僕も患者さんから「リモートワークに救われた」という声を聞くたびに、職場コミュニケーションがどれだけメンタルリスクをはらんでいるのかを実感します。ただ人間には本能的に「相手」に認められたい、受け入れられたいという欲求があります。ですから一切のコミュニケーションを遮断し、孤立を深めるのはメンタルにとって非常に危険でもあるんです。

──しんどい環境からは「逃げていい」という井上さんの言葉は、「逃げちゃダメだ」と思い込んでいた人にとっては大きな救いです。

井上智介僕たち産業医や精神科医のことももっと頼ってください。だけど心が疲れてるときは「逃げる」、「受診する」といったアクションを起こすのもなかなかしんどいですよね。たぶんガッツリ文字を読むのも疲れるでしょう。本書はこれまでの僕の本の中でもなるべく読みやすく、ハイライトを入れたり行間を開けたりと工夫をしましたので、気になったらお手にとっていただけるとうれしいです。
(取材・文/児玉澄子)

『「あの人がいるだけで会社がしんどい……」がラクになる 職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)

  • (日本能率協会マネジメントセンター)

    (日本能率協会マネジメントセンター)

価格:1,650円(税込)
詳細はこちら

自分に都合の悪いことは無視する上司、融通がきかない部下、承認欲求が強く、自己アピールが激しい同僚……。そうした“面倒くさい人”たちをうまくかわすには? 井上氏の経験をもとに、人間関係の基本をおさえつつ、ニューノーマル時代の新たな悩みにも対応した仕事の人間関係をラクにするポイントを解説した1冊。

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