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(更新: ORICON NEWS

「ビールの種類」はいくつある?初心者にもわかるスタイルについて解説

ここでは、ビール好きの人にはたまらない、ラガービールや、最近はやりのエールビールなどのビールの種類と、その歴史について紹介したい。

欧州と日本におけるビールの歴史

ビールは、日本では文明開化の時代に、ラガービールとして西洋からもたらされた。
これに対して、世界におけるビールの歴史とは、どのようなものであろうか。
現代のホップを使用したビールは、ドイツ・バイエルン地方で製造されたラガービールがそのベースとなっている。また、ホップと麦芽のみを使用するビール(ラガーのひとつのピルスナータイプ)が「ビール純粋令」(1516年制定)により、広く製造されるようになった。

では、ビールの王道ともいえるラガービールは、どのようなビールなのだろうか。
そもそもラガーLagerとは、ドイツ語のLagern(貯蔵する)から派生している。
貯蔵するという用語から来ているが、冷凍機などがまだ発達しなかった時代には、ビールを樽に詰めて、洞窟や地下貯蔵庫で貯蔵していた。
ドイツバイエルン地方では、19世紀にアンモニア式冷凍機が発明されるまでは、4月〜9月の夏の間の醸造は禁止されていた。ラガータイプのビールは、10月まで地下貯蔵庫で長く貯蔵するため、麦芽使用量を増やしてアルコール度数は高めに設定する必要があったのだ。

ラガーと並んで、中世から醸造されていたビールとして、エールビールがある。
エールは、中世・ケルト民族から始まる歴史のあるビールだ。中世の頃から、イングランド、アイルランド、ウエールズの地域でも飲まれるようになっており、ひと昔前まで、エールタイプのビールは、英国・アイルランドなどでは最大の消費量を誇るビールであった。
当初、エールビールには、ホップは入っておらず、代わりにほかのハーブなどで香味付けされていたといわれ、現在のエールビールの香味とはかなり異なっていたようだ。ホップは、ラガービール発祥のドイツの隣国、チェコ地方でラガー以降にようやく栽培が開始されており、エールビールにも使用されるようになった。

このラガーとエールが、現在の世界の主なビールのほとんどをカバーしている。

現代ビールの王道「ラガービール」と種類(スタイル)

ラガービールの誕生には、中世南ドイツを統治していた当時の領主が大きく貢献している。「水とホップと麦芽のみ」を使用するビール(ラガーの1品種であるピルスナー)が「ビール純粋令」(1516年制定)により、広く製造されるようになった。

ビールの原料として欠かせないホップは、隣国のチェコ地方でこの頃にようやく栽培が開始された。現在でも、最高級ホップ「ザーツアロマホップ」はチェコ地方で栽培されており、世界中に輸出されている。日本の大手メーカーでもプレミアムタイプビールなどに、頻繁に使用されるホップの種類でもある。

ラガービールの発酵に活躍するラガー酵母は、日本でもよく使用されており、ビール類を生産するには欠かせない。
ラガー酵母は、酵母が発酵する際巨大な発酵タンクの中で、上面から下面へ、下面から上面へとぐるぐると浮遊しながら発酵するため「下面発酵酵母」ともいわれている。
ドイツ伝統のピルスナータイプなど、多数のビール会社で採用されているものだ。
出典:「お酒の香りー生物学からみたお酒の世界とその歴史ー」フレグランスジャーナル社, 2015,

ラガービールの種類(スタイル)

世界中で醸造されている「ピルスナー」

ドイツの隣国チェコ(旧名ボヘミア)のピルゼンで、1842年に誕生したラガータイプビールのひとつ。

日本はじめ世界でよく醸造されている、ホップが効いた、すっきりとした味わいの爽快な淡色ビールであり、下面発酵法を採用している。

コクのあるビール「ボック」

下面発酵法によるドイツ発祥のビール。

アルコール分は6%程度であるが、特に麦芽の風味が感じられ、コクのあるビールとなっている。

苦味の少ない黒ビール「シュバルツ」

下面発酵法による珍しい黒ビール。

シュバルツとは、ドイツ語で「黒」を意味する。原料に焙煎した麦芽を使用するので、黒ビールとなるが、苦味は少なく、ラガー伝統のシャープでクリアな味わいとなっている。

オクトーバーフェストの主役「メルツェン」

ピルスナーより味わいが深い下面発酵によるラガービールの一種。
国内大手メーカーでも、メルツェン(プレミアムメルツェン)を一時期発売していたようであるが、現在販売中止となっていたり、また別のメーカーでは数量限定で販売している。

このメルツェンを、解禁される10月(ドイツ語でオクトーバー)に飲むお祭りが「オクトーバーフェスト」である。世界最大のビール祭りといわれ、バイエルンの中心地であるミュンヘンで現在も開催されている。バイエルン王国の皇太子の結婚を祝すために、領民にメルツェンが振るまわれたことが起源となっている。

甘みとコクの濃色ビール「デュンケル」

下面発酵法によるブラウンに近い濃色ビール。

甘みとコクも感じられるが、さっぱりとした味わいとなっている。ドイツのバイエルン地方で主に醸造されている。

現代ビールの新潮流「エールビール」の種類(スタイル)

当初のエールビールにはホップは入っておらず、代わりにほかのハーブなどで香味付けされていたといわれ、現在のエールビールの香味とはかなり異なっていた。

エールビールは、上面発酵型酵母である「エール酵母」を用いる。上面発酵とは、20℃程度の発酵温度により、発酵タンクの上面で発酵が進む発酵法である。

エールはこのエール酵母を使用して、やや高濃度の麦汁を使用して発酵するため、アルコール度数は高めの5〜6%程度となる。また上面発酵により、果実の香りの主成分であるエステル類の生成が多くなりやすい。このため、エールビールは華やかな香りが特徴となっている。
出典:「お酒の香りー生物学からみたお酒の世界とその歴史ー」フレグランスジャーナル社, 2015,

エールビールの種類(スタイル)

エールの王道「ペールエール」

ペールエールは、日本でもクラフトビールメーカーや大手ビール会社でも製造されている、かなりポピュラーなビールである。

ペールエールは、英国で誕生したエールビールの中でも代表格といえるビールだ。主にペールモルトという麦芽を原料として、上面発酵法で製造する。華やかな香りがあるが、深みのある味も楽しめるのが特徴だ。

酸化ホップを使う「IPA」

IPAもエールビールの代表的な品種であり、国内クラフトメーカーでも盛んに製造されている。

酸化した特殊なホップを使用するが、このホップの起源はその昔、英国から英領インドにビールを大量に輸出していたことから始まったといわれている。
ホップの香りと苦味が効いた特徴あるビールであり、日本でもクラフトビールメーカーでの代表的な品種となっている。

黒ビールの王様「スタウト」

英国のスタウトは、麦芽に加えて、原料の一部に砂糖などを使用する。砂糖もビール酵母が食べることができる糖分であり、砂糖を加えたスタウトでは、アルコール発酵後のアルコール度数が高くなる。

スタウトは黒色麦芽を用いて上面発酵により製造される、苦味とコクが感じられるビールである。アイルランドのギネス社が、アルコール度数を強化したスタウト(ギネススタウト)の開発を実施したところ、世界中でヒットする代表作となった。エールタイプではあるが、既にスタウトとして別ジャンルの地位も確立している。

ドイツ由来の「ヴァイツェン」

ヴァイツェンは、ドイツ語Weizenから来ており小麦を意味する。

エールタイプの中でもやや特殊なビールであり、小麦麦芽を使用し上面発酵で製造する。果実系の香りのある、苦味の少ないビールとなっている。
もともとのヴァイツェンでは、発酵後も酵母をろ過していないものが主流であったが、現在はろ過しているものが多い。

ベルギー生まれの「ペルージャンホワイト」

ベルギーも隠れたエールタイプビールの生産大国であり、ペルージャンホワイトなどが有名である。

ペルージャンホワイトは、小麦麦芽も使用し、果実のオレンジピールなども発酵前に添加している。苦味は少なく、華やかな香りのエールタイプのビールであり、日本のクラフトビールメーカーでも製造しているところがかなりある。
出典:酒類総合研所情報誌「お酒のはなし」独立行政法人酒類総合研究所編、2003年(外部サイト)

日本のクラフトビール

クラフトビールは、最近特に国内でも注目されているが、この要因はビールの種類の多さである。国内クラフトビールの傾向と種類についても紹介しよう。

実は、日本におけるクラフトビールは税法上の「ビール」としての定義はない。

クラフトビールの製造には、北海道から沖縄まで、大小さまざまなメーカーが参入している。
1994年の酒税法改正によって、ビール製造免許取得に必要な最低製造量が年間2,000キロリットルから年間60キロリットルに引き下げられ、これを契機として、小規模なクラフトメーカーの参入が加速した。

国内では、クラフトビールブームの前に、地ビールブームが到来していた。以前から、地ビールの製造には地方の清酒メーカーが参加しており、現在のクラフトビールのさきがけとなった。
出典:「お酒の香りー生物学からみたお酒の世界とその歴史ー」フレグランスジャーナル社, 2015,
クラフトビールメーカーとしては大手のヤッホーブルーイングの場合、いろいろな種類のビールを製造している。
たとえば、クラフトビール王道の味わいとして「よなよなエール」や、IPAタイプのエールビールである「インドの青鬼」、小麦麦芽を使用するホワイトエールである「水曜日のネコ」など、海外のクラフトメーカー並みの種類を取り揃えている。

まとめ

ビール好きにはたまらない、世界のいろいろなビールについて紹介した。

世界のビールの区分において、ラガービールとエールビールの二つが主要なものになっている。本記事では、このラガーとエールの詳細について解説した。

ドイツ・バイエルン地方の「ビール純粋令」を生むことになった由緒あるラガービールは、ドイツ発祥で世界中で愛されている。現在、ドイツ以外でも盛んに開催されているオクトーバーフェストに類するビール祭りは、ラガーに属するメルツェンが、その歴史の発端であった。なおエールビールは当初、ホップは入っていなかった。その後、ホップの発見と利用により、ホップ入りエールビールが製造されるのは、ラガービール成立の時代以降である。

中世ドイツやイングランドなどにも想いをはせながら、日本のクラフトビールを含む、いろいろな種類のビールをぜひ楽しんでいただきたい。夏の時期には、ジョッキをキンキンに冷やしておくのもおすすめである。
著者プロフィール

たに おさむ
ビールメーカー技術職として31年間勤務したのち、独立行政法人の技術プランナーとして4年間、大学(東工大)・産学連携コーディネーターとして9年間勤務後、現在はフリーのライターや監修者として活動中。
発酵関連の酵母、麹菌、乳酸菌などの微生物代謝とその生成物(アルコール含む)が専門であり、技術士(生物工学部門)を取得している。西部劇を含むハリウッド映画や、近隣ウオーキングコースを歩くのを趣味としている。

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