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「ラガービール」とは?特徴や種類を解説
このようなジョッキでの飲用シーンにピッタリなビールが、ラガービールである。ラガーはエールビールなどと異なり、そもそも発酵段階から低温で発酵・熟成されるので、ほかのビールと比べても、十分冷やして飲むのがよく合う。ビールだけではなく、ジョッキ自体も冷蔵庫で冷やしておくと、さらにのどごしよく飲むことができる。
では、ビールの王道ともいえるラガービールは、どのようなビールなのだろうか。
ラガービールの本質を明らかにするためにも、その発祥の地と歴史からまず解説したい。
ラガービールの歴史
そもそもラガー(Lager)とは、ドイツ語源で貯蔵するという意味から派生している。
ほかのエールビールなどと比べても、世界の大半で飲まれている種類ともいえる。
ラガービールは、貯蔵という由来からくるように、冷凍機などがまだ発達しなかった時代に、ビールを樽に詰めて、洞窟や地下などの地下貯蔵庫で貯蔵していた。
バイエルン地方では、19世紀にアンモニア式冷凍機が発明されるまでは、4月〜9月の夏の間の醸造が禁止されていた。この醸造禁止期間直前の3月につくるラガービールを「メルツェンMarzen」と呼ぶ(3月のことを、ドイツ語でメルツMarzという)。これを10月まで地下貯蔵庫で長く貯蔵するため、麦芽使用量を増やしてアルコール度数を高めに設定していた。このため、ほかのラガービールと比べて麦芽の香りが強いビールになったという。
このメルツェンというラガービールを、解禁される10月(ドイツ語でオクトーバー)に飲むことを盛大に祝うお祭り「オクトーバーフェスト」がある。
世界最大のビール祭りといわれるオクトーバーフェストは、バイエルンの中心地であるミュンヘンで現在も開催されている。バイエルン王国の皇太子の結婚を祝すために、領民にメルツェンなどのビールが振るまわれたことが起源となっている。
ビールの品質維持に大きく貢献したのが、中世南ドイツを統治していた当時の領主が制定した「ビール純粋令」(1516年制定)である。それまではホップではなく、さまざまな香味付け植物(中には危険性のあるものあり)や副原料なども使用しており、ビールの香味や安全性にも影響していた。
これ以後、香味が安定した「水とホップと麦芽のみ」を使用するビール(ピルスナータイプ)が「ビール純粋令」により、広く製造されるようになった。なおピルスナータイプも、ラガーの範疇(はんちゅう)に含まれるビールである。ビール醸造所では原則的に、ビール純粋令に沿ってビールが製造され、出来たビールの品質も安定することとなった。
またビールの原料として欠かせないホップは、隣国のチェコ地方でこのころにようやく栽培が開始されている。現在でも、最高級ホップ「ザーツアロマホップ」はチェコ地方で栽培されており、世界中に輸出されている。日本の大手メーカーでもプレミアムタイプなどに頻繁に使用されるのが、このホップである。
出典:「お酒の香りー生物学からみたお酒の世界とその歴史ー」フレグランスジャーナル社, 2015(外部サイト)
ラガービールの発酵法
地下貯蔵中の失敗や原料の不具合などにより、当初はビールの品質にかなりの問題があった。近世になりアンモニア式冷凍機が開発され、ビール貯蔵庫にも利用されることにより、その中に貯蔵容器を保持することが可能となっている。また地下貯蔵庫でなくても、地上設置の貯蔵室全体を冷却することができるようになり、ビールの製造及び品質維持に大きく貢献した。
なおビール貯蔵樽は、昔は木樽を利用していた。また発酵容器自体も昔の醸造所では、貯蔵樽より大きな木樽を利用して発酵を行った。
現在では、酵母以外の微生物汚染を排除するために、発酵タンクもビール樽も、すべてステンレス製のものを使用している。たとえば国内でも、新幹線や首都圏の駅近くにあるビール工場では、屋外の巨大なステンレス製発酵タンクが用いられている(容量400キロリットル以上もある巨大タンクであり、タンク下部が逆円錐形なので、シリンドロコニカルタンクともいう)。
ラガービールの発酵に活躍するラガー酵母は、日本でもよく使用されており、世界的にみてもビール類を生産するためには欠かせない。低温でも発酵が進み、通常は5℃程度で発酵がすすむ。
ラガー酵母は、酵母が発酵する際巨大な発酵タンクの中で、上面から下面へ、下面から上面へとぐるぐると浮遊しながら発酵するため「下面発酵酵母」ともいわれる。ドイツ伝統のピルスナータイプのビール製造など、世界の多数のビール会社で採用されている方法だ。
出典:「発酵と貯酒」、日本醸造協会誌、2000 年 95 巻 12 号 p. 856-866(外部サイト)
ラガービールとエールビールの比較
エールビールはラガービール発祥以前まで、ホップは使用されておらず、グルートと呼ぶハーブ類の香味付けを利用していた。なおその後は、エールビールもホップを使用するのが主流となっている。
欧州中世の時代から飲用されてきた歴史のあるエールビールとラガービールの違いについて説明しよう。
最大の違いは、ラガーが下面発酵法、エールは上面発酵法により製造されることだ。
これに対して、「エール酵母」を使用するエールビールは、発酵タンクの上部で主に発酵がすすむ上面発酵酵母となっている。上面発酵とは、20℃程度の発酵温度により、発酵タンクの上面で発酵がすすむ発酵法である。
両方の酵母は一時期、別の酵母種とされていたが、1984年にサッカロミセス・セレビシエに統一され、生物学的には極めて近縁の種類の酵母とされている。
ラガー | エール | |
副原料 | ホップ使用 | 昔はグルート、その後ホップ使用 |
酵母 | ラガー酵母 | エール酵母 |
発酵法 | 下面発酵(5〜10℃程度) | 上面発酵(20℃程度) |
主な香味 | ホップの香りと苦味 | フルーティーな香り |
ラガービールの種類
ラガービールの種類には、ピルスナーや、メルツェン、へレス、ボックなど、主にドイツ各地方発祥のビールが多数存在している。
日本の主なビールでは、その発祥がドイツやその他欧州各国出身の醸造家が明治時代に手がけていたため、大きな範疇(はんちゅう)としてはラガービール、中でもピルスナータイプのビールが多い。
ピルスナー(チェコ起源)[アルコール度数4.5%程度]
メルツェン(ドイツ起源)[アルコール度数5.5%程度]
ボック(ドイツ起源)[アルコール度数6%程度]
ドルトムンダー(ドイツ起源)[アルコール度数5.5%程度]
発酵度とは、酵母が発酵時に食べつくす糖度割合のことをいう。
シュバルツ(ドイツ起源)[アルコール度数5%程度]
デュンケル(ドイツ起源)[アルコール度数5%程度]
◆ラガービールの種類まとめ
ビールの種類 | アルコール度数 | 特徴 |
ピルスナー | 4.5%程度 | ホップが効いた、すっきりとした味わい |
メルツェン | 5.5%程度 | ピルスナーより味わいが深い |
ボック | 6%程度 | 麦芽の風味、コクのあるビール |
ドルトムンダー | 5.5%程度 | 苦味が少ない |
シュバルツ | 5%程度 | 黒ビール |
デュンケル | 5%程度 | ブラウンに近い濃色 |
まとめ
ドイツ・バイエルン地方の「ビール純粋令」を生むことになった由緒あるラガービールとして、ドイツ発祥ではあるが、地球の裏側を含めて世界中で愛されているビールの種類である。貯蔵するというドイツ語から発生しているが、その歴史が「ラガービール」にも大きく影響している。現在、ドイツ以外でも盛んに開催されているオクトーバーフェストに類するビール祭りは、ラガーの中の1品種が、その歴史の発端であった。
世界最大の消費量を誇るラガービールについて、その歴史を振り返りながら、ぜひ自宅でも冷たいジョッキで、ビールを楽しんでいただければ幸いである。
著者プロフィール
たに おさむ
ビールメーカー技術職として31年間勤務したのち、独立行政法人の技術プランナーとして4年間、大学(東工大)・産学連携コーディネーターとして9年間勤務後、現在はフリーのライターや監修者として活動中。
発酵関連の酵母、麹菌、乳酸菌などの微生物代謝とその生成物(アルコール含む)が専門であり、技術士(生物工学部門)を取得している。西部劇を含むハリウッド映画や、近隣ウオーキングコースを歩くのを趣味としている。
たに おさむ
ビールメーカー技術職として31年間勤務したのち、独立行政法人の技術プランナーとして4年間、大学(東工大)・産学連携コーディネーターとして9年間勤務後、現在はフリーのライターや監修者として活動中。
発酵関連の酵母、麹菌、乳酸菌などの微生物代謝とその生成物(アルコール含む)が専門であり、技術士(生物工学部門)を取得している。西部劇を含むハリウッド映画や、近隣ウオーキングコースを歩くのを趣味としている。
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飲酒は20歳を過ぎてから。飲酒運転は法律で禁止されています。
妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児に悪影響を与える恐れがあります。
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