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「エールビール」とは?特徴や種類を解説
国内でも製造されており、華やかな香りが特徴で、特に注目されているビールである。大手スーパーでも、かなりのブランドのエールビールが売られている。特にペールエールは、日本でもクラフトビールメーカーなどで製造されている、人気の種類である。
本記事では、エールビールについて、その歴史から発酵法、特徴や種類について解説する。
エールビールの歴史
イングランドのケルト民族では、中世以前に、ミードと呼ばれるハチミツ酒を既に飲んでいたといわれる。ハチミツは糖分が豊富であり、これを適当な濃度まで薄めて天然酵母により発酵していた。このミードを起源として、穀物酒(麦芽と酵母を種菌として使用)すなわち「エール」が生まれたといわれている。
ケルト民族による初期のエールビールには、ホップは入っておらず、代わりにほかのハーブなどで香味付けされていたといわれ、現在のエールビールの香味とはかなり異なっていた。ホップは、ラガービール発祥のドイツの隣国、チェコ地方でラガー以降にようやく栽培が開始された。現在でも、最高級ホップ「ザーツアロマホップ」はチェコ地方で栽培されており、世界中に輸出されている。日本の大手メーカーでもプレミアムタイプなどに頻繁に使用されるホップだ。
世界中で飲用されている「エールビール」は、ドイツ起源のラガービールに関するビール純粋令(1516年)により、ホップのみが使用されるようなった時代以降に成立したともいえる。
イングランド以外にも、隠れたビール大国であるベルギー地方でも、エールタイプのビールが数多く飲まれていた。中世の時代となり欧州、特にベルギー地方で、ホップの代わりに香味付けの「グルート」を使用する「ビール」が製造されており、ベルギーではワインの代わりとして広く飲まれていた(ワイン生産にはあまり適さない気候でもあったこと原因である)。
ビール純粋令制定の時代以後、イングランドと同様にベルギー地方でも、「ホップ」が主な香味付けとして、エールタイプのビール類にも使用されるようになっている。
出典:「お酒の香りー生物学からみたお酒の世界とその歴史ー」フレグランスジャーナル社, 2015(外部サイト)
エールビールの発酵法
このためアルコール度数は高めの5〜6%程度となる。またエールビールでは、上面発酵が原因により、果実様の香りの主成分であるエステル類の生成が多い。このため、アルコール度数はあるものの、華やかな香りとなる。
エールビールの種類ではアルコール度数が低いものもあるが、ほぼ6%程度となり、日本でよく飲まれるピルスナータイプのビール(4〜5%)より、アルコール度数が高い。また、同じく英国のスタウトなどでは、麦芽に加えて、原料の一部に砂糖なども使用する。
砂糖もビール酵母が食べることができる糖分であり、砂糖を加えたスタウトでは、アルコール発酵後のアルコール度数が高くなる。
なおエタノールは、ビール酵母によるアルコール発酵の主産物である。ビール製造の段階で、麦芽から麦汁がつくられるが、この中には麦芽由来の糖分(酵母が食べることのできる糖類のこと)が含まれている。この糖分をもとに酵母による発酵が起こり、主にエタノールと炭酸ガス(ビールの泡の成分)となる。
エールビールは、イングランド・アイルランド地方由来のものが多いが、隠れたエールビールの大国としてはベルギー地方があり、その種類も多い。
ベルギーのエールビールをみると、特に修道院で製造されるビールはその技術に優れ、現在もその製法が伝承されているものがある。ベリー類などの果実を副原料として添加したものや、いろいろな麦芽の種類を利用するビールが製造されている。ほかにも各種の天然ハーブ(ホップ以外のグルート起源)を加える製法が試されてきた。
出典:「発酵と貯酒」、日本醸造協会誌、2000 年 95 巻 12 号 p. 856-866(外部サイト)
エールビールとラガービールの比較
最大の違いは、エールが上面発酵法、ラガーは下面発酵法により製造される。
エールビールとラガービールの違いについて、次に説明する(下表)。
エール | ラガー | |
副原料 | 昔はグルート、その後ホップ使用 | ホップ使用 |
酵母 | エール酵母 | ラガー酵母 |
発酵法 | 上面発酵(20℃程度) | 下面発酵(5〜10℃程度) |
主な香味 | フルーティーな香り | ホップ香と苦味 |
ラガー酵母が発酵する際に発酵タンクの中で、上面から下面へ、下面から上面へとぐるぐると浮遊しながら発酵するため下面発酵酵母のひとつである。ドイツ伝統のピルスナータイプのビールなど、世界の大手ビール会社でつくられている採用されているビールだ。
これに対して、エールタイプのビールに使用されているのが、「エール酵母」といわれる酵母である。エールビールは、発酵タンクの上部で主に発酵が進む上面発酵酵母だ。
上面発酵は、20℃程度の発酵温度により、発酵タンクの上面で発酵が進む発酵法である。
なお両方の酵母は一時期、それぞれ別の酵母種とされていたが、1984年にサッカロミセス・セレビシエにラガー酵母、エール酵母ともにサッカロミセス・セレビシエに分類学的に統一され、生物学的には近縁の種類の酵母とされている。
エールビールの種類
ペールエール(英国起源)[アルコール度数5%程度]
ペールエールは、日本でもクラフトビールメーカーや大手ビール会社でも製造されている、かなりポピュラーなビールである。
スタウト(英国、アイルランド起源)[アルコール度数最大8%程度]
IPA(英国起源)[アルコール度数最大7%程度]
ヴァイツェン(ドイツ起源)[アルコール度数5%程度]
なお通常ビールに使用する麦芽は、ほとんどが大麦麦芽だ。
上面発酵による果実系の香りのある、苦味の少ないビールである。
もともとのヴァイツェンは、発酵後も酵母を除去していないものが主流だったが、現在はろ過しているものが多い。
ベルジャンホワイト(ベルギー起源)[アルコール度数5%程度]
ランビック(ベルギー起源)[アルコール度数4%程度]
トラピスト(ベルギー起源)[アルコール度数最大9%程度]
◆エールビールの種類まとめ
ビールの種類 | アルコール度数 | 特徴 |
ペールエール | 5%程度 | 華やかな香り |
スタウト | 最大8%程度 | 苦味とコク |
IPA | 最大7%程度 | ホップの香り |
ヴァイツェン | 5%程度 | 果実系の香り |
ベルジャンホワイト | 5%程度 | 華やかな香り |
ランビック | 4%程度 | 酸味が比較的強い |
トラピスト | 最大9%程度 | 苦味の強い |
まとめ
イングランドのすぐ隣のウエールズ地方では、中世始めには既に年貢として、ハチミツ由来のミード又は、ホップの入っていないスパイス入りエールを納めていた。ホップとは異なるビール香味を嗜んでいた可能性がある。修道士や代官などが登場する時代から、エールはこのような歴史を育んできたといえる。その後、ホップの発見と利用により、ホップ入りエールビールが製造されるのは、ラガービールの時代以降である。
中世イングランドやウエールズにも想いをはせながら、いろいろな種類のエールビールを楽しんでいただきたい。
本記事が、エールビールに関心がある方のお役に立てれば幸いである。
著者プロフィール
たに おさむ
ビールメーカー技術職として31年間勤務したのち、独立行政法人の技術プランナーとして4年間、大学(東工大)・産学連携コーディネーターとして9年間勤務後、現在はフリーのライターや監修者として活動中。
発酵関連の酵母、麹菌、乳酸菌などの微生物代謝とその生成物(アルコール含む)が専門であり、技術士(生物工学部門)を取得している。西部劇を含むハリウッド映画や、近隣ウオーキングコースを歩くのを趣味としている。
たに おさむ
ビールメーカー技術職として31年間勤務したのち、独立行政法人の技術プランナーとして4年間、大学(東工大)・産学連携コーディネーターとして9年間勤務後、現在はフリーのライターや監修者として活動中。
発酵関連の酵母、麹菌、乳酸菌などの微生物代謝とその生成物(アルコール含む)が専門であり、技術士(生物工学部門)を取得している。西部劇を含むハリウッド映画や、近隣ウオーキングコースを歩くのを趣味としている。
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飲酒は20歳を過ぎてから。飲酒運転は法律で禁止されています。
妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児に悪影響を与える恐れがあります。
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