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吉沢亮の面白CMのウラに東北復興への思い…「いったい何屋さん?」アイリスオーヤマがお米に手を出した背景
家電メーカーなのにお米? 背景に東日本大震災での被災
同社によると、このCMの狙いは「若者を中心に幅広い世代の方にパックごはんに関心をもってもらいたい」という思い。社員からも「変にお堅くない社風が表れている」と好評だと言うが、そもそもなぜ、家電メーカーとして知られる同社にパックごはんや生鮮米などのお米製品があるのか。
2011年3月11日、国内観測史上最大のマグニチュード9.0を記録し、地震と大津波により甚大な被害をもたらした東日本大震災。宮城県仙台市に本社を構え、同県角田市に社の中枢を担う工場を有するアイリスオーヤマも、多大な被害を受けたという。
「本部機能を持つ角田の工場は、ホールの天井が落ちるなど建物被害に加え、電気通信水道といったすべてのインフラが停止。物流センターの自動倉庫では、高いところまで積み上げられていた大量の製品が崩落してしまい、大きな損害となりました」(広報担当者/以下同)
社員もまた、被災者となった。だがそんな中、「メーカーとして、一刻も早くみんなが求めている生活物資を届けなければ」という思いから、すぐに復旧に動き出したそうだ。工場は発電機で再稼働、全国の拠点とも連携し、高圧洗浄機や収納ボックス、電池、カイロなど、幅広い製品を扱う同社ならではの対応で被災地に物資を供給。とくに需要が高かったのは、これも自社製品であるブルーシートだったという。
さらに、全国に呼び掛けられた節電に応じて、当時の社長が震災発生から10日後には中国の自社工場に出向き、LED電球の生産増加を指示。被災から約2ヵ月後の5月には、LED照明の受注量は前年の3〜5倍にも上り、「素早く増産に踏み切っていなければとても対応できる量ではなかった」と振り返る。
ただモノを送るのではなく経済循環に、だが食品参入には大きな壁
「東北は日本有数の米どころとして有名ですが、とくに沿岸部は津波によって多大な被害を受けてしまいました。まずは、田圃を整えるところからスタートしなければならないし、作っても売る場所がない。とくに福島は風評被害も懸念されていました」
地元の企業として、どうすれば東北の第1次産業の復興に貢献できるか。そこで同社が行ったのが、地元の農業生産法人と手を組み、精米事業に参入することだった。
「ただ商品を全国に送るだけでは、復興には結びつきません。生産者に安心して作り続けてもらえるよう、私たちが契約農家の米を全量買い取り、検査もしっかり行い、販売ルートも確保する。そういった経済循環を作ることが必要と考え、本腰を入れて取り組むことに決めました」
米農家にとって、全量買い取りは安心して生産活動に取り組める最大の担保。さらに、全国のスーパーマーケットやホームセンターなど、販売チャンネルの多さも希望となっただろう。とはいえ、同社にとっては初の参入なだけに、すぐにうまくいったわけではなかった。
「それまで食品はほとんど扱っていなかったために、業界からは『本当に食品事業に参入するの?』という声もいただきました。食品販売店への導入は苦労したこともありました」
被災企業が地元の農家と特産品を守るために尽力する…という復興支援物語は、消費者への大きな訴えとなる。この取り組みを業界に知らしめるためには、現在のようにCMを活用すればよかったのでは?と考えてしまうが、なぜ当時、声高にアピールしなかったのか。
「心に傷を負っている方々がたくさんおられる状態でしたし、私たち自身も生産者と一緒にどうやってお米を作り、全国に届けるかを模索している最中だったので。とにかく、美味しい、安全であることを訴えるために、販売店の方々にテストで食べていただくなどして、地道に販路を広げることに注力しました。スーパーマーケットやホームセンターなどの理解を得て、軌道に乗るまで3年くらいかかりました」