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『スイカバー』は「スイカ味」ではない? 特徴なき“スイカ”をどうアイスに…開発の舞台裏
「スイカ味」は諦めた? 果汁は“わずか5%”の「スイカバー味」への舵切りで市場を独占
「食べているだけで夏を感じられ、楽しい気持ちになれるアイスを作りたいという想いから、開発しました。当時からスイカは夏の定番の食べ物として親しまれていましたが、スイカをお菓子にした商品は存在しなかったようです。スイカをアイスなど他の形態にしようという発想がなかったのかもしれません」(ロッテ・マーケティング本部・アイス企画課・江幡辰也さん/以下同)
「イチゴやメロンなどは果汁を使えば使うほどその味に近づくので、美味しく仕上がりやすいのですが、スイカはそれ自体の風味が弱く、美味しく仕上げることが難しいんです。スイカ味をリアルに再現しようとすると青臭くなり、スイーツからかけ離れてしまいます。やはりアイスである以上、”甘くて美味しい”ことは担保しないといけませんから」
「果汁をたくさん入れたら美味しくなるわけでもないので、スイカ果汁は5%にしています。その上で、赤い部分は“赤くて甘い”イメージ、緑の(皮の)部分は“緑の甘い”イメージで味を作っています。スイカ味というよりは”スイカバー味”を表現しました」
また形状も、当初から追従を許さないこだわりが。四角い棒アイスが一般的だった中、スイカ型の三角形にするのはかなりのチャレンジだった。
「各家庭ではスイカを三角形に切って食べることが多かったので、そこまで再現しようと。かなりイレギュラーな形だったので、四角形に比べると箱の中での安定性が弱く、『売り場で売りにくい』という声もあったようです。でもその声に負けずに、徹底して三角形をやり続けました」
人気ブランドながら、“期間限定”を貫き続けている理由とは 奇しくも猛暑が追い風に
まずその1つに、発売から現在まで一貫し、通年ではなく期間限定で販売している。毎年春・夏に販売され、大体お盆明けには店頭でなくなり始める。これにより、発売時からのコンセプトである“夏ならではの商品”として、長年に渡ってブランディングを確立してきた。
「スイカバーは、気温が30度や35度を超えると売上が伸びる傾向が強いです。今は昔より暑くなっているので、やはり売り上げは堅調に推移しています。今後は“暑くなったらスイカバー”という訴求の仕方で、需要喚起を図っていきたいと思います」
また、発売時から現在まで、原材料や製法にも大きな変わりはないという。赤いアイスと緑のアイス、そしてチョコ種から構成されるスイカバー。これを楽しみにしてくれているファンのために、やはり基本スタイルは「変えない」。その中で、絶えず進化しているのはチョコ種だ。
「開発当初はチョコチップも検討しましたが、口どけが悪かったので、パフにチョコレートをコーティングしたチョコ種を採用しました。その後もチョコレートの食感、美味しさについては日々改良を重ねています。水分の多いアイスと、油分の多いチョコでは融点が違うので、口の中の温度で心地よく溶けてくれるよう調整したり、カカオ成分の配合比率を検討したりしています」
ロングセラーの秘訣は「定番&限定2軸展開」 贅沢志向に流されない姿勢も“逆差別化”に?
定番品に加えて、10年前から『チョコかけちゃったスイカバー』(2013、2015年)、『黄色いスイカバー』(2015年)といった変わり種のスイカバーや、スイカバーから派生した『BIGメロンバー』(2016年)、『BIGパインバー』(2017年)など、毎年限定品が登場している。
価格も、長らく「変えない」ことにこだわってきた。2019年までは定価100円をキープ。2020年から110円に改定され、現在に至っている。昨今のアイス市場は贅沢志向が高まっており、160円前後が一般的なプライスラインとなっているが、原材料や物流などの高騰もある中、110円をキープしているのはかなりの企業努力と言えるだろう。
「昨今は200〜300円台のアイスも見られますが、こうした高級志向と低価格帯の二極化が今後より顕著になってくると思います。スイカバーとしては、高い方に合わせるのでなく、現在の価格を維持しながら、“お手頃に買えるアイス”というイメージを浸透させたいです」
「スイカバーにはオリジナルキャラクター(すいかばマン、かばメロちゃん)がいますので、それも活用して、日用雑貨やTシャツなど、アイス以外でのスイカバー商品を作りたいと考えています。アイス売り場だけでなく、他の売り場でも『スイカバー』を目にしてもらう機会があれば、さらにブランドとしての認知度も高まるかなと思っています」
ぶれない味や形状、コンセプトを軸に変化を楽しむ――そんな“中の人”の遊び心が、老若男女問わずにファンの心を掴み、愛され続けているのだと感じた。夏休みの思い出としても、筆者の心に刻まれている『スイカバー』。昭和、平成、令和と、世代を超えて共有できる数少ない氷菓子として、今年も多くの人の“夏の味”として刻まれていくだろう。
(取材・文=水野幸則)