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「正直、20円でも厳しい…」正念場で苦悩する『チロルチョコ』 購買層が変化した駄菓子業界の課題も
「うまい棒は最後の砦だった」経済の煽りに影響を受けやすい駄菓子業界の性
同じく1979年には「10円で買えるお菓子」として共に駄菓子屋シーンを牽引してきたうまい棒が誕生している。そのうまい棒が今年4月に発売以来初めて12円に値上げすることが先頃発表された。
「とうとうか、と思いましたね。いつかはとは思っていましたが、この業界では“最後の砦”みたいなところがありましたから」
そう感慨深げに語るのは、チロルチョコ株式会社の松尾社長。
「昔から当たり前のようにあるものを値上げするのはとても勇気のいることです。発売当初のチロルチョコは、価格が10円で3つ繋がっていたものだったのですが、オイルショックによる原材料の高騰で、3つ山のチロルチョコを値上げ(10円→20円→30円)せざるを得ず、売上がガクンと落ちたという苦い経験をしていますから」
3つ山をバラし1粒タイプとなった現行チロルチョコは、物価上昇のさなかにおいて「元々のコンセプト通り子どもがワンコインで買える価格」を実現させるためのアイデアだった。そして現在、原材料はもとより資材・包材、輸送費とあらゆるコストの高騰が駄菓子業界を直撃している。
「経済の煽りを受けるのは致し方ないことですが、経営者には社員とその家族の生活を守る責任があります。(うまい棒の販売元である)やおきんさんもギリギリまで悩まれた末の決断だったのだろうと思います」
すっかり見なくなった駄菓子を買う子どもたち… 課題となる若年層へのアピール
「サイズを変えるにあたって工場の機械を追加する必要があったため、最初の設備投資は大変だったと聞いています。ただ2.5センチ角を作る機械は今も現役で稼働していて、バラエティパックなど袋タイプ用のチロルチョコを作っています。1袋にいろんなフレーバーが入っていたほうが楽しいだろうということで、バラエティパックは1粒のサイズは小さく数や種類は多く、という形を取っています」
おこづかいを握り締めて駄菓子を選ぶ子どもの姿もすっかり見なくなった。現在のチロルチョコの主な購買層は20〜40代の女性で、仕事の合間にコンビニで1粒タイプを、あるいは家族のためにスーパーでバラエティパックを、といった2つの購買行動がメインとなっているという。
「お子さんにもチロルチョコを食べていただけているとは思います。ただかつてのように、積極的に選んでいただけているかどうか。小さいお子さんが1人でお菓子を買いにくる場面も減りましたし若年層へのアピールは、駄菓子業界のこれからの課題になってくると思いますね」
チロルチョコのみで勝負する“一本足打法”に危機感も「世界に広まるポテンシャルはある」
「近年は原材料の高騰で、定番商品を20円で売るのも正直なかなか厳しくなっています。30円や42円のプレミアム商品を積極的に企画するようになったのは、全体の利益率のバランスを取ることで定番商品を20円に維持するのも狙いの1つでした」
通年1粒タイプで販売されている定番商品はコーヒーヌガー、ミルク、ホワイト&クッキー、ザクチロの4品のみで、これまでに500種類以上ものフレーバーが発売されている。一方、チロルチョコのほかに同社が販売している商品は、五円玉の形をしたチョコレートの「ごえんがあるよ」のみだ。
「新ブランドの開発は常に念頭にありますし、試作もしています。ただ商品化するとなったら量産設備を揃える必要もあるため、まだ実現には至っていません。もちろん“一本足打法”には危機感もあります。だからこそブランドをしっかり守ること、それと同時にもう1つ軸となるような事業を生み出したいですね」
松尾社長の代になってから意欲的に取り組んでいる海外展開も、その鍵となるかもしれない。
「今はコロナ禍でややスピード感が落ちていますが、アジアを皮切りに引き続きアピールしていく意向です。日本の駄菓子はレベルが高く、今後はさらに世界に広まるポテンシャルがあると思っています。4代目の私から代替わりするまでには、日本のお菓子として世界の方々にチロルチョコを認知してもらえているように頑張りたいですね」
(取材・文/児玉澄子)