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フィギュア漫画が異例のヒット、無名の新人作者語る「大勢に支えられて成り立つ特殊な競技」今の時代だから描きたかった想い

 日本のフィギュアスケートは、世界でもトップクラスの選手を抱える競技として知られている。しかし、漫画のジャンルを見渡してみると、意外にもフィギュアスケートを題材にした作品は数少ない。滑りの疾走感や振付のスケール感など、漫画表現として高いレベルが要求されるハードルの高さはあるが、そもそもフィギュアのルールや仕組みを熟知している読者が少ない印象だ。そんな中、無名の新人が手がけたフィギュア漫画『メダリスト』(講談社)が、アニメ化が発表されるなど注目を集めている。なんの取り柄もない小学5年生の少女が、唯一大好きなフィギュアスケートを通じて、自分が決めた道へと突き進む覚悟が描かれる物語。周囲に大きな負担を要する独特なフィギュアの世界を通じて、登場人物の心の機微が丁寧に描かれている。作者のつるまいかださんは、「今の時代にこそ描きたいスポーツ漫画」と熱を込める。

『小学館漫画賞』『次にくるマンガ』など数々受賞…“無名の新人”漫画家の快挙

  • 『マガデミー賞2022』(ブックライブ)「主演女優賞」を受賞した主人公・結束いのり

    『マガデミー賞2022』(ブックライブ)「主演女優賞」を受賞した主人公・結束いのり

 フィギュアスケートが好きな小学5年生の少女が、金メダリストを目指して奮闘する様が描かれる漫画『メダリスト』。物語は、アイスダンスの夢やぶれた明浦路司(あけうらじつかさ)と、フィギュアスケートは大好きだが、何をしても取り柄がなく、周囲から見放された女子小学生・結束(ゆいつか)いのりがタッグを組み、誰よりも強いリンクへの執念でフィギュアスケート世界一を目指す内容だ。

 2020年に『アフタヌーン』(講談社)で連載開始して、ユーザー参加型のアワード『次にくるマンガ大賞2022』「コミックス部門」1位を獲得。今年は『第68回小学館漫画賞』「一般向け部門」を受賞するなどの注目作。そして主人公・結束いのりが3月、読者からの推薦をもとに漫画のキャラクターを讃える『マガデミー賞2022』「主演女優賞」を受賞した。数々の話題作からノミネートされたキャラクターがいるなかでの受賞であり、快挙と言える。

 作者は、同作がデビュー作の「つるまいかだ」さん。無名の新人の躍進は、業界でも注目される。

「『マガデミー賞』は他にノミネートされていたキャラクター達がみんな魅力的ですごすぎたので、いのりの受賞にはまさかと驚くと同時に、とても光栄でした。ありがたいことに昨年『次にくるマンガ大賞』を、今年『小学館漫画賞』をいただいて。ちゃんと「次にきた」漫画になれるよう、賞の名に恥じないように作品を盛り上げていかなければ…と思っていましたので、『マガデミー賞』に追い風を送ってもらった気持ちです」

 だが、この受賞に「とても嬉しいですが、もっともっと頑張らなくては」とつるまさん。連載前からタッグを組む編集担当者や、スケートのコーチ・選手ら、多くの取材協力者の労力に見合った恩に応えることに精一杯の日々。さらにこの度、念願だったTVアニメ化が発表された。「アニメを作ってくださる方々が『この作品に関わって良かった』と思えるような漫画にしたいです」と、新たなモチベーションにしている。

『メダリスト』アニメ化の発表も話題に(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

『メダリスト』アニメ化の発表も話題に(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

「才能なんて何もない」娘に言い放つ親の苦悩も…描きたかった心の機微

 つるまさんが漫画を真剣に描き始めたのは大学時代。自身でホームページを作成し、そこに自作をアップしていた。だが、自分がいいと思っている作品を、他人もいいと思っているとは限らない。作品を発表していく勇気が持てなかったが、まずは“作品を完結させて発表する”というハードルを課して、4コマ漫画に挑戦。その作品『鳴きヤミ』が、講談社の『即日新人賞 in COMITIA123』(2018年)で『アフタヌーン』編集部が選ぶ優秀賞を受賞した。ここからつるまさんの漫画家人生が始まった。

 しかしその頃は、スポーツものではなく、思春期の少年少女が登場する学園モノを書こうと思っていた。それは、自分自身も含めた人々の心の機微に興味を持ったことに始まる。
 子供の頃に、誰もが多かれ少なかれ経験する周囲との衝突。なぜあの子はあんなことを言ったんだろう、どうして自分はあの時こう言ったんだろう…。振り返っては考えてしまいがちだというつるまさんの感性は、『メダリスト』に登場するキャラクターの描写にも反映されている。ゆえに同作の魅力は、フィギュアスケートという競技を通じて細かく描かれる、キャラクターの心の機微にある。

 たとえば、「挫折して悲しむ姿が見たくないから」という理由で、フィギュアスケート選手になりたいという娘の願いをしりぞけてきた主人公の母親が、生き生きとリンクの上を滑っている娘の姿を見て「あの子を“できない”子だと決めつけてしまっていたのは他ならぬ自分だったのだ」と、涙を流し反省するエピソードは、名シーンとして読者から注目されていた。SFや能力バトルといった奇抜な展開ではないものの、感情をむき出しにして競技と向き合う迫力のスケートシーンは圧巻だ。

「子どもを守る大人の姿」を見せたい、今あるべきスポーツ漫画をフィギュアで表現

 そもそも、なぜこの時代に、スポーツ漫画の題材としては野球やサッカーに比べると、マイナーであるフィギュアスケートという題材を選んだのか。

「フィギュアスケートって、とても特殊な競技のように感じます。例えば、日本はフィギュアスケートの強豪国であり、世界のトップレベルの選手が国内に大勢います。だけど、詳細なルールはあまり知られていないし、選手が幼少期から氷の上で過ごしてきた日々までは、あまり多く語られない印象です。華やかな世界に見えますが、氷上競技という特性から、練習にはたくさんお金と時間がかかるし、コーチとの関係性も特殊。選手は1人で戦っているように見えますが、本当に大勢の人に支えられているんです。そういう関係性も含めて、今の時代にあったスポーツ漫画を描きたいと思いました。それと私の出身地である愛知県が、フィギュアの盛んな地域のひとつということもあって、地元貢献の気持ちもあります」

 同作では、いのりが努力を続けながら課題を乗り越えて、才覚を次々と発揮していく姿が描かれている。それを支えるコーチは、一見、過去のスポコン漫画に登場するような熱血タイプに見えるが、安全面や選手のメンタル、科学的根拠を考慮しながら、いかにパフォーマンスを上げていけるかを客観的に探る冷静なタイプ。指導者の熱量が行き過ぎて「パワハラ」や「ブラック指導」が叫ばれる時代、つるまさんが考える“今”描くべきスポーツ漫画は、あるべき大人像を描いているようだ。

「今も好きですが、子供の頃は特に、自分と同年代の主人公達が、大人顔負けの活躍をする作品に夢中でした。実際『メダリスト』も、初期段階ではいのりと『羊(よう)』という孤独な2人の少女が出会って、不遇な状況の中で一緒にスケートを頑張っていく物語を構想していました。でも『こんなに子供だけで頑張らなくてはいけないのか?』と気づきがあって。自分自身も大人になった今、物語の中で出会ってみたい、描いてみたいと思ったのは、子どもを守ろうとする大人の姿。そのために試行錯誤しながら成長していく大人が出てくる作品を描いてみたいと思い、そこからコーチの司というキャラクターが生まれたんです」

 『メダリスト』は、登場人物たちの人間的な成長もまた、見どころのひとつ。「自分も何かに挑戦してみたい」「誰かを応援したい」という前向きな気持ちを感じさせるポジティブなメッセージに、多くの読者が心掴まれているようだ。

【作品紹介】
『メダリスト』(つるまいかだ著)『アフタヌーン』(講談社)にて連載中
夢破れた青年・司と、見放された少女・いのり。でも2人には、誰より強いリンクへの執念があった。氷の上で出会った2人がタッグを組んで、フィギュアスケートで世界を目指す!
Twitter:漫画「メダリスト」(@medalist_AFT)(外部サイト)

TVアニメ『メダリスト』(外部サイト)
Twitter/TVアニメ『メダリスト』公式(@medalist_PR)(外部サイト)

【作者プロフィール】
つるまいかだ(外部サイト)
愛知県出身。四コマ漫画作品『鳴きヤミ』が、講談社の『即日新人賞 in COMITIA123』(2018年)で優秀賞を受賞。本作『メダリスト』がデビュー作となる。

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