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人気漫画キャラに変化の兆し、“天才”は不在? 「“努力する”という才能を持っている」キャラ人気の傾向

 フィクションが描かれる漫画の世界だが、そこで生きるキャラクターには時代が反映されるもの。登場人物に対する読者の共感ポイントも、時代とともに変化しているようだ。かつて人気の漫画キャラといえば、ずば抜けた能力を持つ天才的な主人公が、その才能を開花させながら活躍していくイメージだったはず。しかし近年の読者が支持するキャラに、“天才”は不在。夢を掴むことを信じ、地道な努力を積み重ねる主人公の泥臭い姿に、より支持が集まっているようだ。「超人」より「リアルな人間性」を求める読者の心理とは。

「漫画キャラから学んだ生きる姿勢」ヒット漫画『ブルーロック』の主人公が支持を集める理由

 読者の推薦をもとに、漫画キャラを称える『マガデミー賞2022』(ブックライブ主催)のノミネートキャラが発表。サッカー漫画『ブルーロック』やジャズ漫画『BLUE GIANT EXPLORER』、コスプレをテーマにした『その着せ替え人形は恋をする』など、様々なジャンルの話題作から揃った。

 とくに昨年のW杯開催もあり、この1年で『ブルーロック』は大きな注目を集めていた。「日本代表がW杯で優勝できるはずがない」とされる中、それを本気で成し遂げようとする高校生たちの物語。実際に、W杯で日本代表が強豪国を打ち破る快進撃を見せたと同時に、世界各国のTwitterで「Blue Lock」がトレンド入りし、「ブルーロックがリアルになった!」と作品が取り上げられていた。

 『ブルーロック』に登場人物するキーマンは、日本代表がW杯で優勝するために必要なのは、協調性でもチームの絆でもなく、「強烈なエゴ」と「圧倒的な個性」を持つ革命的なストライカーであると分析する。そこで、日本フットボール連合が立ち上げたプロジェクト「ブルーロック(青い監獄)」を計画。そこに集められた主人公・潔世一たち300人の高校生が、己を“エゴイスト”に変える蹴落とし合いの選別に挑んでいく。「サッカー×デスゲーム」を組み合わせた奇抜な物語だが、自己主張と個性は厳しい現実社会においても重要な要素。読者が共感できる要素は満載だ。

 「自分にも取り入れられそうなマインドや姿勢を、『漫画のキャラクターから学んだ』という読者はとても多いです。以前のスポコン漫画といえば、主人公にもともとの才能や血筋があったり、ある日突然に才能が開花したりして活躍する物語が多かったように思います。それが今の時代では、超人級のキャラクターというよりも、リアルな人間性を持ったキャラクターに支持が集まっているようです。自分を信じるためにどう努力するかという姿が描かれていて、主人公は“努力する”という才能を持っているんです」(『マガデミー賞2022』審査員/ブックライブ書店員「すず木さん」、以下同)

 主演男優賞にノミネートされた『ブルーロック』の主人公・潔世一は、まさに努力の天才だ。

 「彼は、他人と競うより“自分は自分”という考えを持っています。自分の持つ武器や才能は何か、持っているものをどう生かすかを追求します。敵は自分の中にあり、自分の弱さと戦うという考え方は、読者が活用できる要素も多そうです」
 自分を信じて、努力を続ける大切さを描く作品としては、主演女優賞にノミネートされた『メダリスト』の主人公・結束いのりも挙げられる。フィギュアスケートが好きな小学5年生の少女が、金メダリストを目指して奮闘する物語だ。

 「取り柄がなくて周囲から認められず、自分に自信が持てなかった少女が、フィギュアを通じて自分が決めた道へと進む覚悟を決めていきます。諦めない強さが魅力的に描かれたキャラクターです」

 苦しみや葛藤にもがきながらも、「わたしは恥ずかしくないって思いたいの!」と心の内を明かすセリフは、1巻の印象的なシーンで描かれる。自分らしくどう生きるかを軸に突き進む主人公の生き様は、手の届かない憧れではなく“等身大”として共感できる。そんなキャラクターが、読者の心を掴んでいるようだ。

『BLUE GAIANT』『ぼっち・ざ・ろっく!』にみる“音楽漫画”再ブームの到来

 これまでに数々のヒット作が誕生した音楽漫画。バンドやオーケストラをテーマにした『BECK』(講談社)や『のだめカンタービレ』(講談社)、恋愛と人間ドラマを描いた『NANA』(集英社)、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(小学館)、女子高生のきままなバンドライフを描いた『けいおん!』(芳文社)など、作風も様々に描かれた。

 そんな中、“正統派”の音楽漫画として注目の作品が、ジャズをテーマとした『BLUE GIANT』である。仙台に住む高校生が世界一のジャズプレイヤーを目指す物語で、現在はアメリカを舞台にした第3部『BLUE GIANT EXPLORER』が連載中。ジャズの面白さや臨場感を盛り込んだ画力が特徴で、音色まで伝わりそうな雰囲気を持つ作品だ。音楽業界では「読む音楽」として一目置かれており、17日に公開したアニメ映画『BLUE GIANT』では、音楽を世界的ピアニストの上原ひろみが担当した。

 「主演男優賞にノミネートされた主人公の宮本大は、実は心が折れるような挫折を味わっていないんです。ジャズを心から楽しみ、自分を信じて想うままに突き進んでいく。そんな憧れが読者にあるのかもしれません。宮本の自信を持って努力する姿は、周りに影響を与え、ジャズを通じて人脈もどんどん広げていく。ある種のカリスマ性も併せ持っています」

 一方、カリスマ性とは真逆なキャラクターが、主演女優賞にノミネートされた『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公・後藤ひとり。ギターを愛する高校生の少女が、ひょんなことからバンドにギターとして加入することになる4コマ物語だ。“陰キャ”で人と目を合わせて話すことすらできなかった彼女が、ステージ上で活躍していく成長が描かれる。

 「すごく熱い物語で、彼女がステージ上で活躍すると『よくばんばった!』と拍手を送りたくなるシーンが満載なんです。女の子のバンドものらしい要素がありつつも、今までの音楽漫画と違う点は、たとえば『NANA』や『けいおん!』は、メンバー同士が0からバンドを組んで、仲良くなってから和気あいあいと音楽を作り始めます。でも『ぼっち〜』の場合、主人公はギターが上手いのに、バンドを組むと、チームプレイに慣れていないせいで演奏がボロボロになるんです。才能はあるのに、コミュニケーション能力の低さで崩れてしまう。それでも好きなことに突き進むという心境が、とても現代的だと思います」

 『ぼっち〜』はアニメ化されており、同作に登場するバンド「結束バンド」が昨年12月に発売したCDアルバムが、「オリコン週間アルバムランキング」(1/9付)で1位を獲得するなど、メディアミックスも盛り上がりを見せている。

「ゲーマー」「コスプレイヤー」に憧れ、オタクカルチャーの“地位向上”漫画にも投影

 このほか、ゲームをテーマにした『シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜』の主人公・サンラクが主演男優賞、コスプレをテーマにした『その着せ替え人形は恋をする』の主人公・喜多川海夢が主演女優賞にノミネートされた。

 「ゲームやコスプレなど、ひと昔前には変わり者の趣味とされていたものが、ごく当たり前にメインカルチャーとして扱われるようになりました。その主人公がノミネートされたことに、時代性を感じます。読者からは『全力で趣味を満喫している姿が好き』といったコメントが多く寄せられていて、そこも自身を投影できる共感ポイントになっているようです」

 サンラクはゲームを心から愛していて、自分を楽しむことに天才的な才能を持っている。コスプレ好きの海夢は、クラスでカースト上位の美少女でいながら、エロゲーという趣味を純粋に愛する生粋の二次元オタク。恥じることなく“好き”という気持ちを表現していて、偏見を持たず誰でも受け入れる性格だ。ノミネートキャラクターにみる読者の心境について、すず木さんは、「他者評価が厳しい今の時代に、自己評価を大事にしているキャラクターに等身大の憧れを抱く読者が多いのでは」と指摘する。

 「他人がどう思うか気にしたり、人と自分を比べてしまったり、“他人軸”に振り回されることに疲れている方が多いのかもしれません。サンラクや海夢のようなキャラクターたちが支持されるのは、『自分らしく生きたい』という願望の現れなのかなと思います」

 今や漫画のキャラクターたちは架空の人物を超えて、読者にとってより身近に感じられる存在となった。そんな彼ら・彼女らに最大限の称賛を贈る『マガデミー賞2022』の受賞キャラクターは、3月15日に発表される。

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