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ジム、ズゴックに施した激しい“劣化表現”…モデラーがガンプラで制作した激戦の爪痕
ズゴックに寄り添う人間は、かつてのパイロット
「『ジャブロー攻略作戦』において、量産型ズゴックに搭乗し、出撃した若きパイロットがいました。彼は善戦するも、想像以上に激しい連邦軍の攻撃を受け、命からがら脱出。ズゴックは大破してしまいます。パイロットはその後、軍へ戻ることなく地球で静かに暮らすことになります。それから70年余り、時はザンスカール帝国の時代。帝国は巨大ローラー作戦を実施。その対象地域は、彼が軍を抜けて以降、暮らしてきた街も含まれていました」
アニメ『機動戦士Vガンダム』で描かれた、地球の建造物を踏みつぶし住人を虐殺する「地球クリーン作戦」。ズゴックに寄り添っているのは、そのパイロットだという。
「再び死の恐怖を感じた彼は、ズゴックで戦っていた当時を思い出します。『ジャブローに置いてきたあのズゴックはどうなっただろうか…』。気が付くと彼はジオン軍の軍旗を手に取り、街を出ていました。
わずかな記憶を頼りに置いてきたズゴックを探しますが、老体でジャングルを進むことは、予想以上に困難を極めました。ジャブローに入ってから数週間が経過し、食料なども底を付き、もはや気力だけでズゴックを探します。そんな時に、ようやく彼は朽ち果てた愛機に出会います。最後の気力を振りしぼりながら、ズゴックの上に乗る。そして、彼はズゴックに寄り添い、これまでの人生を語りかけ、最期を迎えました」
ガンダム、というと、ついモビルスーツにばかり目がいきがちだが、それを操縦する人間たちの生きざまを考えさせられる。
「無人で動くロボットなどもありますが、ガンダム作品に登場するモビルスーツ(MS)のほとんどは人が操縦しています。人とMSの関係性、どちらかが欠けしまうと何もできない、意味のないものになってしまう。そんな切っても切り離せない関係性を表現したく、この老人を置きました」
本作を作るにあたり、自身も戦争について深く考える機会になったという。
「サビや朽ちた感じを表現するために、現実世界で実際に放置されている戦闘機や戦艦の残骸を参考にしました。第二次世界大戦終戦から70年余り、このジオラマも、一年戦争から約70年後の世界をイメージしています。普段は、戦争やその歴史についてそこまで考えていませんでしたが、ジオラマを作るにあたって深く考えさせられました」
主役機ではなく、陰をクローズアップしたいという思い
「一年戦争“ア・バオア・クー”攻略戦の最終盤。戦闘が激化する中、物語は両軍のエース機、つまり<光>を中心に進んでいきますが、その裏で、名も無き兵士たち<陰>も、最前線で散っていった仲間を想い戦闘を続け、ドロドロとした戦場を這いずまわり、不格好でも任務を遂行していきます。そんな男たちの物語を表現しました」
<陰>と表現するにふさわしい哀愁漂うジムの姿が印象的だ。
「格好良く・強くなくても、不格好で弱々しくても、淡々と任務を遂行する<陰>を、<光>を超える存在に、表現したいと思い、見せ方を工夫しました。 次々に散って行く仲間、恐怖、絶望感、戦わないと生はない、生きるためにそこで戦う。そういう意味で、<光>ではなく<陰>に魅力を感じます。<陰>なくして<光>の物語は成立しません」
この1枚の「画」を撮るために、こだわったという。
「物語を切り取った1コマにするためのバランスは、こだわりました。やり過ぎるとわざとらしくなるし、控えめにするとリアル感が出ないので苦労しました。また、制作期間のほとんどはウェザリングでした。毎日毎日楽しかったですよ(笑)。
頭の中で物語を流し、着地地点を設定。流れの中でモビルスーツ(MS)を動かし、動き、存在感を感じながら組んでいきます。そうすることで勝手にMSが物語を作ってくれます。抽象的な言い方なんですが、この“脳内妄想”を一番大切にして模型活動を行っています。本作の場合、<陰>を主役にし、『<陰>の存在感を表現する為どうするのか?』を考え、ポーズもライトも何度も調整を繰り返し、イメージに近づけるために、レイアウト変更を繰り返しました」
こだわって制作した本作は、SNSで大きな反響があった。「とんでもない事件ですね(笑)。これだけ大反響があるとは思わず、ビックリです」と話すが、同氏はそこで生まれた交流を楽しんでいる様子。
「自分が制作したものをたくさんの方々に見てもらえ、共感してもらえる。『手持ちのジム作ってもらいたい』『待ち受けにしても良いですか』など思ってもいなかったコメント、ありがたいです。同じ趣味を持つモデラーさんとの会話楽しいです。本当にうれしいことです。
これからも、物語の1コマを切り取った臨場感、見ていろいろと想像できる作品を楽しみながら、『画』にこだわって制作したいと思います」