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「青い制服は別格…」丸亀製麺、“麺職人制度”なぜ導入? “チェーン店=味の均一化”の常識覆す匠の信念

「丸亀製麺の“青い制服の人”が作るうどんは、抜群においしい」。そんなSNSの投稿とともに、丸亀製麺で匠の技を発揮する「麺匠(めんしょう)」「麺職人」が話題となっている。丸亀製麺と言えば、国内外1000店舗以上を展開する讃岐うどん専門店。しかし、一般的な多店舗展開するチェーン店といえば、セントラルキッチンで調理して、それによって実現する「全国一律の味」がセオリーとされているはず。一辺倒の味ではなく、店舗ごとに個性を打ち出すことは、チェーン店のセオリーとは真逆の取り組みではないか。従来のチェーン経営とは異なる視点を持つ、丸亀製麺の“飲食チェーンの価値”とは何か。話を聞いた。

“安定のおいしさ”以上に“究極の一杯”、たった3人の「二つ星麺職人」を求めるファンも

 昨年11月、丸亀製麺が全国7店舗で、「麺匠と麺職人がうどんを打つ特別イベント」を開催した。「麺匠」とは、丸亀製麺のおいしさの軸を決め、質を維持させている匠のことである。この称号を持つのは丸亀製麺でもただ1人、和食料理人の経歴を持つ藤本智美さんだ。普段は店に立つことのない麺匠・藤本さんのうどんが食べられるとあって、イベントは連日行列の大盛況となった。

 「丸亀製麺では創業から現在も、すべての店で粉からうどんを打っています。かつては私が全店舗を回って技術や知識、うどんに向き合う姿勢や想いを継承してきました。しかし店舗が広がるにつれて、私1人で全国を隈なく回るのも物理的に難しくなった。そこで2016年より後進の育成として取り組んでいるのが“麺職人”の制度です」(藤本さん)

 麺職人の階級は、技術や熟練度によって「一つ星」から「四つ星」までの4つのレベルに分けられており、筆記と実技の試験によって称号が得られる。「一つ星」でも合格率は4割以下で、取得者は全国で1069名(2022年12月末現在)。「二つ星」に至っては、わずか3名という難関試験だという。

 麺職人は、通常の白い制服ではなく、襟や袖、帽子が紺色の制服を身に纏うことが許される。この“青い制服の人”がSNSで話題となったことから、麺職人のいる店を探して訪れる丸亀製麺ファンも増えている。

 「今のところはまだ、全店舗に麺職人を配置できていませんが、大前提として丸亀製麺の“安定のおいしさ”は、全店舗で提供しています。しかし、“安定のおいしさ”以上の、究極の1杯を目指したい。お客さまの思い出の1ページとなるような、感動していただけるような味を届けたいんです。そして、そんな高い志を持った仲間を増やすのが麺職人制度の目的です。決して落とす目線で審査しているわけではないですが、基準は下げないようにしています」

職人の“技術と知識”が不可欠なうどん、「完全にマニュアル化はできない」

 丸亀製麺ではうどんの製麺はもとより、だしや、サイドメニューに至るまで店内調理を徹底している。一般的な飲食チェーンのように、セントラルキッチンである程度まで調理をして各店舗に配送し、店舗スタッフの作業の簡略化やコストカット、人員削減を図る方法からすると、極めて非効率なスタイルと言える。

 「それは私たちが、“生きているうどん”にこだわっているからです。うどんの材料は、小麦粉と塩、水だけ。シンプルな材料だからこそ、その日の気温や湿度、材料の状態によっておいしさの差が大きく出ます。熟成時間もその日ごとに微調整が必要。完全にマニュアル化はできない、ようは職人技の要素がうどんにはたくさんあるんです」

 大規模なチェーン店で、国内800もの店舗で店内製麺を実現しているのは丸亀製麺だけ。それを支えるのが麺職人制度なのだが、マニュアル化できないということは、店舗によって味のバラツキが生じることにもなりかねないだろう。全国一律の味が飲食チェーンのセオリーだが、その点はどう考えるのか。

 「私は逆に、それが丸亀製麺の面白さだと捉えています。もちろん丸亀製麺のおいしさの基準は、どこのお店でもクリアしています。しかしその中でも、『私は丸亀製麺の○○店が好き』、『麺職人の○○さんのうどんが好き』といったほんのちょっとの好みの違いが、お客さまにとってご贔屓店に繋がると思うんです。金太郎飴を切ったようなチェーン店を増やしている感覚はなく、地域に根ざして愛されるお店を1つずつ増やしていきたい想いで指導しています」

人材育成の理念に“おせっかい”へのこだわりも

 藤本さんは現在も、月の半分は全国の店舗を巡り、麺の状態や味、接客の様子を確認している。舌を鋭敏に保つため、プライベートの食事は野菜中心を心がけているという。

 「大変というよりは、仲間たちが成長していく喜びのほうが大きいです。麺職人制度に憧れて入社する若手社員やアルバイトさんもいて、腕のいい職人も増えました。いつか、麺匠の称号を継承する日も来るでしょう。

 丸亀製麺の、完全にマニュアル化されない取り組みは、麺作りにとどまらない。例えば、店舗スタッフの行動指針として掲げている“おせっかいへのこだわり”もその1つ。来店客が何かに困っていたり、不便そうにしたりしているときは積極的に声をかけるなどの心遣いもマニュアルに書かれているのではなく、スタッフ1人1人が自発的に行動を起こしているものだ。

 「丸亀製麺の店内は、お客さまが調理の様子を360度見渡せるオープンキッチンになっています。お客さまとの距離が近いからこそ、自分が作ったうどんを味わっていただく喜び、『ごちそうさま』の一言のありがたみを深く受け止める従業員が、丸亀製麺には多いのではないかと思います」

 藤本さんの人材育成の理念は、「人と人の繋がりの大切さを教えること」。これもまたマニュアルだけでは伝えきれないものだ。

 「チェーン店であろうと個人店であろうと、味だけでなく人の温もりをお届けするのが飲食店であると私は考えています。技術や知識だけならマニュアルでも覚えられますが、人としての考え方やうどんとの向き合い方まで現れる“究極の1杯”を作る職人技は、人にしか伝えられません。いかに非効率であろうと、丸亀製麺はそこを愚直に貫きたいですね」

 2022年は、一般消費者が選ぶ『顧客体験価値(CX)ランキング』(インターブランド社)の首位を獲得。星野リゾートや全日空、ディズニーといったそうそうたるブランドを抑えての快挙だった。効率重視が叫ばれる現代において、とことん手作りにこだわり、人間味あふれるサービス。さらにコロナ禍によって人と人との繋がりはますます希薄化した。丸亀製麺への高評価は、企業が効率を追求する一方で、一般消費者が置いてけぼりにされてきたことへのアンチテーゼにも捉えられそうだ。

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